「オッパイがついているが…」現役女性自衛官セクハラ被害で国を提訴 「上司と部隊」職場の“もみ消し”対応も

榎園 哲哉

榎園 哲哉

「オッパイがついているが…」現役女性自衛官セクハラ被害で国を提訴 「上司と部隊」職場の“もみ消し”対応も
東京地裁に入廷する原告弁護団(6月8日霞が関/撮影:榎園哲哉)

静まり返った東京地方裁判所(東京・霞ヶ関)の第103号法廷。席を埋めた傍聴人が裁判開始の時を待った。航空自衛隊の現役女性自衛官Aさんが自身のセクシュアルハラスメント被害の国家賠償を求めた裁判の第1回口頭弁論が6月8日に行われ、原告のAさんと、6人の弁護団のうちの代表2人が意見陳述を行った。

陳述によれば、Aさんは朝はパン屋、夕方から夜にかけてはスーパーの紳士服売り場でパートとして勤め、独学で英語を学んでいた。その頃、紳士服売り場にたまたま服を買いに来た元海兵隊員に、「あなたの英語は必ず自衛隊で役に立つ」と勧められ、自衛隊を志した。しかし、自衛隊で英語を活かして働きたい、という思いは裏切られた。

航空自衛隊に入隊し、2010年9月から那覇基地で勤務を始めたが、配置された部隊で、着任直後からおよそ2年半近くにわたって古参隊員(以下加害者)に性的暴言を受け続けた。それは、「Tシャツを着ているとちゃんとオッパイがついているが、上着を着ると、お前、リバーシブルだよ」など、主に身体や性行為に関することだった。

別基地への荷物が届いていないことに腹を立てた加害者に、何の落ち度もないのにもかかわらず、「美保行きの荷物はどうなってるんだ馬鹿野郎。○○(交際者)とやりまくって業務をおろそかにするんじゃねえよ」と、八つ当たりされたこともあった。

加害者に味方した上司と部隊

上司らへ救いを求めるため発したSOS信号は、むしろAさんをより苦しめることになった。加害者に求めた「書面による謝罪」が実現するどころか、上司・部隊はセクハラがなかったように取り繕おうとした。

Aさんは実名にし、加害者は匿名にしてハラスメント研修の教材にされるなど、言わば厄介者扱いされ、心理的に追い詰められていった。あろうことか上司・部隊はAさんではなく、加害者に味方した。

部隊での改善がないため、Aさんはこれまでに、解決を求め航空幕僚監部(航空自衛隊司令部、東京・市ヶ谷)のセクハラ相談室、防衛省人事教育局のセクハラホットライン、さらには自衛隊制服組トップの統合幕僚長にも通告を行っている。

部隊・組織が見て見ぬふりをし、もみ消しを図ろうとする中、Aさんは解決の糸口、自らの人権を守る糸口を司法に求めた。2016年1月、加害者を那覇地裁に提訴。しかし翌17年9月、地裁は「社会的に相当な程度を超えて原告の人格権を侵害する違法なセクハラ発言に当たると判断される」とするも、「仮に違法であったとしても公務員個人である被告が不法行為責任を負うことはない」という判例を基に、請求は棄却された。それを受けAさんは、国を提訴する国家賠償請求によって戦う決意を固めた。

女性自衛隊員増加への課題

自衛隊はこの30年ほどで大きくその姿を変えている。派遣当初は「自衛隊を海外へ派遣するのか」と猛反発もあったPKO(国連平和維持活動)への参加は今、当たり前のようになり、国際貢献に参加したい、という動機で入隊する若者も少なくない。東日本大震災(2011年)や熊本地震(2016年)など多くの災害派遣活動の実績も認められ、内閣府が3年おきに実施している「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」(2023年)によれば回答者の9割が自衛隊に「良い印象」を持っている。

女性隊員の進出、活躍が増えていることも大きな変化の一つだ。政府の女性活躍推進の施策も受けて、これまで母性保護の観点などから設けていた部隊等への配置制限を解除。男性に限定されてきた職種に女性も就くようになり、陸上自衛隊の最精強部隊・空挺団の隊員、航空自衛隊の戦闘機パイロット、海上自衛隊の潜水艦乗員、も誕生している。

一方で、女性隊員に対するセクハラ被害も少なからず起きている。五ノ井里奈さん(元1等陸士)が複数の男性隊員からのセクハラ行為を訴えたのは記憶に新しい。もとより軍事組織は男性が中心で、女性は弱者的立場にもある。陸上、海上自衛隊の前身の旧日本軍には女性はいなかった。筆者はある女性幹部自衛官から「お前たち女性はいらないんだよ、と言われたことがあった」と打ち明けられたこともあった。セクハラ対策は自衛隊の女性隊員増加における課題と言える。

「最悪の道を非常に残念に思う」

記者会見にのぞむ現役自衛官のAさん(6月8日霞が関/撮影:榎園哲哉)

今回の訴訟の意義・目的として、弁護団は、①被害者の救済(被害配慮義務等の安全配慮義務)と名誉回復、②自衛隊のセクハラ防止の様々な措置(特別防衛監察含め)が有効に機能していないことへの警鐘、③隊員がハラスメントを訴える際は加害者個人の責任を問えず、国相手の裁判を覚悟するほかはないなど、国賠訴訟を含む救済についての本質的問題の解決、を挙げている。

弁護士の一人は陳述で、「最も原告(Aさん)を苦しめたのは、その(セクハラ)後の職場の対応です。申告したにもかかわらず、認定されず、配置転換などもなされず、何ら対処されませんでした。のみならず、セクハラを防止する立場の隊長や総括班長、セクハラ相談員が率先してもみ消しをしようとしました」と語った。

Aさんは、静かにしかし強くこう述べた。「加害者に謝罪をさせ、隔離処置を適切に行っていればこの問題は解決し、このように組織の醜態を表に出さずに済んだはずです。私が今日ここ(東京地裁)に立っているということは、組織のセクハラ対処が最悪の道をたどったということであり、非常に残念に思います」。

有事の際は、「最後の砦」として国民を、国家を守る防衛省・自衛隊。真に信頼される組織になりうるか。その覚悟が今、問われている。

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