ジャニーズ性加害問題で浮上「男性“性被害”」の実態…被害者の7割が“口閉ざす”理由とは?

弁護士JP編集部

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ジャニーズ性加害問題で浮上「男性“性被害”」の実態…被害者の7割が“口閉ざす”理由とは?
性被害を受けた男性のうち7割が被害を「誰にも」相談していなかった(bee / PIXTA ※写真はイメージです)

故ジャニー喜多川氏による性加害の報道をきっかけに、これまで明るみに出ることが少なかった「男性の性被害」にも注目が集まっている。

男性の性暴力被害の実態について、2022年度に厚生労働省による初の実態調査が行われたとされるが調査結果は現時点でまだ発表されていない 。

男性の性被害について研究する公認心理師の宮﨑浩一氏は、研究論文で〈人口に対する被害の割合を示せるほどの大規模な調査は行われていない〉と前置きした上で、これまで国内で行われた学術調査などを概観し、男性の20~30%ほどがセクハラなど何らかの性的な被害を、0.4~1.5%はレイプ相当の性暴力被害を受けている可能性があると指摘している。

一方で、性暴力被害者からの相談に応じている「性暴力救援センター 日赤なごや なごみ」では、2016年1月5日の開設日から2023年3月31日までの時点で、1057名との面談を行ったが、そのうち男性は27名と、相談件数全体の3%にも満たなかったという。

「性暴力救援センター 日赤なごや なごみ」が入る日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院(病院Facebookより引用)

相談がない=男性の性被害は少ない?

しかし、相談が少ないから男性の被害者が少ないという訳ではないようだ。内閣府男女共同参画局による白書(2020年度)によれば、性被害を受けた男性のうち実に7割が被害を誰にも申告・相談していなかったという。

「なごみ」で男性被害者の相談にも応じてきた山田浩史医師(泌尿器科)も、「男性にとって性被害を相談することは敷居が高く、潜在化している性暴力被害も必ずある」と話す。被害が表ざたになりにくい理由を、以下のようなパターン別に説明する。

「潜在化している」男性の性被害について説明する山田浩史医師(弁護士JP編集部)
  • 親や兄弟から被害を受けていて、表ざたにすることによって家庭生活が壊れてしまうのではと考え我慢してしまう。
  • 学校生活や部活などで、慣習的に行われていることだから耐えるしかないと思い込んでしまう。
  • 相手が喜ぶことで、自分が従うことは良いことだと思ってしまう。
  • 「レギュラーにしてあげる」「昇級させてあげる」等、従うことで自分にも対価があるようなことを言われている。

男性は“被害の事実”を受け入れるのに時間が必要

さらに、山田医師は男性の相談数が少ない要因のひとつとして、「妊娠リスクがないこと」を加える。

「女性には妊娠というリスクがあるため、性行為を伴う被害の場合、被害直後(72時間以内)に相談に来られて即避妊処置・検査などを行うことが多いです。しかし、男性にはそのリスクがないこともあって、重大な被害であっても“事実”を受け入れるまでに女性に比べて時間がかかるという傾向があると思います」(山田医師)

山田医師は、相談数の少なさには“日本社会における男性をとりまく環境”も少なからず関係しているという。

「『男性は強くて泣かない』という“イメージ”や、『被害を訴えることで同性愛者だと思われてしまうのではないか』という“世間体”も被害を相談する足かせになっていると感じます。また、ジャニー氏に関する報道でもわかるように、SNSでは声をあげた人たちに対する誹謗中傷が起こります。これも声をあげようとする人の足を引っ張る行為だと思います。誹謗中傷をしている人には、もし家族や友人が性被害に遭ったとして、面と向かって同じ言葉を言えるか考えていただきたいですね」(山田医師)

被害者に言ってはいけないこと

もし、自分の身の回りで性被害を見聞きしたり、被害者から相談を受けた場合どう対応すればよいのだろうか。

「隙があったんじゃないか」。

「お前にも悪いところがあったんだろう」。

これらは、性被害者に「言ってはいけない言葉」として、山田医師がまず挙げた例だ。

「その人の生き方や存在を責めたり否定したりするような言葉、被害者の気持ちをないがしろにするような発言は絶対してはいけません。他にも、『我慢しろ』と言ったり、“ちゃかす”のもよくないです。被害者が声をあげたらSOSだと思って、真剣に受け止める必要があります」(山田医師)

「なごみ」でソーシャルワーカーを務める坂本理恵氏は、被害者から相談を受けた際の適切な対応を次のように説明する。

「もし被害の話を聞いたら、まずはとにかく『話してくれてありがとう』と伝えてほしいです。本当に信頼されていなければ、被害者は被害のことを話さないですから。その上で気をつけなければいけないのは、二次被害を起こさないようにすることです。急に特別扱いする、腫れ物に触るような扱いをするということは避けてください。そして、全国にある“ワンストップ支援センター”と被害者をつないでいただけるとありがたいです」。

「被害者にも加害者にも傍観者にもさせない社会へ」と語るソーシャルワーカーの坂本理恵氏(弁護士JP編集部)

過去の被害でも「遠慮なく相談を」

ワンストップ支援センターとは、性暴力被害者に対する医療、相談・カウンセリング、捜査・法律関連などの総合的なサポートを、1か所(※)で提供する支援施設のことだ。性別や性的指向に関わらず被害者の支援を行っている。

(※)当該支援を行う関係機関・団体等に確実につなぐことを含む。

また、被害者本人だけでなく、相談を受けた家族や友人、異変に気付いた教員らからの相談も受け付けているという。通話料無料で最寄りのセンターにつながる番号は全国共通で「#8891」(はやくワンストップ)だ。

内閣府男女共同参画局サイト(https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/consult.html)より

さらに、ワンストップ支援センターでは「過去」の性被害の相談も受け付けているという。

「先にお話しした通り、特に男性は事実を受け入れるのに時間がかかる傾向があります。ジャニー氏からの被害を告発された人の中にも、時間がたったから話せるようになったという人がいらっしゃるのではないでしょうか。被害を話すことはとても大事なことで、頭が整理され、心のケアに繋がります。過去のことでも遠慮なくご相談ください」(山田医師)

事件化するにはスピーディーな対応を

しかし、過去の性被害については、刑事事件化(※)することが難しい実態もある。

(※)改正刑法(2017年7月施行)で「強制性交罪」「準強制性交罪」の被害者に男性が含まれた。口腔性交などの性交類似行為も対象。令和3年には、強制性交58件、強制わいせつ172件が男性に対する犯罪被害として報告されている。

「事件化するためには、むしろ女性よりもスピーディーに対応する必要があると感じています。たとえば肛門に射精された場合、着の身着のままで来ていただければ、一番の物的証拠になりますから。

被害を受けた人が“どこに相談していいかわからない”と感じてしまうこともまだ多いので、われわれとしても、すぐに相談をしてもらえるよう、ワンストップ支援センターの存在をもっと周知していかなければと考えています」(山田医師)

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