「夜も眠れない…」都心ホテル増加する“トコジラミ”被害を客が訴え…虫刺され「治療費」“宿泊施設”に請求できる?

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

「夜も眠れない…」都心ホテル増加する“トコジラミ”被害を客が訴え…虫刺され「治療費」“宿泊施設”に請求できる?
トコジラミは宿泊施設での被害が多い(charly / PIXTA ※画像はイメージです)

SNSを中心に「トコジラミ(南京虫)」が注目を集めている。

ゴールデンウイーク中、新宿歌舞伎町のビジネスホテルに宿泊した女性がトコジラミと思われる虫に刺されたとしてTwitter上に患部の写真を投稿、話題となったことが発端だ。最初に投稿されたツイートはすでに削除されているが、その後もトコジラミに刺された経験がある人や、宿泊施設に泊まる予定があり不安を持つ人などが相次いでトコジラミについての投稿を行った。

東京都福祉保健局によれば、昨年はトコジラミに関する相談は281件寄せられたという。相談件数は令和元年をピークに減少傾向にはあるものの、平成17年(2005年)に比べればおよそ10倍にものぼる。

(東京都福祉保健局発表のデータをもとに弁護士JP編集部作成)

身近に潜む「トコジラミ」の恐怖

成虫の体長が5~8mmほどのトコジラミは、江戸時代末期に外国船によって日本に持ち込まれたとされ、低温と飢餓に強く、北海道から九州まで全国に生息している。第2次世界大戦後から1960年代頃までは、都市部のアパートなどで発生していたが、その後、生活環境の改善や殺虫剤の使用により被害は減少。しかし、上グラフのように2010年頃から再び相談件数が増えている。

トコジラミ(成虫)の体長は5~8mm。“吸血後”は膨らみ(左)1cm弱ほどになる。(写真提供:国立感染症研究所)

訪日外国人や海外旅行・出張が増加したことなどが要因とされ、荷物や衣服のすき間に卵や幼虫、成虫が付着した状態に気づかず日本国内に持ち込まれるケースが多いようだ。国内では、都市部の宿泊施設を中心に被害が広がり、さらに人や物の移動によって一般住宅でも発生している。

トコジラミに吸血されると、「激しいかゆみ」や「発赤」などのアレルギー反応が出る。世田谷保健所によれば、刺されても数回はかゆみがない場合が多く、何度も刺されることで「夜も眠れないほどのかゆさ」を感じる状態になるのだという。初期段階において、人がトコジラミの存在に気づかないうちに繁殖し、被害が拡大してしまうケースもある。なお、環境の衛生状況には関係なく繁殖するという。

吸血後に血糞をするトコジラミ。この血糞によってトコジラミの発生に気づくことが多い。(写真提供:国立感染症研究所)

一度繁殖してしまうと「駆除」が難しいことも特徴だ。一般家庭で使用する殺虫剤がきかない「スーパートコジラミ」、国内で承認されている“すべての殺虫剤が効かない”「ネッタイトコジラミ」の被害も確認されており、各自治体では駆除について業者への依頼を勧めている。

ホテルでトコジラミに刺されたら“治療費”請求できる?

宿泊施設での被害が多いトコジラミ。「旅行先のホテルなどでトコジラミに刺された」場合、施設に対して治療費を請求することはできるのだろうか。また、「ホテルからトコジラミを持ち帰り、家で繁殖してしまった」という最悪の事態が起きた場合、駆除にかかった費用を損害賠償として求めることはできるのか。

国内旅行業務取扱管理者の資格を持つ、沢津橋信二弁護士に話を聞いた。

ホテルなどの宿泊施設でトコジラミに刺され、かゆみやじんましんなどのアレルギー反応が出てしまった場合、治療費を宿泊施設に請求することは現実的でしょうか?

沢津橋弁護士:かゆみやじんましんなどの身体障害が出て治療費が発生した場合、ホテルに治療費を請求することは現実的に可能です。

宿泊者とホテルは「宿泊契約」を締結します。宿泊契約とは、ホテル側の宿泊という仕事の完成に対して、お客が対価を支払う契約です。これは、ただ単にホテル側が「お客を泊めればいい」というものではありません。ホテル側は、お客を宿泊させるにあたって、お客の生命身体に障害を与えないようにする債務を契約上負っていると考えられます。したがって、ホテル側の責めに帰する事由(故意、過失のこと)で、お客にトコジラミ被害の治療費を負担させた場合は、契約を果たさなかった「債務不履行責任」として治療費を請求できます(民法第415条1項)。

また、ホテル側はお客の生命身体に障害を与えないために、シーツやカーテン、じゅうたん等、室内を毎日清掃するのが当然であり、トコジラミがいることに気づけるはずなので、故意、過失も認められると思います。そのことから、ホテル側の「不法行為責任」で治療費を請求するということも考えられます(民法第709条)。

自宅で繁殖してしまったら…弁護士「賠償請求考える」

宿泊施設から気付かないうちに荷物などと一緒にトコジラミを持ち帰り、家で繁殖してしまった場合は、駆除にかかった費用を宿泊施設に損害賠償請求することはできますか? 海外とは法律も異なる可能性がありますので、国内の宿泊施設から持ち帰った場合として教えてください。

沢津橋弁護士:現実的には難しいと思います。駆除にかかった費用も、「債務不履行責任」や「不法行為責任」を根拠に請求していきますが、これらにはホテル側のトコジラミによって被害が発生したという因果関係が必要になります。

ホテル側が「本当にうちのトコジラミで繁殖したんですか?他のとこからトコジラミを持ってきたのでは?」と反論してくることが想定できますが、こう言われた場合、立証するためにもう一度ホテルに泊まってトコジラミがいるか確認するわけにはいきませんし、現実的には難しいと思います。

トコジラミが繁殖して被害が出るまである程度の期間が必要になりますが、ホテルに宿泊してから被害が出るまでの期間が長くなればなるほど、請求するのは難しくなります。

先生がもし宿泊先で、トコジラミに限らず害虫の被害にあった場合、治療費などの請求は検討しますか? 

沢津橋弁護士:私はあまり病院に行く方ではないですし、市販のムヒなど虫刺され用の薬で治る程度であれば、蚊にたくさん刺されたと考えて請求まではしないと思います。

ただ、トコジラミが自宅で繁殖してしまった場合は、請求すると思います。自力での完全駆除は難しいという性質上、業者に依頼しなければなりませんし、殺虫剤が効かないような種類であれば引っ越しをしなければなりません。家財も新居に持ち込めないとなれば、買い替えでさらに多大な費用がかかります。先の質問でお答えした通り、宿泊施設側が反論してきた場合は難しそうですが、向こうが自発的に賠償してくれる分にはいいので、交渉の余地はあると思います。何とか交渉はしてみたいと思います。

取材協力弁護士

沢津橋 信二 弁護士
沢津橋 信二 弁護士

所属: ベリーベスト法律事務所 津オフィス

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア