発行部数ピーク時の“半分以下”…「新聞苦境」が社会に与え得る深刻な“悪影響”とは

弁護士JP編集部

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発行部数ピーク時の“半分以下”…「新聞苦境」が社会に与え得る深刻な“悪影響”とは
日本新聞協会に登録されている新聞・通信社は123社(※2023年5月現在 けむし / PIXTA)

新聞の購読部数の減少が止まらない。この20年間、一貫して部数を減らしてきた新聞だが、2000年には発行部数、約5370万部(一般紙+スポーツ紙)を誇っていた。しかし、2022年は約3000万部にまで減少。実に45パーセントの減少である(一般社団法人日本新聞協会調べ)。

部数はピーク時の半数以下

協会データでも示す通りこの5、6年で新聞各社は存続の危機に立たされてしまっているような状況にある。とりわけ厳しい状況に立たされている新聞社のひとつが朝日新聞だ。2022年日本新聞協会の発表によると発行部数は約397万部となっている。2014年のピーク時の購読者数約800万部から半分以下にまで落ち込んだことになる。

また、朝日新聞は、この5月1日から値上げを実施した。朝夕刊セット版の月ぎめ購読料は4400円から4900円。統合版は3500円から4000円に(いずれも税込み)。値上げ理由は、「原材料費の高騰などの影響のため」としている。

朝日新聞社が公表している決算データの推移を検討すると新聞事業は今後、存続可能なのかという危惧を抱かざるを得ない。新聞社各社は新聞離れのなか厳しいとは言われながらも2000年代2010年ぐらいまではそれなりに経営的に安定はしていた。そこからこの10年ほどで一気にビジネスの継続が難しいのではという状況に陥っている。

新しい購読者の獲得や維持に取り組んでいるが…

これまでにも指摘されているように、インターネットやスマートフォンの普及、読者の高齢化、媒体の多様化と様々な要因が、新聞の購読者減少に影響しているとことは間違いないだろう。その中で、新聞社もデジタルメディアへの移行を進めるなど、新しいビジネスモデルを模索しているのも事実だ。デジタルメディアによる情報配信や、読者とのインタラクティブなコンテンツなどのサービスを提供することで新しい購読者の獲得や維持に取り組んでいる。

しかし、2014年頃からの減少ペースが直線的で、この勢いのまま減っていくのではという推測がつく。売上原価も、有価証券報告書のデータを用いてトレンドの推移をみると原価割れを起こす時点が近いのではということも見て取れる。つまり新聞を刷れば刷るほど赤字になり、新聞発行は続いているけど赤字事業に陥る可能性があるということだ。

新聞の衰退による社会への悪影響とは?

では、新聞の存続が危ぶまれるということは、私たちにどのような影響を与える可能性があるのだろうか。

第一に危惧されるのは、『ニュース・情報の品質の低下』だ。新聞社は購読者からの収入に頼っているため、その収入が減ると、報道に投資する余裕がなくなる。その結果、新聞社は記者の数を減らし、記事の品質の低下につながりかねない。

新聞は政治、経済、社会、国際、文化、科学、生活情報、スポーツ、医療、地方と非常に幅広い分野の情報を日々取材している。社会面を例に取れば、社会部には全国の「警察本部記者クラブ」をはじめ、「警視庁記者クラブ」、「司法記者クラブ」、「都庁記者クラブ」など多くの記者クラブがあり、そのクラブには担当記者のほかにキャップやサブキャップが置かれている。

担当記者が書いた記事は、まず〈サブキャップ〉や〈キャップ〉が手直しし、部門の〈デスク〉に。デスクが直した原稿は、見出しをつけ紙面を構成する〈編成部〉、〈校閲部〉へと確認に回り、その時点では編集局内で確認される。

紙面に取り上げられる記事はこれだけの人間の眼を通してチェックされているわけだ。この信頼性を担保する作業に関わる記者の人数が減少すれば新聞の質の低下を招くことは避けられないであろう。

第二には、『偏った情報』。新聞は報道機関の中でも比較的多くの購読者を持っているため、多様な視点からのニュースを提供している。しかし、購読者が減ると、新聞社は一部の読者層に合わせた情報を提供する可能性があり偏った安易な情報提供になる可能性がある。

前述の通り、新聞の制作過程には多くの記者が関わり、多面的な見方がそこには反映されるプロセスが存在する。その根幹となる多面性が失われることになれば、そこには偏りが生じる危惧がある。

第三には『メディアの多様性減少』。新聞が衰退すると、オンラインメディアやソーシャルメディアが情報源の中心になる。しかし、これらのメディアはしばしば偏った情報を提供し、信頼性が低いケースも少なくない。オンラインメディアの中には、ウェブ上の情報ソースをそのまま利用することもあり、裏取りのなされた情報でない場合もあり得る。

間違いが訂正されず、その情報がさらに別のサイトで発信されてしまうなどということも生じる。

第四に『地方の情報の伝達減少』。地方のニュースは、地元の新聞が提供することが多いため、新聞が減少すると地方の情報の伝達が困難になり、地方の情報が伝わらず、地域社会の問題に注目がなされず、社会課題として取り上げられる機会が減り、解決されないままになる可能性が生じる。新聞の衰退は、報道の品質や信頼性、情報の多様性、地域社会の問題解決など社会に対して悪影響を与える可能性があるわけだ。

新聞は、情報を伝える手段として重要な役割を果たしてきた。多様な意見が受け入れられ、公共の問題についての議論や批判的な意見が発信されることによって、よりよい施策や改革が進められることが期待もされていた。

新聞業界が完全に消滅することはないと思いたい。ただし、新聞社もビジネスモデルの変革は必要だ。今後も、読者ニーズに応えることや、社会的課題を率先して取り上げることやデジタル化によって新しいビジネスモデルを確立することが急務で、新聞業界は変化に対応し続けることで存続するものと期待したい。

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