【不倫裁判】妻の浮気「探偵調査」費用207万円を慰謝料とともに請求も…裁判所が「認めなかった」ワケとは?

林 孝匡

林 孝匡

【不倫裁判】妻の浮気「探偵調査」費用207万円を慰謝料とともに請求も…裁判所が「認めなかった」ワケとは?
裁判所は妻と浮気相手の不貞行為は認めたが…(beauty-box / PIXTA)

「妻が浮気をしている」

と確信。Xさんは探偵を雇って現場を押さえました。かかった探偵費用はナント207万円。しかし、裁判所は…。

裁判所
「探偵費用ちょい高すぎ」
「10万円だけ認めます」

大赤字!裁判所はなかなか全額を認めてくれません。実際にあった浮気裁判とともに解説します(東京地裁 H25.5.30)(弁護士・林 孝匡)。

※ 事案を簡略化、判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています

登場人物

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▼ 原告(Xさん)
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・男性(当時42歳くらい)

ーーー 何でブチギレてるんですか?

Xさん
「私の妻が家を出て行ってマンションを借りたようなんですが」
「そのマンションで男と同棲してます」
「その男Yさんに損害賠償請求します」

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▼ 妻(Aさん)
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・当時37歳くらい
・子ども2人
・結婚13年目で家を出る

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▼ Yさん
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・男性(当時55歳)
・独身(離婚歴あり)

出会いから別居まで

まずは、Xさんと妻の出会いから別居までをザッと。

H8 結婚
H9 長女が生まれる
H15 長男が生まれる

妻Aの言い分によれば、H11ころから「この人、もう…無理」と考えていたようです。

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▼ ラブストリーは突然に!
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H19
妻Aがパートタイムで働きに出たところ、その職場でYさんに出逢います。はっ!この瞬間、小田和正の名曲が2人の間に流れたことは容易に推察できます。

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▼ あなた、別れてほしいの
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H21.7
妻Aが離婚を切り出します。離婚届をXさんに渡しましたが、Xさんは応じず。

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▼ さよなら
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翌月、ついに妻Aが子供2人を連れて家を出ました。マンションを借りて別居スタート。 

バトル!

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▼ 同棲してたのか?
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Xさん
「妻のマンションにYさんが転がり込んで同棲しています」
「不貞行為なので損害賠償請求します」

Yさん
「同棲していません」

同棲が認定されたらTHE・ENDです。

ーーー 裁判所さん、どうですか?

裁判所
「同棲してるね。だって見てよ、Yさんの以下の書き込み」

■ おそらくSNSへの書き込み
「昨年の8月から人妻と子ども2人と一緒に住んでいます」
「長女は中学1年生、長男は小学1年生、38歳の彼女は離婚調停中」
「今の所とても幸せにしています」
「長女にはエレキギター、長男にはサッカーとバスケットボールとテニスを教えています」
「今日もクタクタ」(写真もアップ:Aさん・長男・長女の映った写真)
「昨晩、息子の誕生日を口実に、シャンパンのマグナムボトルを3本も飲んでしまった」
Aさんのこと「ワイフ」と呼んで書き込んでいた

これはもうアウツですよね(どのSNSかは分からないんですが、おっさんポエム炸裂 & 誰が興味あんねんレベルの高さからするとFacebookかな〜)。

ーーー Yさん、不服そうですが、反論はありますか?

Yさん
「実はAさんと付き合っていないのです。この書き込みは、当時付き合っていた名古屋の女性●さんが私をあきらめるよう持っていくための作戦だったんです。【Aさんと付き合っている】と書き込んだら、●さんが私をあきらめてくれるかなと思って」

ーーー なるほど。名古屋の女性と別れるための画策だったと。裁判所さん、どうですか?

裁判所
「Yさんの言い分は信用できないですね。本人尋問でYさんは『別れようと思ったのは、東京にいた2人と、それから広島の女性ですね』と供述しており…いや名古屋じゃないんかい!てなわけで、Yさんの供述は不合理というほかない」

何人と付き合っとんねんw。全国で暴れてますね。裁判所での尋問はメッサ緊張するので、パニックになって真実を吐いてしまったのかもしれません。

裁判所
「あと、以下の事実をみても同棲してるっぽいじゃん」
・YさんはAマンションへの転送届を郵便局に提出
・Yさんの運転免許証の住所をAマンションに変更
・YさんはAマンションに頻繁に出入りしている
 (おそらく探偵の調査報告書から認定)

これらを理由に裁判所は「同棲してるね。肉体関係を伴う不貞関係にあったね」と判断しました。

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▼ X、A夫婦はオワっていたのか?
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Yさん
「AさんとXさんとの婚姻関係はすでに破綻していましたよ。Aさんは10年くらい前から『夫が威圧的で恐怖。結婚生活を続けていくのは無理』と考えていたんです」

■ 解説
夫婦関係が破綻していれば浮気にはならないんです。浮気裁判でカナリの確率で出てくる言い分です。

ーーー 裁判所さん、夫婦関係は破綻していましたか?

裁判所
「いや、破綻してないね」

ーーー なぜ破綻してないと認定したのでしょう?

裁判所
「以下の事実から認定しました」
・6年前には長男を産んでいる
・よく家族4人で旅行にいっていた
・2年前にはハワイ旅行にも
・1年前には家族4人でXさんの実家に帰省など

■ 解説
妻や夫が「この人との夫婦関係オワってるって!ヨリを戻すなんかゼッタイに無理!」と主張しても、オワってるかオワってないかを【裁判官が決める】これが現在の司法です。

■ 全国の別れたい人たち
「おい裁判官!書面だけ見て、法廷で数時間、話を聞いただけのアンタに何が分かるんだよ!」

気持ちは分かるんですが、これがルールなんです...。

ーーー 慰謝料はいかほどでしょう?

裁判所
「200万ですね」
〈理由〉
 ・同棲したことでXとAの婚姻関係は破綻の危機に瀕している
 ・その他、一切の事情を考慮

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▼ 探偵の調査費用は、どうなる?
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Xさん
「調査費用として探偵に207万円はらいました。これも認めてください」

裁判所
「無理です。10万円だけ認めます」

ーーー なんで!?

裁判所
「たしかに探偵を雇うことは不貞行為を立証するために必要な支出といえるんですが、207万円…一般的な金額と比べて高すぎです。しかもこの調査、あまり専門性が高くないじゃないですか。Yさんや妻Aを尾行するくらいのもので。なので10万くらいかなと」

けっこうカラめですね。だって今回、Xさんが獲得したのは210万円。探偵に支払ったのは207万円。差し引き3万円しかゲットしてないんです。あ、弁護士を雇うのにおそらく数十万は払ってるので、赤字です...。

探偵に依頼するときは何とか二ケタ万円で抑えたいですね。「コイツこの日に絶対ヤる!」という日時をしぼって依頼するなど工夫してみてください。

今回は以上です。またお会いしましょう!

取材協力弁護士

林 孝匡 弁護士

林 孝匡 弁護士

【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。                                         Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1

所属: PLeX法律事務所

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