前代未聞「AI裁判」開廷!? “現役東大生”仕掛け人が語る「AI裁判官がなぜ必要か」

杉本 穂高

杉本 穂高

前代未聞「AI裁判」開廷!?  “現役東大生”仕掛け人が語る「AI裁判官がなぜ必要か」
「AI法廷の模擬裁判」4月に某所で行われたリハーサルの様子(弁護士JP)

近年、Chat GPTなどの生成AIの話題がさまざまな業界で話題になっているが、法曹界でもAIの活用については盛んに議論されている。

そんな状況の中、東京大学法学部の学生たちが「AIに人は裁けるか」をテーマにした模擬裁判を行う。5月13日・14日に開催される学園祭「五月祭」にて行われる『AI法廷の模擬裁判』は、Chat GPTが裁判官となって判決を下すというもの。

開発したOpen AIによればChat GPTに搭載されている学習モデルGPT-4は、米国の司法試験で上位10%の成績を収めたというが、果たして”日本語版”ではアメリカとは異なる日本の法律を正しく理解し、適切な判決を下すことができるのか注目される。

この模擬裁判の主催者は東京大学法学部の学生たちで、模擬裁判は東大のインカレ演劇サークル「劇団綺畸」に所属している学生の協力のもと行われる。

実行委員会代表の岡本隼一さんは現在法学部の3年生。この企画を立ち上げた経緯についてつぎのように語る。

「進行役とプレーヤーが協力して物語を作るTRPG(テーブルトークロールプレーイングゲーム)などのゲームが趣味なんですが、Chat GPTに触れてみて、しっかりといろんな役割を演じてくれることが分かったんです。ゲームで役割を演じられるのなら、現実の裁判官なども演じられるのではと思い、参考書の問題を入力してみたところ、素晴らしい回答が返ってきました。これを社会実験の形にして問題提起したら面白いものになるんじゃないかと思ったんです」。

AIは情状酌量を判断できるか

模擬裁判のプロットは、このようなものだ。

とあるホテルでの殺人事件。被害者の一ノ瀬は、1年前まで被告である二村と付き合っていたが破局。二村は三井という男性と新たに交際を始めたが、一ノ瀬は遺恨からリベンジポルノを広めると二村を脅迫。二村はそのことを三井に相談すると、三井は自分が何とかすると言い、二村に一ノ瀬をホテルに呼び出すよう告げる。ホテルに赴いた一ノ瀬は、待っていた三井に「二村から手を引け、それとも痛い目にあいたいか」と脅される。一ノ瀬は激高し、花瓶で三井に殴りかかり、三井は所持していたナイフで一ノ瀬を刺した。一ノ瀬は失血性ショックで死亡し、三井は遺体を放置したままホテルを後にした。

正犯は三井となるが、模擬裁判で争われるのは二村の犯罪についてだ。二村が共犯として殺人罪に該当するかどうかを、証拠と証人の証言、被告への尋問などをもとに、Chat GPTが判断する。

岡本さんは、模擬裁判のプロット作りでこだわった点として、「現実の複雑に入り組んだ事実に対してAIがきちんと分析できるか、情状酌量が絡んでくる事件に関してAIが人間らしい情状の判断を下せるのか」の二つを重視したという。

Chat GPTは、裁判官として判決を下すだけでなく、被告人や証人への裁判官質問も行う予定だ。この質問も、模擬裁判のプロットと証人たちの証言内容をプロンプト(生成AIに対して入力する内容のこと)として入力し、Chat GPTがはじき出したものだという。模擬裁判本番では、会場にも聞こえるように、Chat GPTが作成した質問を機械音声に代読させる。

裁判官として振る舞えるようにするために、岡本さんは時間をかけてプロンプトをデザインしたそうだ。「判例や学説は覚えさせず、あくまで法律の条文に書いてあることをデザインに組み込みました。人の書いた学説などを入れてしまうと、人の基準でAIを評価することになり、束縛する可能性がある」とのことで、あくまで法律の条文に沿った判決内容を出すようにしているという。

使用されているChat GPTは誰でも契約可能な有料版を使用しており、特別なファインチューニング(既存の学習済みのモデルに対して別のデータセットで新たに再学習させること。これを行うことによって特定の専門領域に適した働きをさせやすくなる)を施すことはできない。あくまでプロンプトデザインによって判断させる形になっている。

AIは法曹界の人材不足を解消できるか

岡本さんは、「現在は日本国内の裁判官の人材資源が圧倒的に枯渇していて、裁判官への福利厚生には非常に問題がある状態です。民事や刑事の比較的簡素で分かりやすい事件にかんしてはAIが導入できるのでは」と語り、人材難の法曹界にとってAIの活用は今後必要になるのではないかと考えているという。

模擬裁判のリハーサルを見学させてもらったが、機械音声によって主文を読み上げるのはとてもシュールだが、機械に裁かれているという実感を持たせてくれた。また、判決をくだすまでのタイムラグが短いので裁判の迅速化が期待できると感じた。

果たして、AIが適切な判決を下せるか、そして、判決を聞いた人間の観客はどこまでそれに納得できるのか、気になる人は5月13日の本番を楽しみにしてほしい。当日は、YouTubeでのライブ配信も行われる。

【開催情報】
開催日時:5月13日 13:15~
場所:東京大学本郷キャンパス 安田講堂
無料で入場可能。事前予約はなし。直前企画の模擬裁判(別団体)との総入れ替え制。
5月14日には、研究者やSF作家らによるシンポジウムも開催される。詳しくは公式サイトで確認を。
公式サイト:https://www.aimocktrial.com/
公式ツイッター:@AI_Judge_May
第96回五月祭公式HP:https://gogatsusai.jp

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