賃貸物件4人に1人が入居NG。65歳以上「住宅難民シニア」が増え続ける深刻な背景

弁護士JP編集部

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賃貸物件4人に1人が入居NG。65歳以上「住宅難民シニア」が増え続ける深刻な背景
R65不動産で入居者募集中の物件。都内の相場より安い家賃の物件も多数紹介されている。

「入居できる家がない」

あなたが高齢者になったとき、そんな現実が待ち受けているかもしれません。

2021年11月30日に総務省が公表した国勢調査によると、65歳以上の5人に1人が一人暮らしをしていることがわかりました。また、65歳以上で一人暮らしをしている人は前回調査(2015年)では592万7686人、今回が671万6806人と78万9120人増加しており、2005年以降、上昇の一途を辿っていることも明らかになりました。

その一方、高齢者向けの賃貸物件を専門で扱う「R65不動産」が2021年6月に発表した調査結果によると、賃貸物件を探す65歳以上の4人に1人が入居を拒否された経験があり、そのうち断られた回数が5回以上という方は13.4%に上ることがわかっています。

物件を貸すオーナーとしては、入居者の孤独死により事故物件化することへの懸念などから、高齢者の入居を断りたいというケースも少なくないようです。

高齢者が賃貸物件を借りられない問題を「知らない」と回答した20〜30代は6割も(画像提供:R65不動産)

高齢者の「住宅難民問題」解決の糸口は?

部屋を借りたいのに借りられない「住宅難民」の高齢者が増加する中、この問題を解決するべく2016年に立ち上がったのが、冒頭の調査をした「R65不動産」です。健康で生き生きと暮らす高齢の方々に「いつまでも自立した生活を送ってほしい」と、65歳からのお部屋探しを専門でサポートしています。

今回はR65不動産代表の山本遼さんに、高齢者を取り巻く賃貸物件事情について話を聞きました。

高齢者が賃貸物件を探す背景には何があるのでしょうか。

山本さん:昔に比べて、今は高齢者が元気でいられる期間が大幅に増えています。介護や老人ホームはまだまだ必要ないけれど、年齢が上がるにつれ「都心に住む子どもの近くに移り住みたい」「子どもが独立した、または夫婦のどちらかが亡くなったのでコンパクトな家に住み替えたい」といったニーズが高まっているように感じます。

そのほか、もともと住んでいた物件の建て替えやリフォームに伴い、立ち退かなければならなくなるケースも少なくありません。若年層に比べると、賃貸といえど一つの物件に長く住み続ける方も珍しくなく、例えば入居時に50歳だった方が立ち退き時に70歳になっていたとすると、その後の入居が難しくなる場合もあります。

現在、日本には築40年を超えるマンションが103.3万戸(総務省「築後30、40、50年超の分譲マンション数(令和2年末現在/令和3年6月21日更新))あるとされており、弊社にも、老朽化を理由に立ち退きを迫られたという高齢者が、数多く物件のご相談にいらっしゃいます。

高齢者の入居を断るオーナーが多い一方、受け入れているオーナーにはどんな傾向があるのでしょうか。

山本さん:「社会貢献したい」「空室率を埋めたい」といった思いを持つ方が多いですね。とはいえ、問題意識は持っているけれどなかなか踏み切れない、というオーナーもたくさんいらっしゃるので、まずは「貸すハードル」を下げることが課題だと思っています。

具体的に取り組まれていることはありますか?

山本さん:2021年10月に国土交通省が策定した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」には、「老衰、病死など自然死については告知が必要ない」といった記載がなされました。ただし、死亡後の発見が遅くなり特殊清掃が行われた場合は例外となります。つまり物件を貸すオーナーからすると、入居者が亡くなったとき、いかに早く発見できるかが重要になるのです。

弊社の場合は「あんしん見守りパック」といって、電気の使用量で入居者を見守るサービスを提供しています。AIが異常を感じると、親族や管理会社など登録した連絡先にメールがいくので、「誰にも気づかれない」状況を防ぐことができる仕組みです。

高齢者が賃貸物件の入居を断られやすいという問題は、今後どのように変わっていくと考えますか。

山本さん:改善していくと思います。我々の取り組んでいるような見守りサービスの成功モデルができれば、「貸すハードル」もどんどん下がっていくのではないでしょうか。

不動産の空き家率は年々上昇していますし(総務省「平成30年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計」では13.6%と過去最高を記録)、高齢者の住宅難民問題の解決は、借りる側にも貸す側にも大きなメリットとなるはずです。

「高齢だから部屋を貸さない」に法的問題は? 田渕朋子弁護士の見解

ところで、賃貸物件のオーナーが入居希望者の年齢を理由に入居を断ることは法律的に問題ないのでしょうか。不動産問題に詳しい田渕朋子弁護士に聞きました。

物件のオーナーが「高齢」を理由に入居を断ることは、法律的に問題ないのでしょうか?

田渕弁護士:今のところ違法と判断されたケースは見あたらないようです。ですが2007年、京都地方裁判所で「国籍」を理由に入居を拒否したことが不法行為であるとされた判例があるので、今後「高齢」を理由とした入居拒否についても、不法行為であるとされる可能性は高いと言えます。

ただし、年金収入や貯蓄の観点から家賃を支払うだけの資金力がないと判断された場合は、通常の「審査落ち」と同じことになりますので、不法行為とは判断されないでしょう。

実際に高齢の入居者とオーナーが、事故物件化の懸念や家賃の支払いなどでトラブルになるケースは多いのでしょうか?

田渕弁護士:裁判になるならないに関わらず、孤独死が増えていたり、オーナーの貸し渋りに関する報道が多くされていたりすることから、トラブルは身近なものになっていると考えられます。

ちなみに賃貸物件は、借主が死亡したからといって契約が終了するわけではありません。物件の原状回復義務や損害賠償責任は死亡した方の相続人に引き継がれることになるので、そこで新たなトラブルが発生する可能性もあるでしょう。

物件内で死亡した方に相続人がいなかった場合、原状回復義務や損害賠償責任は誰が負うのでしょうか?

田渕弁護士:そもそも損害賠償責任については、借主に「故意・過失」があった場合に発生するものです。例えば、死因が自殺であれば故意・過失があったと言えますが、病気で亡くなったり、家に押し入ってきた強盗に殺されたりした場合には故意・過失がないと判断され、損害賠償責任は発生しません。損害賠償責任だけでなく、原状回復義務も負わないとされた判例もあり、裁判所はケースバイケースで判断しているようです。

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