「魔の交差点」交通事故が頻発する理由 ワースト上位エリア“納得”の「共通点」とは?

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

「魔の交差点」交通事故が頻発する理由 ワースト上位エリア“納得”の「共通点」とは?
全国で一番事故が多い「大原交差点」。令和3年は29件の事故が発生(弁護士JP)

歩行者とドライバーの両者にとって身近な「交差点」。事故が多いことは想像にたやすいが、特に「事故が発生しやすい交差点」が存在するようだ。

令和3年、東京都内では2万7598件の交通事故が発生。そのうち50.9%を占める1万4044件が交差点で発生している。さらに、その中でも5カ所の交差点について、事故が起きやすい場所としてランキングに掲げられているのだ(「令和3年のワースト交差点で発生した事故について」一般社団法人 日本損害保険協会 )。

不名誉なワースト交差点は以下、①大原交差点(29件)、②池袋六ツ又交差点(21件)、③四谷四丁目交差点(18件)、④瀬田交差点(14件)、⑤中野坂上交差点(14件)、となっている。ちなみに、上記東京都内ワースト1位と2位は、全国の交差点事故数のワースト1位・2位でもある。

一般社団法人 日本損害保険協会 東京都 令和3年の交差点事故状況(https://www.sonpo.or.jp/about/useful/kousaten/2021/13/)より

これらの「危ない交差点」には、事故を招きやすい共通点などはあるのだろうか。

事故の多い交差点に共通する“キーワード”

事故防止について研究する近畿大学准教授の島崎敢氏(安全心理学)は、これらワースト上位の交差点について、「交通量が多く、『環状線と放射線状の道路が交わるところ』が多いです」と共通点を挙げた。

「東京の外から入ってきて、環状線を通ってまた外に出ていくなど、土地勘のない方もたくさん走っている交差点だという印象があります」(島崎氏)

また島崎氏は事故発生の少なくない影響として、右折・左折などの「専用レーン」の存在も指摘する。

「直進できると思って進んでみたら左折レーンで慌てて車線変更する、というようなことも多く起きているだろうと思います。もちろんその道路にある専用レーンの存在を知っている人しか通らないような道なら影響は小さくなりますが、前述の通り“環状線”で外から来た車もたくさん通っていることを考えれば、影響があるのではないでしょうか」(島崎氏)

さらに、「すいている車線をわざと使い、先に割り込もうとする人」の存在も事故のリスクをあげているのではという。「交通量の多い道は、意図的に割り込みをしようとする人もいれば、普段あまり運転しなくてたまたま通っただけというような人も走っています。ドライバーのレベルもまちまちで、いろんな動きをする車がいるので、どうしても事故のリスクが高くなってしまいます」(島崎氏)。

全国ワーストにも入る大原や池袋の交差点などは、ドライバーらにとって悪名高い交差点のはずだ。事故に遭わないよう注意を払って運転しそうなものだが、実際車の流れはどうなっているのか。

月平均2.4件の事故が発生…全国「ワースト1位」はどんな交差点?

ワースト1位の「大原交差点」は、甲州街道と環状七号線が交差する大型の四差路(十字)交差点だ。実際その場に立つと、甲州街道の上を走る首都高速の支柱が右折車を確認する視線を一部遮っているようにも見える。

世田谷区側から杉並区側を臨む。上には首都高速が走っている(弁護士JP)

通勤渋滞がピークを超える午前9時頃でも、甲州街道、環状七号線ともに混雑していた。

甲州街道(新宿方面)は、交差点の300mほど手前で左折1車線・右折1車線・直進2車線と枝分かれする。直進2車線は地下に潜り、ドライバーは交差点を通らずに進むことができる構造となっているのだが、左折レーンと右折レーンは300m手前の時点ですでに詰まってしまっている。通り慣れていないドライバーにとっては、車線変更のタイミングが難しいのではないだろうか。

甲州街道(新宿方面)。直進2車線は進んでいるが、左折・右折レーンは詰まっている(弁護士JP)

また、交差点の200mほど手前にある歩道橋の上からしばらく新宿方面に向かう道路を観察していたが、真下にいたトラックが交差点を左折するまでの間に、信号が3度変わっていた。歩行者の横断を待ってから左折または右折をするため、一度の青信号でも曲がれる車の台数が限られており、漫然とした渋滞が続いているようだ。

日本損害保険協会によれば、大原交差点で多い事故は「追突」で、前方車両の動きや安全確認の不足、停止中のブレーキの踏み込み不十分などが主な要因だという。これほど進むのが遅ければ運転の集中力が切れてしまってもおかしくないと感じた。実際に前方車両が進んでいるにもかかわらず、なかなか発進しない車両も見受けられた。

歩行者側に向けられた「追突事故多発区間」の看板(弁護士JP)

見通しよくても…駅近で歩行者&自転車の波

過去5年間ランクインしていなかった「中野坂上交差点」も四差路交差点で、環状線(六号)である山手通りと青梅街道が交差している。時間帯が異なるため単純な比較はできないが、前出の大原交差点と比べると交通量もやや少なめで見通しもよく、事故が起こりそうな緊張感はあまりない。

中野側から新宿方面を臨む。警察官が拡声器使い交通安全を呼びかけている(弁護士JP)

しかし、地下鉄の駅を出てすぐに交差点があるため、歩行者や自転車が目立つ。横断歩道の距離も長く、信号が点滅すると中央分離帯で立ち止まらず駆け足で渡り切る歩行者も見られた。

横断歩道の中央分離帯で信号を待つ高齢者と、道路に目を光らせる警察官(弁護士JP)

複雑な構造で進みたい方向に“進めない”交差点?

前出の大原交差点と同様、過去5年間で3度目の不名誉なランクインとなった「四谷四丁目交差点」は五差路交差点で、交差点内が大きく湾曲しているのが特徴だ。新宿通りと外苑西通り(環状4号線)が交差し、さらに甲州街道と合流する「新宿御苑トンネル」にもつながっている。

四谷側から新宿御苑トンネルを臨む(弁護士JP)

昼前ということもあり交通量は落ち着いている様子だったが、車線が多く五差路と細かく行き先が分かれる構造のため、どの方向から来ても目的地によって細かな車線変更が求められる。たとえば、新宿御苑トンネルを通って来た車は外苑西通りに左折することができず、新宿通りからの車は右折ができない。四谷側から新宿方面に向かう道でも、交差点近くのバス停を発車したバスが、2車線をまたぎ車線変更をする場面を目撃した。

島崎氏の指摘通り、交差点の構造がわからないことから、焦ったまま禁止エリアに入ってしまう車両も多いのではないだろうか。訪れた日、新宿御苑トンネルの出口付近では、白バイ隊員が交差点内をくまなく見張っていた。

新宿御苑トンネルの出口付近から交差点内を鋭く見つめる白バイ隊員(弁護士JP)

いずれの交差点も平日の午前中に訪れたため、都内・多摩ナンバーの車やトラック、側面に企業名が印字された車など、交差点を使い慣れた様子の車も多かったが、土日となると通行する車の様子は変わるのだろう。土地勘がなく、慣れないドライバーだとすれば、これらの交差点を通るのはかなり緊張しそうだ。

事故を起こさないために必要なのは“諦め”?

島崎氏は、ドライバーが事故を起こさないために必要なことは「諦められる“余裕”」だと語る。

「ワーストの交差点はいずれも“わかりにくい交差点”が多いです。自分が進みたい方向がわかりにくかったり、高速道路の支柱などで視界が悪かったりする。こういう交差点を通る時『どっちに行けばいいんだ』と慌ててスマホの地図を出して調べたり、『こっちに行かなきゃ』と無理な動きをしてしまうことが多いと思いますが、分からなかったら、取りあえず通過して安全なところに停車してから調べなおすということをおすすめします。

事故を起こさないためには『運転の計画』がすごく大事だと言われています。今の例でも、取りあえず通過して安全な場所に停車するためには、到着時間に余裕がなければいけない。だから早めに家を出る。意外とそういう“余裕”で事故率が決まってくるんですね。余裕をもって行動ができる状態が運転にはとても重要です」(島崎氏)

島崎氏には大型のトラックドライバーとして働いた経験があり、今でも事前に道を予習するクセが残っているという。

「慣れていない道は都会であろうと郊外であろうとドライバーにとっては危険です。道はカーナビに任せきりという人も多いと思いますが、複雑な交差点で『右に曲がれ』と言われても『どの右?』と焦ってしまうと思うので、道路の予習を事前にしておくのは良いと思います。機械に頼るのも良いですが、人間の力もちょっと使っておくと心の余裕が違いますよ」(島崎氏)

※記事中の写真はすべて弁護士JP編集部撮影

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア