「樹木葬」購入率50%突破の裏側 新時代の“墓地”急拡大を後押しする「経営側の思惑」とは

弁護士JP編集部

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「樹木葬」購入率50%突破の裏側 新時代の“墓地”急拡大を後押しする「経営側の思惑」とは
「自然に還る」というイメージのある樹木葬だが…(提供:上田裕文准教授)

2022年に購入されたお墓のタイプは「樹木葬」が51.8%ともっとも多く、調査史上初めて過半数を突破したという(2位は納骨堂20.2%、3位は一般墓19.1%/「お墓の消費者全国実態調査2023」鎌倉新書)。

北海道大学・上田裕文准教授の研究(※1)によれば、いまや樹木葬墓地は47都道府県すべてにあり、総数はすでに1000カ所に迫る勢い。中でも東京都を中心とする関東圏に半数以上が存在するという。

(※1)上田裕文.樹木葬墓地の近年の動向と形態変化に関する研究.ランドスケープ研究.2022,85 (5).p551‐554.

「樹木葬」といえば、里山や森に遺骨を埋葬し、墓石代わりに木を植えるイメージを持つ人も少なくないかもしれないが、そのような形態の樹木葬は、実際には非常に少ないという。では、どのようなスタイルが主流となっているのだろうか?

樹木を“シェア”するのが一般的

日本における樹木葬は1999年、岩手県一関市にある知勝院の里山で始まった。同院では里山の地中に直接遺骨を埋葬し、墓標として墓所1カ所につき1本の花木を植えている。

しかし「承継者不要」などのメリットから、核家族世帯や単独世帯の多い都市部を中心に樹木葬が広がっていった結果、現在では樹木を複数の遺骨でシェアする「シンボルツリー型」「ガーデン型」が大半を占めると、前出の上田准教授は背景とともに説明する。

  • シンボルツリー型
    本来は墓標として複数の人で樹木を共有する共同墓が中心だったが、他人の遺骨と合祀されることへの抵抗から、近年は個別の埋葬箇所に石のプレートなどの目印を置き、個人の埋葬箇所を明示するタイプが増えている。また、独立した墓標として豪華な石材を設置して個人の区画をより明確にしたシンボルツリー型も多く見られる。
  • ガーデン型
    従来の家族単位の区画墓地が洋風化・小型化したものなので、もともと墓標代わりの樹木がない。家族墓の延長として独立した墓標や墓地区画が明確なものが多い一方、海外の無名墓地のような花壇型の合祀墓も導入された。現在はその折衷型として、個別の埋葬箇所を石のプレートなどで示す形態が急増している。
樹木葬墓地の形態分類(提供:上田裕文准教授)

「遺骨の埋葬形式も、遺骨を地中に直接埋める永年使用のタイプと、ある程度の年月(13回忌、33回忌、50回忌など)がたった後に改葬・合祀されるタイプがあり、現状は後者のほうが若干多くなっています。前者はその場所を半永久的に占有し続けることになるため、後者に比べて料金が高いのが特徴です」(上田准教授)

樹木葬は経営側にも“うま味”がある

私たち消費者は、樹木葬の特徴として「承継者不要」「一般墓に比べて価格が手頃」「自然に還れる」などのメリットを思い浮かべることが多いが、樹木葬が拡大することは、墓地を経営・運営する側にも“うま味”があるのだろうか。

「まず経営者(※2)にとっては『持続可能な墓地運営』ができるというメリットがあります。

(※2)樹木葬墓地ではその多くが宗教法人(寺が8割弱)。また、企画販売や運営サポートなどを担う運営者は、石材店などの民間企業であることが多い

少子化が進むにつれ、全国各地で無縁墳墓がどんどん増えていて、経営者にとっては非常に頭の痛い問題となっています。

法律上、官報などで知らせを出して1年たっても縁故者が現れなければ、経営者は無縁墓地を改葬することができます。しかし、墳墓とは別に墓石にも所有権があるので、後からその権利を主張されると縁故者などに返さなければならず、いくら『改葬していい』というルールだったとしても、実際に着手できる経営者は少ないのが現状です。

その点、はじめから永代供養や改葬による合祀が前提となっていて、かつ墓石もない『樹木葬』は、経営者にとってもメリットは大きいと言えます」(上田准教授)

他にも、経営者である宗教法人にとっては、公園や庭園のような景観によって宗教色を極力排除し、特定の宗教や宗派にとらわれず広く契約者を募集することができるという利点がある。また運営者である石材店にとっては、高額な墓石の代わりに“売れやすい価格帯”の石のプレート(個人の名前を入れるなどして墓所を示す)を販売できることから、生き残る道のひとつとなっている側面があるという。

樹木葬墓地の経営主体と運営主体(提供:上田裕文准教授)

法的に起きているのは「遺骨と自分の関係を断ち切る」こと

これから樹木葬墓地を選ぼうとする人に向けて、上田准教授にアドバイスを求めた。

「ご自身の中で、『自然に還りたい』という思いから樹木葬を選ぶのか、『安価で永代供養もできる』という利便性から選ぶのか、理由をハッキリさせることが大切だと思います。

まず前者ですが、遺骨を地中に直接埋めるタイプの樹木葬墓地でなければ、ほとんどの場合『カロート』という石室に埋葬されるため、『実際には土に還らない』可能性があります。この点は、購入時によく確認されたほうがよいでしょう。

また後者については『永代供養ならずっと供養してもらえるし先祖のためになる』と考える方が多いと思いますが、あけすけに言えば、法的に起きているのは『遺骨の権利を放棄して自分との関係を断ち切っている』ことなのです。

『跡取りがいない』『管理したくない』など、個別の事情はもちろんあると思いますが、そうだとしても『永代供養』がどのような意味を持っているのか、一度きちんと向き合って納得した上で、選択することが大事なのではないかと思います」(上田准教授)

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