“知財”が題材の異色ドラマ『それってパクリじゃないですか?』 現役弁理士が語る作品と仕事の魅力度

杉本 穂高

杉本 穂高

“知財”が題材の異色ドラマ『それってパクリじゃないですか?』  現役弁理士が語る作品と仕事の魅力度
『それパク』は弁理士が読んでも「面白い!」と太鼓判を押す弁理士の加島広基さん

4月12日から日本テレビで、芳根京子と重岡大毅(ジャニーズWEST)主演のテレビドラマ『それってパクリじゃないですか?(以下それパク)』が放送開始となります。

このドラマは、奥乃桜子さんの同名小説が原作で、企業の「知的財産権」を題材にした作品です。新設された知財部に配属された新米部員の藤崎亜季と親会社からやってきた弁理士の北脇雅美がタッグを組み、知的財産のトラブルに立ち向かっていく物語。原作小説は、プロの弁理士からも「とてもリアルだ」と高い評判を呼んでいます。

しかし、弁理士という職業がどんなものか知らない人も多いと思います。そこで今回、原作小説ファンを公言する日本橋知的財産総合事務所・代表弁理士の加島広基さんにその業務内容や魅力、原作小説の優れたポイントなどについて話をお聞きしました。加島さんの話を踏まえるとドラマがより深く味わえること間違いなしです。

弁理士から見た『それパク』のリアルさ

弁理士とはどういった業務をしている職業か、簡単にご説明いただけますか。

加島:弁理士は「知的財産権」を取り扱う士業です。企業の財産には「有形財産」と「無形財産」があります。有形財産は工場や機械装置などの物理的な設備で、知財は無形財産にあたります。知財にもいろいろあって、特許、商標、意匠、実用新案権など権利として取得できるものもあります。これらの権利を特許庁などに申請するための書類を作成したり、もし申請が通らなかった時の反論用の書類なども作成するなど、主に特許庁に対しての業務を行うのが弁理士です。

他にも不正競争防止法や著作権なども扱いますが、ここは最終的には訴訟になることも多いので、弁護士の方と連携して仕事することもあります。

弁護士は訴訟を扱いますが、弁理士の場合は主に書類業務が多いのですね。

加島:そうですね。今、日本には全国で1万人くらいの弁理士がいるんですが、特許事務所に勤務しているのが7~8割、残りの2~3割が企業に社内弁理士として務めているという状況です。『それパク』は、企業の知財部の物語ですから、社内弁理士が活躍する作品ですね。ただ、ドラマには事務所を持つ弁理士も出てくるようなので、事務所弁理士の話も出てくるかもしれません。

本作の原作小説で特にリアルだと感じた点はどこですか。

加島:ネタバレを気にされる方は少し飛ばしていただきたいのですが……相手企業が先に特許を取得してしまい、キャラクターたちが総出で無効資料調査(※)をするエピソードですね。ご都合主義的な展開なら、無効資料が見つかって良かったねとなりがちだと思うんですけど、現実には都合よくそんな資料は出てこないものなんです。原作も結局見つからないままで…、その展開がとてもリアルで一番好きなポイントですね。

(※)特許庁で審査を通過し特許となった権利でも、文献や資料によって新規性・進歩性が否定されることがあります。この文献・資料を無効資料、無効資料を探すことを無効資料調査と言います。

『それってパクリじゃないですか?』1巻・2巻(奥乃桜子/著 U35/装画 集英社オレンジ文庫刊)

一般の人にもなじみ深いネタとしては、SNS炎上やパロディーと商標の問題などが描かれます。この辺りの描写はいかがでしたか。

加島:炎上問題については、法的にセーフかどうかと炎上するかどうかは別の問題なんですよね。最近は、法的には問題なくても反感を買ったことで炎上というケースが多いように思います。弁理士にも他の士業にも言えますが、単に法的にOKかという判断だけでなく、最終的にクライアントの不利益にならないかどうかの判断が重要になってきていると思います。その意味では、原作の炎上案件は、まさに「法的にOKだけど燃えている」という状況なので、とてもリアルだと思います。

昨年の「ゆっくり茶番劇」の商標問題がそれに近いものでした。「ゆっくり茶番劇」は元々、ネット発の共有財産のようなものでしたが、それを個人が商標登録出願をしたというケースです。これは法的には問題ないのですが、みんなが共有していたものを独り占めしようとするのはけしからんと言うことで炎上したものですね。

弁理士は企業にとっての「軍師」

こうした知財トラブルは実際どれくらいあるものなんでしょうか。

加島:知財トラブルって実は結構あって、約3割の企業がなんらかの商標トラブルを経験したことがあるという統計があったかと思います。

商標は他人でも出願できるもので、よくあるのは「商標の横取り出願」です。人気が出てきたお店に嫌がらせで出願するとか、そういうトラブルは案外起こり得る話なんです。たとえば、コメダ珈琲の外観や内装、メニューまでマネする会社が現れたのですが、それに対して不正競争防止法で差し止めと損害賠償を求めた訴訟(和解成立)もありました。それから、BESSというブランド名でログハウスを販売する企業がありまして、そのデザインがパクられたことがあります。しかし、その会社は建物の外観に関する意匠権をとっていたので、それに基づき差し止めと損害賠償が認められました。

こうしてきちんと知財の権利を持っておかないと、対抗しようにも何もできないことがあるので、きちんと権利をとってトラブルを未然に防ぎましょうと啓発するのも弁理士の役割です。

著作権は、作品が誕生した時点で自動的に発生しますが、商標権や意匠権は申請しないと権利は発生しないんですよね。

加島:そうです。特許庁に申請し、審査をクリアしたものだけが権利として認められます。著作権には審査もなく管轄も特許庁ではなく文化庁になります。

特許、商標、意匠、実用新案権など権利は特許庁に申請する(TK_Garnett/PIXTA)

では知的財産は、登録をしない場合、パクられても文句を言えないというわけですね。

加島:はい。中国のケースで、「無印良品」が中国進出時に商標権を取得したんですが、権利のとり方に足りない部分があって、そこを地元企業がとってしまったことがあります。すると、今度はその地元企業に無印良品側が訴えられ、500万円くらいの損害賠償を払うことになってしまいました。

弁理士の仕事でもっとも多いのは特許案件だと思いますが、原作小説も特許の話を中心に展開します。その中で、技術のどの部分を特許申請し、どの部分をあえて申請しないかという議論が出てきます。これもよく起こる議論なのでしょうか。

加島:「オープン・クローズ戦略」と言って、最近よく話題になるものです。特許は出願申請すると1年半で全世界に公開されます。これはライバル企業にも手の内がわかってしまうということです。他の企業はその特許情報を見て、改良して使おうということもできるわけです。特許申請すれば、申請者には独占排他権が与えられますが、メリットばかりではないんですね。

産業スパイでもいないかぎりバレないだろうという技術やアイデアにかんしては、あえて申請せずにノウハウとして隠した方がいいものもあるんです。その辺りの戦略についても、よく弁理士からアドバイスさせていただきます。

商標や意匠、特許などの知財の権利を持たないというのは、企業にとっては自分たちを守るものが何もない状況に等しいのですね。

加島:“裸で戦場に出ていくようなもの”だと思います。企業が知財トラブルに巻き込まれないよう、前もって戦略を練り、必要な権利をそろえていく。弁理士は、企業にとっての軍師的な存在なんです。

弁理士の仕事の魅力とは

加島さんにとって、弁理士の仕事の魅力とはどういうものですか。

加島:私は弁理士の仕事を天職だと思っています。大企業の仕事もありますが、最近はスタートアップやベンチャー企業の仕事が増えていて、そうした会社の知財戦略を一緒に練り初期から事業作りに携わることができます。そういう企業の根幹となる発明を知財で支えることにやりがいを感じています。

あと、弁理士は他の士業と比べて海外とのやりとりが多いです。特許はワールドワイドにあるものですから、日本の企業が海外で特許申請する時や、逆に海外企業が日本国内で申請する時に依頼されることもあり、国際色豊かな職業です。そのためか語学に堪能な人も多く、TOEIC900点とか英検1級の人も普通にいますし、最近は中国語を勉強する人も多いです。ですので、国際的な仕事をしたい人にとって弁理士は魅力的だと思います。

なるほど。では、どういうタイプの人が弁理士に向いているのでしょうか。

加島:やはり知的好奇心旺盛な人ですね。弁理士は常に新しい技術を扱いますから、新しいことが好きな人には面白い仕事だと思います。

あとは、諸葛孔明のような軍師的な仕事なので、戦略を練るのが好きな人にとっても魅力的だと思います。近年では、特許出願はやらず、知財のコンサルをなりわいにする弁理士も出てきていて、ひと昔前に比べていろいろな仕事ができるようになっています。そのように、自分で新しい仕事を作っていくことも可能なので、まだまだ開拓できる部分は多いと思いますから、若い方にもぜひ興味を持っていただきたいです。

特許庁の資料を見ると、弁理士資格の試験を受ける若い人が減少しているとあります。

加島:そうなんです。20年ほど前、弁理士試験の合格者は毎年200~300人ほどでしたが、小泉内閣時代の「知財立国宣言」で受験者数も増え、年間1000人くらいの合格者が出る時代もあったんです。しかし、弁理士の数が増えても出願数は年々減少していたため、もうからないというイメージが広がってしまったんです。

現在では、年間の合格者が200人前後と20年前の水準に戻ってしまいました。とても残念なことで、これは弁理士という仕事の魅力がまだ世間に伝わっていないのも原因のひとつだと思っています。おそらく、弁理士が主役級で登場する連続ドラマが作られるのは『それパク』が初めてだと思いますので、そういう意味でも期待しています。

女性の弁理士さんも多いのでしょうか。

加島:最近は多いです。産休・育休を取ったあと、復帰することになっても特許事務所は専門性が高いので、経験が考慮されやすいですし、実際に女性弁理士は活躍していまして、Twitterなどでも有名な方がいらっしゃいます。今回のドラマにも、ともさかりえさんが演じる、特許事務所を自ら運営する女性弁理士が登場するようですが、弁理士会の前会長も女性で、この方も自分で事務所を立ち上げたすご腕なんです。

このドラマで弁理士に注目が集まるといいですね。

加島:そうですね、ただでさえ知名度が低くて「便利屋」と間違えられることもあるので。

原作にもそのネタが出てきますが、これは弁理士の世界の「あるあるネタ」なんですか。

加島:ええ、ご挨拶みたいなもので、まさに「あるある」ですよ(笑)。

【加島 広基(かしま ひろもと)】
日本橋知的財産総合事務所 代表弁理士
1976年兵庫県神戸市生まれ。1999年に東京大学工学部都市工学科卒業後、株式会社クボタに入社。在職中は下水処理の新製品開発に従事する。その後特許事務所に転職し、2004年弁理士資格取得。大手特許事務所勤務を経て2021年に日本橋知的財産総合事務所を開設。機械、電気及びITソフトウェア分野全般の知的財産に関する各種サービスを取り扱う。2021年特許庁I-OPEN PROJECTの専門家サポーター(知財部門)。2022年特許庁IPAS2022スタートアップ支援の知財メンター。

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