元ロッテ・清田育宏氏“契約解除”巡り球団訴えるも「訴訟取り下げ」 裁判外で“和解”の真相とは?

弁護士JP編集部

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元ロッテ・清田育宏氏“契約解除”巡り球団訴えるも「訴訟取り下げ」 裁判外で“和解”の真相とは?
清田育宏氏のインスタグラム(@kiyota.ikuhiro)より、グローブを手にする本人のショット

元千葉ロッテマリーンズの清田育宏氏(37)が、プロ野球独立リーグ・ルートインBCリーグの埼玉武蔵ヒートベアーズと練習生契約を結んだことが3月8日に発表された。

清田氏は2021年5月、複数の不倫疑惑やコロナ禍での不要不急の外出など「球団ルールに反する行動」があったとしてロッテから契約解除された。これに対して、清田氏は「解雇権の濫用」を主張し球団を提訴。選手としての地位確認や、計約9700万円の損害賠償を求めて東京地裁で争っていたが、2月8日に自身のインスタグラムで「こちらが訴訟を取り下げ、裁判外で和解しました」と報告していた。

清田氏が訴訟を取り下げたワケ

清田氏が訴訟を取り下げた背景には何があるのだろうか。自身も高校球児として白球を追い、過去に日本プロ野球選手会公認代理人の登録をしていた経験もある甘利禎康弁護士は「双方から理由が公表されていないので真相は不明ですが、今回独立リーグと契約したことも考えると、早期に解決して選手としての活動を再開させたかったのではないでしょうか」と話す。

しかし「裁判外」で和解したことについては「どういう意図なのか想像が難しい」と甘利弁護士は首をひねる。

「わざわざ訴訟を起こしたのであれば、通常は裁判所で和解するのが一般的です。

裁判所で和解すれば『和解調書』(※1)が作成されます。これには『債務名義』としての側面もあるため、たとえば相手方から和解金の支払いがなされず強制執行をする場合などには、そのまま執行の手続きをすることができます。

(※1)裁判所が和解の合意内容をまとめた書類

まれなケースとしては、裁判が始まったばかりの段階で当事者同士が話し合い、裁判所を介さずに合意して早期解決することもなくはないです。

しかし今回のケースでは、報道によれば第1回口頭弁論が行われたのは2021年11月4日であり、清田氏がインスタグラムで和解を報告した今年2月8日までの間には1年以上の月日がたっています。

通常、民事裁判では1カ月〜1カ月半ごとに期日が入ることを考えると、両者の主張はある程度出尽くしていたと考えられますし、もしかすると清田氏側に不利な裁判所の心証が開示されて、訴訟取り下げと同時にロッテ側から何か条件をもらって和解したなど…あくまで推測の域を出ませんが、何らかの事情があったのではないかと想像されます」(甘利弁護士)

清田氏側もロッテ側も、詳細については発表していないことから、和解条件のひとつに「内容については口外しない」という約束が盛り込まれていたことも考えられる。

選手に“違反行為”あっても球団は契約解除できない?

プロ野球選手と球団は、日本プロ野球選手会(※2)の「統一契約書様式」によって契約を結んでいる。この第26条には「球団による契約解除」が定められており、「球団は次の場合所属するコミッショナーの承認を得て、本契約を解除することができる」と記載されている。

(1)選手が本契約の契約条項、日本プロフェッショナル野球協約、これに附随する諸規程、球団および球団の所属する連盟の諸規則に違反し、または違反したと見做された場合。
(2)選手が球団の一員たるに充分な技術能力の発揮を故意に怠った場合。

(※2)日本のプロ野球12球団に所属するすべての日本人選手(一部の外国人選手を含む)を会員とする一般社団法人および労働組合

今回、ロッテは清田氏に「球団ルールに反する行動」があったとして契約を解除した。上記の契約書に照らすと一見、問題ないようにも思えるが、甘利弁護士は「プロ野球選手は『個人事業主』であると同時に『労働者』としての側面もあるため、一筋縄ではいきません」と指摘する。

「まず『個人事業主』と『球団』の契約と考えれば、選手側に違反行為があった場合、球団は『統一契約書様式』の第26条に従って契約解除することができるため、清田氏の主張していた『解雇権の濫用』は問題になりません。

しかし、プロ野球選手が所属する『日本プロ野球選手会』は労働組合として認められています。つまり労働組合法上は、その会員であるプロ野球選手は『労働者』とされるのです。そのため、今回の清田氏の件についても、選手会がロッテに対して団体交渉(※3)を求めていたようです。

また、プロ野球選手が労働契約法(※4)上の『労働者』にあたるかという点は、議論があるところです。

(※3)労働組合が使用者などと労働条件などについて交渉すること
(※4)企業と労働者の労働契約に関する基本的事項を定める法律

もし労働契約法上の『労働者』にあたるなら、『解雇権濫用の法理』(※5)が適用され、球団側は相当性・必要性がなければ選手を解雇できないということになります。反対に『労働者』にあたらない場合は『解雇権濫用の法理』が適用されず、球団側は『統一契約書様式』第26条の通り、選手に違反行為があった場合に選手との契約を解除できるということになります。

(※5)労働契約法第16条に定められている理論で、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされている

この点については、労働契約法上の『労働者』にはあたらないとの考え方が一般的ではありますが、清田氏が『解雇権の濫用』を主張していたということは、清田氏側は『労働契約法上の労働者にあたる』という前提で主張していたのだと思います。

今回は和解したため裁判例としての結論は出ませんでしたが、少なくとも球団側としては『解雇権濫用の法理』が適用されないと考え、清田氏との契約を解除したのでしょう」(甘利弁護士)

清田氏は埼玉武蔵ヒートベアーズとの練習生契約が発表された3月8日、自身のインスタグラムに「もう一度野球をさせていただける機会を頂き本当に感謝しております」と心境をつづった。

埼玉武蔵ヒートベアーズの公式Twitterでは、清田氏が生き生きと野球に取り組む姿が早速報告されている。ファンの信頼も取り戻すべく、今後は思いっきり野球に打ち込んでほしい。

取材協力弁護士

甘利 禎康 弁護士
甘利 禎康 弁護士

所属: 優誠法律事務所

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