「R-1グランプリ」優勝“やらせ疑惑”で炎上騒動…「八百長」「出来レース」の法的問題点は?

中原 慶一

中原 慶一

「R-1グランプリ」優勝“やらせ疑惑”で炎上騒動…「八百長」「出来レース」の法的問題点は?
“疑惑”は完全に払拭されているのだが…(R1公式ホームページ〈https://www.r-1gp.com/〉より)

3月4日に行われたピン芸人No.1決定戦「R-1グランプリ2023」(カンテレ)。結果は、決勝戦初出場の芸歴10年目の無名芸人・田津原理音(たづはら・りおん)が21代目チャンピオンの栄冠に輝き、賞金の500万円を手にした。

しかし、テレビで生放送されていたこの決勝戦で、”やらせ疑惑騒動”が勃発。ネットが炎上した。結論から言えば、現在は疑惑は払拭(ふっしょく)されているのだが、一応、経緯を見ておこう。

ネタを“見せていない”のに点数表示!?

決勝戦ファーストステージは、エントリー数3537人の中から予選を勝ち上がった7名と、復活ステージを勝ち抜いた合計8人が順にネタを披露。ハリウッドザコシシショウ、野田クリスタル、小藪千豊、バカリズム、陣内智則の5人の審査員が、一人各100点=合計500点満点で採点し、上位2人だけが、最終決戦のファイナルステージに進めるという仕組みだった。

演技順は、2月11日に開催された準決勝の会場で決勝進出が決まった7人がくじ引きをして、決定していた。ファーストステージの得点は以下の通りだった。

①Yes!アキト
(456点)
②寺田寛明
(464点)
③ラパルフェ都留
(451点)
④サツマカワRPG
(462点)
⑤カベポスター永見
(460点)
⑥こたけ正義感
(462点)
⑦田津原理音
(470点)
⑧コットンきょん
(468点)

ファイナルステージの一騎打ちに勝ち進んだのは、470点の田津原理音と、468点のコットンきょんだった訳だが、一番手の芸人「Yes!アキト」の得点が電光パネルに表示される際、疑惑が起こった。「Yes!アキト 456点」と表示が出る直前に、まだネタを見せていない田津原理音の点数が、「田津原理音 470点」と一瞬表示され、慌ててすぐ消したように見えたのだ。

「大会の真正性が疑われるような事実は一切ない」

この動画がツイッター上にアップされると瞬く間に大炎上。「最初から点数が決まっていたのか」「出来レース」などと瞬く間に”祭り”となった。

しかし即座に、この手の番組に出演経験のある何人かの中堅芸人が、「これはリハーサルの時の仮点が間違えて表示されたものだろう」などとツイート。

一方、関西テレビは、3月6日、「得点データが誤表示された件に関して」として公式サイトで声明を発表した。

「本番前に行った得点発表のリハーサル内の動作確認において使用した、仮のデータ『田津原理音470点』が、システム上に残っていたことに起因するもの」だとして、システムエラーによりそれが一瞬映し出されてしまったものだと説明。

田津原の得点と合致したのは「完全なる偶然」で、制作側の不手際であるとして、「大会の真正性が疑われるような事実は一切ない」と弁明した。さるバラエティー番組関係者はこう付け加える。

「吉本興業や番組サイドに田津原をそこまでして優勝させるメリットはどこにもないので、これは本当でしょう。そもそもこれだけの賞レースで、”出来レース”をやろうとしたら、一部のスタッフやうるさ型の審査員を巻き込まなくてはならず、まず実現不可能です」

テレビ番組のやらせが本当に行われていたら?

という訳で、今回の「R-1グランプリ」の”やらせ疑惑騒動”は収束しているのだが、もし、この手の番組で、「八百長」や「出来レース」が行われていたとしたら、何か法律的な問題点はないのだろうか。犯罪や刑事事件の対応も多い杉山大介弁護士はこう話す。

「基本的にはないですね。報道番組という訳でもないので、放送倫理・番組向上機構(BPO)による虚偽報道チェックのような形にもならないでしょう。しかし、お客さんはなえますし、大会の評価は地に落ちますから、番組の打ち切りなどはあり得るでしょうね。

あまりにイメージを損なう結果になった場合、スポンサーとの契約上のトラブルが生じうる可能性が全くないとは言えないぐらいでしょうか」

杉山弁護士はさらに、「今回問題とされた点からR-1自体がやらせと導くことはできないと、当初から私は冷ややかに見ていました」と付け加えた。

スポーツ興行のやらせは法律問題にならない

しかし、この手の不正、お笑いの大会などではなく、野球や相撲、ボクシングなどの「無気力試合」「八百長」など「スポーツ興業」で行われていた場合はどうなのか。

テレビのバラエティー番組との違いはあるかと杉山弁護士に聞いてみると、「観客が直接お金を出しているという点は決定的に違いますね。基本、法律問題にはならないですが、ゴネようと思えば、テレビよりは理屈が立ちうるかなといったところです」と話す。

“せっかくチケットを買って試合を見に行ったのに、八百長を見せやがって、金返せ!”という理屈は成り立つかもしれない。しかし、かつて「八百長」とされた試合でも、そうした訴えが起こされた例は聞いたことがない。

そうは言っても、1969年のプロ野球「黒い霧事件」、そして2010年代のプロボクサー亀田興毅の”疑惑の判定”騒動など、そうした疑惑が浮上し、世間の非難を浴びると、その選手はその後、現役を続行することが厳しくなるのは周知の通りだ。

「公営ギャンブル」の不正には法的

その一方で、決定的に違うのは、「公営ギャンブル」で不正が行われた場合。「競馬」「競輪」「ボートレース」など、騎手や関係者が金銭の授受を伴う「八百長」に加担した疑いが発覚した場合は、法的措置が課せられる。杉山弁護士はこう話す。

「たとえば競馬法の31条3号や32条の2に罰則規定がありますね。

〈第三十一条 次の各号の一に該当する者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
三 競走について財産上の利益を得、又は他人に得させるため競走において馬の全能力を発揮させなかつた騎手〉
〈競馬法 第三十二条の二 調教師、騎手又は競走馬の飼養若しくは調教を補助する者が、その競走に関してわいろを収受し、又はこれを要求し、若しくは約束したときは、三年以下の懲役に処する。よって不正の行為をし、又は相当の行為をしなかつたときは、五年以下の懲役に処する〉

公営ギャンブルは、賭けた人のお金がかかっているので、八百長や出来レースは、明白な金銭的損害を与える行為ですから、より厳しく取り締まる理由がある訳です」

“空くじ”は「詐欺罪」になり得る

さらにもうひとつ。ギャンブルとは言わないまでも、「お祭りのテキ屋の三角くじで、実は当たりが入っていなかった場合」「町内会のガラガラの抽選で実は当たりの玉を入れていなかった場合」などは、法的にはどのような問題があるか。

ちなみにこの手の話題は、現在、人気ユーチューバーのヒカルの名前を世に知らしめた内容だ。

ヒカルは2017年、自身のユーチューブチャンネル「ヒカルチャンネル」で「祭りくじの闇 すべて公開します」という動画を投稿。この動画は、現時点で4900万回再生されている。

動画の中でヒカルは、プレイステーションVRや任天堂スイッチなどの高額商品を景品として展示しているお祭りの屋台で、10万円以上くじを購入したが当たりくじがなく、「もともと高額商品の当たりくじは含まれていない詐欺ではないか」と指摘していた。その後も別の祭りやくじをつかむクレーンゲームなどの実態を暴露している。

この手の事例について、前出の杉山弁護士はこう話す。

「さすがに当たりがあるとうたっておいて当たりが無かったら、虚偽の事実を伝えてお金を使わせているわけですから、詐欺罪になり得ます。ただ、本当に当たりがなかったかを民間人が検証するのは難しいですね」

そもそも祭りのくじなどの場合、どうせ遊びなので、当たりが出なくとも「そんなもんだろう」と諦めてしまうことが多そうだ。そうした心情に付け込んでいる点は悪質だと言える。

という訳で、「やらせ」「八百長」「出来レース」とさまざまなケースを見てきたが、先の「R-1グランプリ」の話でいえば、今回の一番の被害者は、一瞬でも「疑惑の王者」の汚名を着せられてしまった勝者の田津原理音かもしれない。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア