「愛人になるか?」“傍若無人”理事長にセクハラ認定… 裁判所が決め手とした女子社員「LINE」の“迫真性”とは

林 孝匡

林 孝匡

「愛人になるか?」“傍若無人”理事長にセクハラ認定…  裁判所が決め手とした女子社員「LINE」の“迫真性”とは セクハラ被害から約3か月後に女性は退職した(imageteam / PIXTA)

「愛人になるか」
「キミが首を縦にふれば、全部が手に入る」

実際に会社の権力者が女性社員に投げかけた言葉です。他にその女性の前で【シャワーを浴びる】などのトンデモ行動も。ローマ出張中のホテルで起きた事件です。

女性は「セクハラだ」と主張して訴訟を提起。裁判所は「セクハラだね。50万円支払え」と命じました(P社ほか(セクハラ)事件:大阪地裁 R2.2.21)。

コロナが落ち着いてきたのでこれからの季節、歓送迎会が増えそうです。歓送迎会ではセクハラのオンパレードなので録音をオススメします。録音の重要性も書きました(弁護士・林 孝匡)。

事件の当事者

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▼ 会社
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経営コンサルティングなどを行う会社。

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▼ セクハラ理事長(以下「Y」)
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  • 当時おそらく70歳
  • 創業者
  • 経営や人事に大きな影響力を持っていた

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▼ 被害者(以下「Xさん」)
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  • 当時おそらく25歳
  • 秘書業務や営業などを行う
  • Yのセクハラを機に仕事ができず
  • 入社から約8か月後に退職を余儀なくされた

もう1名原告がいますが文字数の関係から割愛します(その方のセクハラ主張は残念ながら認められずでした...後述します)。

どんな事件か

Xさんは入社後しばらくしてYの下で働くことになりました。

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▼ ローマへの出張
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ローマへの出張の際、タクシー内でYがXさんに対して以下の発言を。

「どうや、愛人になるか」
「キミが首を縦にふれば、全部が手に入る」
「全部、キミ次第」

…カイジの兵藤会長なのでしょうか。

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▼ ホテルの部屋で
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タクシーがホテルに到着しました。Xさんは驚愕(きょうがく)します。「ウソでしょ、1部屋しか予約されてないじゃない...」と思ったんです。

フロントでXさんはYに「もう1部屋予約してほしい」とお願いしましたが拒絶されました。

とりあえずはやむなく部屋に移動すると、おい! Yはシャワーを浴びはじめました。やばっ。恐ろしくなってXさんはホテルを脱出しました。

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▼ Xさんが社長に送ったLINE
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Xさんは社長にLINEをしました。LINE全文は以下のとおり(判決文より抜粋)。

「お疲れ様です。新入社員のXです。いきなりすみません。昨日出張命令が入り今理事長とローマに来ているのですが、愛人になれ、などの発言が続き、来る前にホテルの部屋を予約してくれてますよね? って確認もしましたが、着いたら1部屋しか予約されてませんでした。

私の部屋もう一部屋お願いしま したが、して頂けず、部屋に入るとシャワーを浴び ると言い出したので怖くなり出ました。同じ部屋には泊まれないし、もう怖いので帰国する旨を伝え今空港に向かっています。社長に採用して頂きましたので、ご報告させて頂きました。夜遅くに失礼しました」

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▼ 社長からの返信
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約20分後に社長から返信がありました。

「大丈夫?? そんなことがあったんですね…。理事長も海外の空気もあって、少し冗談が過ぎられたの かもしれませんが、甲野さんにはとてもショックな ことだったかと思います。海外の慣れない地でもあり、大丈夫かとても心配しています。とりあえず無事帰ったらまた連絡ください」

訴訟前のバトル

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▼ Xさんが弁護士を雇う
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Xさんは帰国後、弁護士を雇い、会社とYに内容証明を送りました。記載内容はザックリ以下のとおり。

  • もうYの下では働けない
  • Yのセクハラを社内で調査し再発防止の措置を説明してほしい
  • Yからの謝罪を求める
  • セクハラがされないことを確認してから出社する
  • それまでの間、給料を支払うことを求める

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▼ Yも対抗
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対抗してYも弁護士を雇いました。Y側弁護士から届いた書面の内容はザックリ以下のとおり。

  • 部屋数についてXさんが誤解して帰国してしまった
  • Yの下で働くのが嫌なら本社に戻してもいい
  • 私が謝罪するようなことではない

Xさんの請求

Xさんはカッチーンですわな。訴訟を提起。セクハラから約3か月後には退職しています。Xさんの主張はザックリ以下のとおり。

  • セクハラの損害賠償請求
  • セクハラ以降の未払い賃金
  • 1年分の賃金、賞与相当額
     セクハラがなければまだまだ働けたはずだ(逸失利益)

裁判所の判断

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▼ 愛人になるか発言
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裁判所は「愛人になるか? 発言はセクハラだ」と判断。

Yは「そんな発言をしていない」と主張しましたが、裁判所はザックリ「Xさんが社長に送信したLINEに具体性・迫真性があるので信用できる」と判断。

★セクハラを受けたら【すぐ】誰かにLINEをしておきましょう。送信する際【されたことを具体的】に入力しましょう。小説家のように臨場感たっぷり記載してください。裁判官が信用してくれるかは出たとこ勝負ですが、今回の裁判官ように信用してくれるケースもあります。

★セクハラ直後のLINEが決め手となったケース
 駅のホームで「肩を触られた」というセクハラ。電車に入ってすぐ同僚にLINE。裁判所「このLINEの内容は信用できる」と判断(東京地裁 R2.3.3)

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▼ ホテルの部屋で
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裁判所はセクハラ認定しました。具体的には「別室を希望するXさんの意向を拒み,一時的であれ同室で過ごすことをやむを得ない状況に置き、さらに入室後には早々にシャワーを浴びるという行動に出ているのであり、これらのYによる言動及び対応は、Xさんに対し、意に沿わない性的関係等を要求される危惧を抱かせるものであった」と判断し、セクハラ認定。

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▼ 会社の責任も認めた
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裁判所は「Xさんからセクハラ被害を訴えられたのにキチンと対応してないよね(職場環境配慮義務違反)」と判断。具体的には以下の事実を認定しました。

  • Xさんの被害申告や要請に対応していない
  • 退職までの間も何らの対応や措置も講じていない

おそらく、セクハラ理事長Yに絶大な権力があったので誰も何も言えず会社側は調査できなかったんでしょう。

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▼ 認められた金額
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■セクハラ慰謝料
50万円

■未払い賃金
約79万円(セクハラを受けてから退職するまでの約3か月間)
「働けなくなったのはYのセクハラが原因でしょ」ということです(民法536条2項)

■逸失利益
90万円
Xさんは「セクハラがなければ会社に勤務し続けることができた。少なくとも1年分の給料を払ってください」と主張しました(逸失利益の主張)。裁判所は「約90万円(3か月分)だけ認める」と認定。

録音しましょう

Xさんは「ほかにもセクハラ発言があった」と主張したんですが...無念でした。Xさんの主張するY発言は以下のとおり。

  • ベッピンさんやな
  • 去年がブサイクばっかりやったから、今年はベッピンを採用せいと言っといたんや
  • キミ、昔、 水商売やってたんと違うのか
  • ベッピンやから世の中なめてるな

しかし裁判所は「的確な証拠がないし、Xさんの主張に十分な信用性を認めることはできない」と判断。

...裁判は証拠が命です。なので「このオッサン、セクハラ発言多いなキショ」と感じ始めたら、そのオッサンと話す時は常時録音で挑みましょう。セクハラ発言が多ければ多いほど慰謝料は上がります。

真相は闇の中...

この裁判、XさんのほかにAさんもYをセクハラで訴えていたんです。しかし裁判所は「セクハラがあったとはいえない」と認定。Aさんは当時おそらく21歳...。Aさんが訴えていたセクハラは以下のとおり。

  • 事務所兼Yの居宅(マンションの1室)で同じベッドに寝るよう命じられた
  • 泣き出すと「だからお前はワーカーやねん! 俺の言うことが何でわからんのか!」などと大声で怒鳴られた
  • やむなくベッドに入ると身体を触られた

しかし裁判所は「Aさんの主張を裏付ける的確な証拠はないし、Aさんの供述は具体的じゃない」として上記事実を認めず。

この状況で録音することは難しいかもしれませんが、スマホを持って一旦トイレにいってRECモードにして戻るなどの工夫も試みてください。無理であれば事件【直後に】【具体的に】誰かにLINEしておきましょう。

最後に

出張はオッサンの気が緩むのでしょう。出張の際のセクハラ裁判例をチラホラみかけます。
例えば出張中に酒で気の緩んだ上司が「ホテルに遊びに行っていいか」「今日は●●(Xさん)を抱いちゃおうかな」とLINE送信した事件などがあります(人材派遣業A社ほか事件:札幌地裁 R3. 6.23)。

これからの季節、歓送迎会もハメを外しやすいので注意しましょう。

「この中で付き合うなら誰だ?」というしょーもない質問、よく聞きますが【オマエじゃない】ことは確かなのでヤメておきましょう。そういう質問はキャバクラで繰り広げてください。女性社員はキャバ嬢ではありません。

セクハラオヤジは会社の宴会を無料キャバクラと考えている傾向が強いので、女性社員の皆さまは常時録音で宴会に臨むのも手です。

今回は以上です。これからも働く人に向けて知恵をお届けします。またお会いしましょう!

【筆者プロフィール】
林 孝匡(はやし たかまさ)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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