JR東日本「撮り鉄」コミュニティ開設は炎上覚悟? 一部鉄道ファンによるトラブル頻発の中はじめたサービスの狙い

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

JR東日本「撮り鉄」コミュニティ開設は炎上覚悟? 一部鉄道ファンによるトラブル頻発の中はじめたサービスの狙い
サービスの告知にも「撮り鉄」が使用された

「他の撮り鉄に負けたくなかった」

京阪電車の写真を撮影するために同路線の線路内に立ち入ったとして、11月9日大阪府警旭署が鉄道営業法違反の容疑で、東京都の無職少年(19)を家裁送致した。大阪府警によれば、少年は「撮り鉄」と呼ばれる主に鉄道の写真撮影を趣味としている鉄道ファンで、調べに対し「他の撮り鉄に負けたくなかった」と話し、容疑を認めているという。送致の容疑は、4月1日午後3時10分ごろ、大阪市旭区の京阪本線森小路駅のホームから線路内に入った疑いだ。

ここのところ、断続的に「撮り鉄」が起こしたトラブルに関連するニュースが報じられている。8月には、江ノ島電鉄線(神奈川県)の旧型車両の試運転を撮影するために待ち構えていた鉄道ファンの前に、自転車に乗った外国人男性があらわれ、映り込んだその男性に対して罵声を浴びせる動画がSNSで公開、拡散され、「撮り鉄」たちが非難を浴びたことも記憶に新しい。

さらには、この外国人男性が経営するお店のレビューサイトにネガティブな評価が大量につけられるなど、別方面での被害も拡大、騒動はその後もくすぶり続けた(その後行列のできる人気店に)。

もっとも、多くの鉄道愛好家はマナーを守って撮影をしている。ただ、トラブルを起こす一部の人々のおかげで、全体的なイメージが悪くなってしまっている印象だ。私有地や鉄道会社の敷地、線路への立ち入りなど、長年問題化されてきたにも関わらず解決の糸口は見えない。

写真はイメージです(写真/PIXTA(ピクスタ))

線路内の立ち入り以外にも抵触するおそれがある法律とは

各駅停車で旅行することも多いという「乗り鉄」でもある金井勝俊弁護士に、「撮り鉄」が抵触しやすい法律とその抑止効果について聞いた。

「線路内の立ち入りに関しては、鉄道営業法37条違反として1万円未満の刑罰が科される可能性があります。このような刑罰の抑止力に関しては、議論があるようです。また、沿線での撮影などの際、私有地や建造物へ無断で立ち入ってしまった場合、建造物侵入罪等に問われるおそれもあります。

これは終電後、つまり営業時間が終了した駅構内等への立ち入りもこれらにあたり得ます。また、引退列車のセレモニーなどは、数多くのファンが集まることが多いです。良い場所を確保しようと、もみ合いになったり、駅員さんの静止を直接手で振り払ったりすれば、暴行罪、威力業務妨害罪に問われる可能性もあります」。

「京阪電車の立ち入り事件の少年のような「負けたくない」という意識等、そのような一部の鉄道ファンの方の熱意が、思わぬ形で法律に抵触してしまうのはとても悲しいことだと思います。まず法律を周知していく。その上で一般論とはなりますが、最終的にはしっかりマナーを守り、気持ちよく鉄道を楽しむ心がけが必要ではないでしょうか」(金井弁護士)

今後、トラブルを減らすためにはやはり個人の意識の持ちように委ねられる側面が強いようだ。

JR東日本がネガティブなイメージの「撮り鉄」を使用したワケ

鉄道会社にとっても、多くの鉄道ファンはマナーに則って行動しているお客さま。ネガティブなキャンペーンは逆効果となる可能性もあり、各鉄道会社も対応に苦慮しているのではないだろうか。

そんな中、先月11月10日から「撮り鉄」と呼ばれる車両の撮影を楽しむ鉄道ファン向けの、JR東日本スタートアップによる会員サービス「撮り鉄コミュニティ」がはじまった。会員の声をもとに、「撮り鉄」向けの限定サービスなどを提供していくという。

あえて俗称ともいえる「撮り鉄」というキーワードを使用し、彼らともコミュニケーションを図るサービスを開始した意図とはどのようなものなのか。

JR東日本スタートアップの担当者山本さん、JR東日本事業創造本部の飛鳥井さんに話を聞いた。

「撮り鉄」というキーワードをサービス名に冠した理由について教えてください

「当初は『鉄道撮影ファンコミュニティ』の名称で進めていました。ただ、普通過ぎる気もして、ここ数年、世間的に話題となり、浸透しつつある「撮り鉄」はどうだろうと検討しました。もちろんですが、マナーを守られる撮り鉄の方が大半です。ネガティブに取り上げられることも多いこのキーワードをポジティブなものにしていこうと。

こちらの名称を発表した際に、いわゆる炎上覚悟でしたが、結果的にポジティブな反応が多く、ツイッターなどでは好意的なコメントがほとんどでした。本来の『良識ある』撮り鉄さんたちが表に出てきたことにより、イメージは今後良くなるのではと考えています」(山本さん)

これまで行ってきたサービス内容との違いなどはありますか

「これまでJR撮影会やツアーの販売はしていました。ただ、それらは社員が企画を考えたもの。もっとファンのニーズに寄り添った、適正な価格・内容のサービスの必要性を感じていました。

今回のサービス開始から1週間で、会員登録は500名超と想定以上の人数で、ご要望は60件以上集まっています。これまでは基本的に、日時を決め、車両を並べて、車両基地に立ち入っても大丈夫という形で、もちろん車庫の中で密にならないようにイベントを行っていました。

いただいたご要望は、「珍しい車両を撮りたい」というものから、車両の形式だけではなく「こういう時間に撮りたい」というものまで具体的に細かく幅広いものでした。これは新たな発見で、積極的に取り入れていきたいと思っています」(飛鳥井さん)

これまで車両基地内の撮影会などが開催されてきた(写真/JR東日本スタートアップ)
コミュニティ内では積極的な議論が交わされる

今後サービスはどのように展開されるのでしょう

「撮影イベントに関しては、車両基地以外の場所があれば検討したいですね。ただ、駅ホームなどの場合、対応される駅員の方が一番大変ですので、この辺りは細かな調整は必要です。さらにはご要望に沿った、プレミアムプラン、カスタマイズプランなども用意していきたいです。

あとは、撮り鉄=コアな方というイメージを変え、ライトな方でも入れるようにして徐々に層を広くしていきたいとも考えています。例えば、電車好きなお子さまに付き添う内に、鉄道車両にハマり、子どものために電車の写真を撮りたい、という『ママ鉄』が増えているとも見聞きしています。そのお母さま方も取り込みたい、というような野望からと言いますか…(笑)。

今後撮影イベントはもちろん、座談会や、撮り鉄の方々が撮影された写真をカレンダーやポスターなどのオフィシャルに採用していく、そんな従来の形に囚われないことをどんどん行いたい。お子さまから年配の方まで、「鉄道」を楽しめる環境づくりを推進してゆくつもりです」(山本さん)

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア