「地毛届」「有色リップはティッシュで確認」… 学校が時代遅れの“校則”を手放せないワケ

宮田 文郎

宮田 文郎

「地毛届」「有色リップはティッシュで確認」… 学校が時代遅れの“校則”を手放せないワケ
校則が求める“学生らしさ”とは…?(maroke/PIXTA)

昨年夏の甲子園を制した仙台育英・須江航監督の「青春ってすごく密なので」という言葉は多くの人の心を打ったが、今も昔も、青春真っただ中の中高生と「密」な関係にあるのが校則だ。ただ、両者の関係はハッピーなものとは言い難く、校則が青春の足かせになっているケースも。

先日も、大阪・清風高校の髪型指定や、広島市の公立中でのジャンパー着用不許可が話題になったばかりだ。多様化が進む時代にあって、頭髪や服装、下校時の行動などをこと細かに定める校則は理不尽さがますます浮き彫りになっている。

文部科学省などによる見直しも進みつつあるが、民間にも校則改善を目指して立ち上がった人がいる。その1人が、ITコンサルタントとして働きながら、校則をデータベース化したウェブサイト「School Rules Database」(https://www.schoolrulesdb.com/)を運営する植山良さんだ。現在、ベータ版として千葉の全県立高校と東京の都立高校208校、および地元である千葉県流山市内の中学校の校則を公開しており、他県の校則もデータベース化に向けて収集を進めているという。

もともと趣味でいろいろなWebサイトを作ってきたという植山さん。「次は何を作ろうかなというときに、このアイデアはいいんじゃないかと始めたのがSchool Rules Databaseで、正義のためになんとしてもやらなきゃという思いがあったわけではないんですよ」と謙遜しつつも、校則改善に向け精力的に活動を続けている。その熱い思いを伺った。

東京では理不尽校則が減少?

植山さんが「School Rules Database」を立ち上げたきっかけから教えていただけますか。

植山さん:教師から頭髪の黒染めを強要されたことで不登校になったとして、大阪の府立高校に通っていた女性が大阪府を訴えたんですが、2021年の裁判で指導の違法性は認められませんでした(一審・二審とも違法性が認められず、2022年6月に最高裁が女性の上告を棄却)。裁判所が学生の救済に動いてくれないことに憤りを感じたことがサイトを作ったきっかけです。

国や裁判所に訴えても難しいとなれば、学校自らに理不尽な校則をなくそうと思ってもらう必要があると考え、情報公開制度を使って校則を収集して、理不尽な校則を人目にさらして世論を動かそうと思いました。そうすれば、評判が悪くなるのを恐れて、学校の内側から校則改革に動くのではないかと期待したんです。

サイトへの反響として、どのような声が届いていますか。

植山さん:大人の方からの反響が多いですね。たとえば、地毛が茶色いために学校で黒く染めるよう強要され、それがつらくて中退したという方から、「自分の娘がそろそろ中学校に入る時期で、こういう取り組みは感動しました」といったメッセージをいただきました。他にも「こうやったら改善するんじゃないか」と助言してくださった方もいました。

いざ校則を集めてみて、理不尽な校則として印象深いものにはどんなものがあったのでしょうか。

植山さん:有色リップやファンデーションの疑いがあればティッシュで拭いて確認するという高校があって、執念がすごいですよね。有色リップぐらいいいじゃないかと思うんですよ。髪をまとめるときは耳より低い位置で結ぶようにと、ポニーテールを禁止している中学校もあります。制定した背景が読めないですし、学業に影響があるとも思えません。ほかにも前髪は高校生らしい長さにするだとか、カーディガンは着ちゃいけないとか、いろいろあります。頭のてっぺんからつま先まで個性を出すところはすべてつぶしているように感じます。

植山さんが特に理不尽だと感じた校則(弁護士JP編集部)

校則は地域ごとに違いもあるのでしょうか。たとえば、すでに公開されている東京と千葉で、違いは感じますか。

植山さん:両都県で校則を取得できた高校における校則に含まれる規則数を見ると、都立高校168校が1校あたり平均20個なのに対して、千葉県立高校120校は平均で27個でした。東京都は、2021年に教育委員会が各校に校則点検を指示した結果、ツーブロック禁止がなくなるなど、軽微ではあるものの校則の見直しが進んでいるように思います。

学校が校則の改訂に乗り気でない理由

髪型をはじめ、だいぶ時代とズレている校則もあるように感じます。それでも、いつまでも残っているのには理由があるのでしょうか。

植山さん:40年ほど前、校内暴力がひどかった時代に校則が強化されたんですね。それである程度学校が落ち着いたことを成功体験として、いまだに厳しいまま残っているんでしょう。緩めるとまた乱れるんじゃないかという恐怖心があるのかもしれません。それに加えて、問題が起きることを嫌がり、以前よりも厳しくなっているところもあるくらいです。

昔と比べると学校は荒れていないと思うのですが、むしろ厳しくなっているんですか。

植山さん:臆測もありますが、これは親や地域からのクレームが増えていることが大きいと思うんですね。学校に求められる役割が大きくなりすぎているんです。たとえばコンビニの前でたむろしていても学校に苦情が寄せられてしまう。学校外でのことは本来、本人や親の責任なのですが、学校側もこうしたクレームにまで対処して、問題が起きないように管理を強めてしまうわけです。

そうした時代背景もあるんですね。

植山さん:それと、現場の先生から伺ったのですが、校則を変える権限を持つ校長は2、3年のサイクルで交代するので、その間に問題が起きなければよく、校則改革に積極的ではないと言うんです。一方で先生たちはというと、最近問題になっているようにみなさん多忙です。校則がおかしいと思っていても、「じゃあ、あなたがやって」と校則担当にされて業務が増えてしまうので、及び腰になってしまうようです。学生側も、学校でしか生活してきたことがないので、校則の問題があまりわからない。問題意識を持ったとしても、先生に歯向かって内申点を下げられては入試で困るからと動きにくいわけです。

理不尽な校則が残る背景にはさまざまな事情があるわけですね。

植山さん:そうですね。そこで私も、新たな活動として、学校に校則に関する公開質問状を送ることにしました。自分から直接学校にアクセスして改善を促すのが狙いで、まずは流山市の公立中学校に対して公開質問状を郵送したところです。

昨年の12月に文部科学省の「生徒指導提要」が改定され、学校ホームページなどに校則を掲載することや各規則の制定背景や改定規定の明示を推奨することが追記されました。そこで、公開質問状でもこのことを引用した上で、校則公開の予定や制定背景、変更予定について質問しています。

人権を守るための校則へ

文科省の「生徒指導提要」の改定では、不合理な校則の見直しを各教育委員会に促しました。この対応についてはどうお考えでしょうか。

植山さん:とても良い傾向だと思います。ただ、残念なのは推奨なので強制力が弱いことです。公開を義務化したり、フィンランドのように国が校則作成指針を作ったりするなど、もっと踏み込んでいたら、さらに良かったと思います。

植山さんが校則の見直しに優先順をつけるならば、まずはどのような校則から手をつけるべきだとお考えですか。

植山さん:地毛証明などの人権が侵害されているもの、水を飲んではいけないといった健康被害をもたらすもの、下着の色の指定などセクシュアルハラスメント系や多様性の面で問題があるものです。こうした実際に苦しんでいる子どもがいるものは、真っ先に改めてほしいですね。

その先にあるゴールとして、植山さんが考える校則のあるべき姿、理想はどのようなものでしょう。

植山さん:最終的には今の生徒を管理するような校則は全て廃止して、生徒の人権を守るための校則に書き換えるべきだと思っています。たとえばフランスでは校則に法律が引用されて、生徒の表現、出版、結社、集会などの権利を守るとともに、教師がそれを侵害しないよう定められています。このような校則があるべき姿ではないかと思います。

校則の現状に不満を抱いている方は在校生ばかりでなく、保護者や大人の方にも多くいらっしゃると思います。みなさんに託したいメッセージはありますか。

植山さん:あくまで趣味でやっているので、人に求めるようなことはないんですが、みんなでもっと騒いでコトを大きくするといいのかなと思っています。今取り組んでいる学校への公開質問状は、WebサイトやTwitterで公開しています。たとえば保護者の方がお子さんの通っている学校に校則改善を働きかけられるように、誰でも簡単にできる手法を模索しているところです。公開質問状の送付を続けてバージョンアップを重ねることで、校則改善効果がより高いフォームを開発し、公開しようと考えています 。

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