アパホテル22階から宿泊客転落死 基準以下の柵「安全性を欠いていた」東京地裁が賠償命令

弁護士JP編集部

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アパホテル22階から宿泊客転落死 基準以下の柵「安全性を欠いていた」東京地裁が賠償命令
判決後、記者会見を開いた男性の妻(手前)と弁護団(2月27日 霞が関/弁護士JP編集部)

ホテルのバルコニーから転落死した男性会社員(当時40代)の遺族らが、ホテルを運営するアパホテル(東京)に対し転落防止措置を怠っていたとして損害賠償を求めていた裁判で、2月27日、東京地方裁判所(大嶋洋志裁判長)は約1780万円の支払いをホテル側に命じる判決を言い渡した。

男性は会社の出張業務で大阪を訪れ、「アパホテル大阪肥後橋駅前店」22階の客室に宿泊。その翌朝に、バルコニーから転落し亡くなった。男性からアルコールなどは検出されず、警察の調査結果などを踏まえ、労働基準監督署は転落事故を労災と認定している。

遺族らは、ホテル側がバルコニーに容易に立ち入れないよう窓の開閉を制限する設備を点検管理し、バルコニーの柵の高さを十分にするなどの適切な対策を講じていれば、転落事故は未然に防げたはずだとして計約1億3000万円の損害賠償を求めていた。

事故の状況

現場の状況から、男性はバルコニーにつながる腰高窓を全開にした状態で景色を撮影し、手を滑らせるなどして誤って落としたスマートフォンを拾おうとバルコニーに立ち入り、体勢を崩し転落したと考えられている。

バルコニー部分は非常時の避難用に作られていたが、通常時の出入りを禁じるような表示はなく、事故発生の7年以上前からホテルの口コミサイトでは「部屋からベランダに出ることができ、防犯上疑問」「窓の固定が壊れていて全開に開いた」「子どもでも開けて窓の外に出ることができる」など危険性が指摘されていた。

男性が宿泊した客室も、窓の開閉を制限する安全ピンおよびプラスチックカバーが外れていたことが分かっている。男性が外した形跡はなく、安全ピンやプラスチックカバーなども室内から見つからなかったことから、男性の宿泊以前から窓を全開にできたものと推察された。

バルコニー部分には柵が設けられていたが、建築基準法で規定されている1.1メートルの高さに満たない72cmのものだった。なお、腰高窓は客室の床から73cmの高さ、バルコニーの床からは75cmの高さに下枠があった。

アパホテル側の主張は?

ホテル側は、バルコニーの柵の高さについて、「建築基準法施行令は不特定多数の者の出入りが予定されていない場所には適用されない」と主張。さらに「防災指導基準」には柵の高さに関する規定がなかったこと、大阪市消防局と個別の防災協議を行い、大阪市の建築確認済証も取得し、完了検査にも合格していることなどから、「建築基準法違反はなかった」としていた。

しかし判決では、「非常時に限り利用されるバルコニーであっても、人が転落する事態を防止する必要がある」としてホテル側の主張を退け、「むしろ非常時の避難の際には、切迫した状況と避難者の不安定な心理状態に鑑みて、転落の危険性が高い」と踏み込み、「構造上、宿泊客が転落する事態を防ぐための通常有すべき安全性を欠いていた」と判断した。

その一方で、通常時にバルコニー部分に立ち入った男性の過失も認め、賠償額は3割に減らした。

男性の妻「事故が二度と起こらないように」

判決後に会見を行った男性の妻は「窓が非常時以外は全開にならなかったら、バルコニーに設置された柵が少しだけ高かったらと考えずにはいられません。優しく頼れる父親を亡くし、子どもたちも深い悲しみを負いました」と時折目頭を押さえながら語り、ホテル側に改めて「安全管理体制の徹底を求めるとともに、このような悲惨な事故が二度と起こらないようにしていただきたいと思います」と訴えた。

アパホテルは控訴を予定しており、「コメントは差し控える」としている。

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