『刑務所アート展』3/5まで開催 受刑者52人が獄中から作品を応募

弁護士JP編集部

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『刑務所アート展』3/5まで開催 受刑者52人が獄中から作品を応募
武蔵小金井駅南口から徒歩5分ほどのアートギャラリーで開催(弁護士JP編集部)

3月5日まで、武蔵小金井駅近くのギャラリー「KOGANEI ART SPOTシャトー2F」で、全国各地の受刑者から公募した絵画などを展示する「刑務所アート展」が開催されている。

“違和感”こそ、自分が受刑者に向けている目線

展覧会は2部構成だ。会場に入ってまず展示されているのは、第1部となる全国23か所の刑務所から52人の受刑者が応募した125点の作品。絵画のほか、詩、短歌、俳句、エッセイ、書などの文芸作品が多く並ぶ。

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刑務所では、画材を自由に使えず、紙やペン、絵の具なども、すべて受刑者自身の申請(願箋)によって許可が下りなければ手にすることができない。申請が許可される画材の種類は、各刑務所の所長の裁量にゆだねられているため、たとえばある刑務所では色鉛筆の使用が禁止でも、別の刑務所では問題なく使うことができる、といったケースもあるようだ。

会場には、刑務所で使用できる画材の一例も展示されている(弁護士JP編集部)
刑務所で使用できるボールペンの色は3色。それぞれ赤・黒・青のボールペンのみで描かれている作品(弁護士JP編集部)

「応募者の中には『絵の具の使用許可が下りなかったために文章作品を制作した』という方もいました」

そう語るのは、刑務所アート展を主催する風間勇助さん。東京藝術大学でアートマネジメント(※)を学び、現在は東京大学大学院で「刑務所とアート」について研究している。

※芸術・文化活動と社会をつなぐための業務、もしくは方法論やシステムのこと(美術手帖〈https://bijutsutecho.com/artwiki/14〉より)

「多くの人は“刑務所”や“受刑者”のことを、報道などで見聞きする一側面の情報でしか知り得ません。“見えない”存在や場所であるからこそ怖いと感じさせます。しかし当たり前ですが、1人ひとりはまったく違う人間で、この社会ですでに共に生きている私たちと同じ人間です。

どんな色使いをしているか、日々どんなことを思って生活しているのか、筆跡や文字のかたちは力強いのか柔らかいのか…表現には1人ひとりの人生や個性が表れているように感じます」(風間さん)

作品に添えられた作者の直筆コメントには「刑務所に入ってから美術を学んだ。大・中・小の3つの筆しかない中で表現に苦労した」など制作背景も記載されている(弁護士JP編集部)

なるべく先入観なく、作品そのものから人物像に思いをはせてほしいとの思いから、作者の本名はもちろん、年代、性別、どの地域の刑務所に収容されているかなどの情報は伏せられている。作者がどのような理由で刑務所に収容されているかは、風間さんたち主催者にも分からない。

応募作品が入っていた封筒も展示。筆跡、文字の配置、切手の貼り方なども1人ひとりまったく違う(提供:風間勇助さん)

「もしかすると、作品を見て『よく見る“普通”の絵と変わらない、大して面白くない』と思う方もいるかもしれません。でも『刑務所アート』と聞いて“期待していたもの”こそ、きっと日頃その人が刑務所という場所やそこに生きる人々に向けている目線で、そうした自分自身の眼差しも問い返してみてほしいです」(風間さん)

およそ「犯罪」とは結びつかないような、優しさにあふれたエッセイも(弁護士JP編集部)
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「死刑囚」と「被害者遺族」の対話

第2部では、絵を通して被害者遺族と対話してきた死刑囚2人の作品を展示している。

1人は、自身が殺害してしまった被害者の兄・原田正治さんとの交流で知られ、2001年に死刑が執行された長谷川敏彦さん。もう1人は、現在も拘置所に収監されながら、自身が描いた絵を、支援者を通じてカレンダーやポストカードとして販売し、その売り上げを被害者遺族へ送り続けている奥本章寛さん。

長谷川さんが描いた自画像。死刑執行から22年が経過した今も、原田さんの自宅で大切に保管されている(弁護士JP編集部)
加害者との交流を批判する人に対して、原田さんは「加害者に会いに行くことと、加害者を赦すということを混同している」と言う(弁護士JP編集部)

「死刑囚の表現というと、すごい事件を起こした“狂気の犯罪者”の絵、言葉を選ばなければ“キワモノ”のように扱われることもあると思います。ですが、塀を隔てながら『表現』を通して社会との関わりが生まれている、司法の仕組みの中では成し得ない時間をかけたコミュニケーションが文化的活動によって形になっていることを、私もこのプロジェクトの中で知りました。

そういった意味でも、今回は貸し会議室や社会復帰に関連した施設などではなく、“作品”を見ようとさまざまな人が訪れることができる一般のギャラリーに作品を展示することに意味があると思いました」(風間さん)

奥本さんの絵で作られたカレンダーやうちわ(弁護士JP編集部)

コミュニケーションによって「刑務所アート」は作り手と受け手の双方に影響を与える

刑務所アート展で風間さんがもっとも重要と考えたのは「コミュニケーション」だった。

「よく『表現活動は受刑者自身の更生に役立つ』と言われ、実際に余暇活動の時間は認められているし、ノートもペンも所持できるし、法務省が主催する文芸作品コンクールもあります。癒しにもストレス発散にも、自分を見つめ直す時間にもなっていると思います。

ですが、誰にも見られることのない、あるいは刑務官ぐらいしか見る人がいない、自分のノートに書き留めただけの表現だけでは、妄想や独りよがりになってしまいます。そうしたものが周囲を遠ざけ、結果的には孤立・孤独に陥り、場合によっては再犯にもいたってしまうかもしれません。

そうではなく、誰かに何かを伝えたいと思って作った作品が不特定多数の目に広く触れて、見た人が何かを感じ、その反応が作者に返ってくることで、他者を通して自分を見つめることにつながるのではないかと思います。私たちも塀の向こうに生きる人々への向き合い方が変わるかもしれない。そうした塀の内と外との双方向に影響を与え合う『コミュニケーション』が、『刑務所アート』として大きく意味を持つのではないかと考えています。

今回の応募者には、一般の方の目に触れることは伝えていますし、展覧会の終了後には、作品を見た方の感想を作者に届ける予定です」(風間さん)

加害者に焦点を当てた活動には「被害者の気持ちを考えろ」「加害者の支援ばかり」といった批判も付きものだ。

「もちろん、そういった声があることは知っています。私もかつてはそう思っていました。しかし、誰でも長い人生の中で加害者にも被害者にもなり得て、その先も人生が続きます。そうしたときに、アートや表現はぜいたく品ではなく、どんな過酷な状況にあろうと誰もが生きていくために必要なものと考えています。

長谷川敏彦さんが残した絵は、その絵を保管する被害者遺族・原田正治さんと対話をしてきた痕跡そのものです。そこには、当事者でなくして軽々しく“わかる”とは到底言えない、加害/被害という立場に置かれた人の、長い年月の中で変わっていく複雑な内面や関係性を想像させる力があります。

本展に集まった刑務所アートは、このような塀の内と外との関係性の上にあり、この社会にある刑務所という場所や制度、そこに生きる人々の存在をもっと広い視点で見つめる機会になればと思います」(風間さん)

■刑務所アート展
日時:2023年2月17日(金)〜3月5日(日)12:00~18:00 ※月・火は休廊、入場無料
場所:KOGANEI ART SPOTシャトー2F(東京都小金井市本町6-5-3 シャトー小金井 2F)
URL:https://project.pacr-lab.net/2023/01/18/exhibition/

ギャラリーの入り口は連雀通り沿いにある(弁護士JP編集部)
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