消防署で罵声や平手打ちのパワハラか。酷暑下の「体力錬成」後に死亡した救急隊員の遺族が都を提訴

弁護士JP編集部

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消防署で罵声や平手打ちのパワハラか。酷暑下の「体力錬成」後に死亡した救急隊員の遺族が都を提訴
写真はイメージです(iwasaki_2020 / PIXTA)

酷暑の中、上司に無理な運動を強いられ急性心機能不全により亡くなったとして、東京都・多摩消防署の救急隊員だった山崎勉さん(享年50歳)の遺族が、都に損害賠償を求める訴訟を11月30日付けで提起した。

トレーニング開始の5時間後に死亡

事件が起きたのは、2017年8月13日。午前中、自身の所属する出張所で執務にあたっていた勉さんは、午後から多摩本署に移動。上司にあたる大隊長Sの指導のもと、13時25分ごろから「体力錬成」と称するトレーニングを個人的に受けることになった。この日の多摩本署付近の気温は31.2℃、湿度は68%。暑さ指数は「厳重警戒」で、激しい運動は中止するべき気候だった。

「体力錬成」の内容は、持久走、階段昇降、腕立て伏せなど。酷暑という環境に加え、普段は救急隊員として勤務しており、体力維持のためのトレーニングを日常的に受けていなかった勉さんは、次第にペースが落ち、限界を訴えるようになった。それにも関わらず、大隊長Sは怒鳴りながら勉さんの背中を押して走らせ続け、罵声を浴びせたり、頬に平手打ちをしたりして体力錬成の中止を認めなかったという。

そして体力錬成を開始してから約1時間半後の14時53分ごろ、勉さんは急性心機能不全を発症。6分後、救急隊員が到着した際には心肺停止の状態に陥っており、その後病院に搬送されたが、18時10分ごろに死亡が確認された。

東京都は大隊長の行為を問題視せず

3年後の2020年、地方公務員災害補償基金はこの事件を公務災害と認定。遺族は東京都に対し損害賠償を求める民事調停を提起するも、都は「違法と評価されるべき職務行為が存在するものと必ずしも認識していない」として賠償責任を否定した。弁護団によると、都が提出した「回答書」には、大隊長Sのパワハラとも取れる行為に関して以下のような見解が示されていたという。

  • 怒鳴りながら訓練を続けさせたことについて
    「『頑張れ、ペースを落とすな』等と大きな声を掛けて被災職員(勉さん)を鼓舞していましたが、怒鳴りつけていたということはありませんでした」
  • 勉さんの背中を押して走らせ続けたことについて
    「被災職員が8周目を超えて完全に歩きそうになったため、上司(大隊長S)は、一緒に走りながら被災職員の背中を手の平で支えるように押しました」
  • 頬に平手打ちしたことについて
    「腕立て伏せの体勢のまま被災職員に『頑張れ』と言いながら、頬を1回叩いて励ましています」
記者会見でコメントする勉さんの弟(写真中央。11月30日 霞が関/弁護士JP編集部)

これらの見解に対し、代理人の青木克也弁護士は「非常に衝撃的で驚いた。都が認めている事実からも、暑熱環境の中で大隊長Sが運動の中止を許さず頬を叩くなど恐怖心を与えて無理強いをしていたことが伺える。過去の判例からも、大隊長Sには『訓練時における隊員の生命及び身体の安全を確保すべき指導員としての注意義務』を怠っていたことは明らか」と語る。

また、記者会見に同席した勉さんの弟は「調停の結果は残念ながら納得できるものではなく、裁判を行うこととなりました。裁判により兄が受けたことが公になり、パワハラが少しでもなくなり、全国の消防で働く皆さんが安心して働ける環境ができることを強く願います」とコメントした。

なお、提訴について東京消防庁に問い合わせたところ「提訴については認知しており、真摯に対応していきます」とのこと。パワハラを行ったとされる大隊長Sについては「東京消防庁に勤務していますが、勤務所属等は回答を控えさせていただきます」とのことだった。

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