産休すぐに閉店、突然の解雇…コロナ禍で業務停止したパン・洋菓子店ベルべ元従業員が語る内情

弁護士JP編集部

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産休すぐに閉店、突然の解雇…コロナ禍で業務停止したパン・洋菓子店ベルべ元従業員が語る内情
入口ドアに全店閉店をつげる告知が貼られた(ベルべ豊洲店/11月16日弁護士JP編集部)

負債は50億円を大きく上回る見込み

食感や香りなどにこだわった「高級食パン」が注目され、各社が売りを押し出してしのぎを削り、新規出店の勢いも衰えず活況を呈している。

空前のパンブームともいわれる中、11月8日、神奈川県内でトップクラスともいえる売上を誇っていた、パン・洋菓子店ベルべが事業を停止、全店舗の営業を終了した。帝国データバンクによれば、負債は金融債務を中心に50億円を大きく上回り、ベーカリーの倒産としては過去最大となる見込みだという。

健康・天然酵母にこだわった商品は神奈川県下の近隣住民を中心に支持されていたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受け、商業施設や駅ビル内の店舗が休業、営業時間の短縮により売り上げが大きく減少し、収益悪化が続いていたという。

SNSでも、「とても悲しいです」「ショックすぎて言葉にならん」「コッペパンが神だった」「復活してくれないかな」とその閉店を惜しむ声が広がっている。

閉店後も店内に什器が残る(ベルべ豊洲店/11月16日 弁護士JP編集部)

コロナ禍における営業時間の短縮要請の影響も

政府による外出自粛要請から在宅需要が拡大。パン自体の需要については、冒頭で紹介した高級食パンのような「プレミアム系」や、ドラッグストア、コンビニを中心に菓子パンなどは伸びているという。

ベルべの場合、都市部を中心とした店舗、駅ナカなどの商業施設を中心に展開していたため、営業時間の短縮要請下の影響などが直撃した形だ。また、コロナ禍の中、お台場、汐留に新店舗を展開、開業時の借り入れや高額なテナント料等も少なからず影響したのではないだろうか。

今回、正社員として10年以上ベルべ店舗に勤務、この10月まで出勤していたという女性Aさんに話を聞くことができた。産休に入ってすぐに全店閉鎖を知ったという。

閉店は「寝耳に水」だったが…

「私は都内の店舗に勤めていました。販売が中心で、主な業務はパートさんやアルバイトのシフト管理などです。売上は本社の方で一括管理をしていましたので、細かい数値は把握していませんが、コロナ禍になり確かに売上は下がっていました。

ただ、ここ最近は少しずつ持ち直していましたし、これまでより少し下がったものの、冬と夏の賞与もしっかり出ていましたので、まさに今回の閉店は寝耳に水という感じで呆然としてしまいました」(Aさん)

販売と製造は別部門のため、全体の詳細な勤務体系は把握していないというが、販売の女性は朝6時出勤、長くても18時までには帰宅することができていたという。残業した分は払われ、残業代の未払いなどの問題もなかったが…。

「9月に入ってからだと思います。一部の銀行口座に限ってですが『給与の振り込みが遅れるので、待ってください』というアナウンスがあり、遅配が始まっていました。そして、路面店舗を中心にペイペイなどの決済システムが突然使えなくなり、『お客さまにはシステムの都合と伝え、現金のみで対応して欲しい』との通達は本社からありました」(Aさん)

12月1日現在、ホームページは閉鎖されていない(ベルべ公式ホームページ)
全店閉店を告げるメッセージ(ベルべ公式ホームページ)

突然の解雇。今後とるべき対応とは?

今思えば前兆であったのかと思うが、そこまで深刻にはとらえていなかったというAさん。会社に問い合わせたところ、会社都合の解雇ということで、離職票や社会保険の喪失証明書などを受け取る手続きは行ったという。

「産休という立場の場合、失業手当などはどのような扱いになるのか。まったく想定していなかったことなので、戸惑いながらもネット検索で調べたりしています」(Aさん)というが、どのような対応が適切なのであろうか。労働問題に多く対応している品川菜津美弁護士に聞いた。

一般的に倒産などによる会社都合の解雇となった場合、どのような手続きから手をつけるべきでしょうか。

会社の事業縮小、リストラなどによる会社都合とは異なり、企業の倒産において、労働者ができることは実はそう多くはありません。

破産手続においては、労働者の未払い給与は、一定の範囲で優先して弁済が受けられるように保護されています。しかし、会社の借金がたくさんあり、財産がほとんどないというケースも多いと思いますので、会社が破産するような場合には、「未払賃金立替払制度」を利用することをおすすめします。

これは、労働者とその家族の生活の安定のために事業主に代わり、政府が立て替え払いをしてくれるという制度で、独立行政法人労働者健康安全機構で制度を実施しているもので、要件を満たした賃金や、退職金が立て替え払いの対象となります。

労働者が、破産等の申立日(法律上の倒産の場合)又は労働基準監督署への認定申請(事実上の倒産の場合)が行われた日の6か月前の日から2年の間に退職した者であることなど、他にも条件はありますが、立て替え払いしてもらえる額は、未払賃金の額の8割です。ただし、退職時の年齢に応じて88万円~296万円の範囲で上限が設けられています。

もちろん立替え払いは全額ではないので、残った負債に関しては、引き続き破産手続の中で届け出をし、弁済や配当を求めることは可能ですが、実際に払えるかというと、難しいケースが多いかもしれません。

※参照:「未払賃金立替払制度の概要」(厚生労働省)

今回お話を聞いた元従業員の方は産休という立場でしたが、対応は同様ですか。

産休となると実は若干複雑になります。まず、労働基準法第19条の「解雇制限」において、産前産後の女性は第65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は解雇できないとされています。

ただし、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においてはこの限りではない」とされています。この場合の「天災事変そのほかやむを得ない事由」が、今回のコロナにあたるかということについて、前例がないため何とも言えないというのが正直なところです。

また、産休の際、雇用保険に加入している方は、要件を満たせば「育児休業給付金」が支給されますが、これは育児休業終了後も引き続き雇用されるという社会復帰を支援する制度で、退職を前提に休んでいる方は対象外となります。会社倒産による解雇の場合についてハローワークに問い合わせたところ、やはり育児休業給付金の支払いは難しいようでした(ただし、上記のような解雇の有効性の問題はあるでしょう。)。

失業保険に関しても一筋縄ではいかず、こちらも「働くこと」を前提としているので、状況にもよりますが、就職活動ができるとか、働ける状態でないと給付が難しいようです。ただ、失業状態ではないと判断されても、妊娠・出産・育児(3歳未満に限る)などの理由があれば、手続きによって受給期間延長は可能です。なお、健康保険に関してですが、協会けんぽに確認したところ、要件を満たしていれば「出産手当金」は受給することはできるようです。

他の元従業員の方々が今後できる現実的な対応策というのはあるのでしょうか。

先ほどのお話と重なりますが、破産となると解雇の無効を争っていくことはなかなか難しい面があります。したがって未払賃金立替払制度の利用が現実的です。本来は、自分に残っている権利がどれだけあるのか、タイムカードなど自分の勤務実態を証明するものを日頃から確保しておくことが大事になりますが、前ぶれのない倒産などは難しいものですからね。

会社が破産することになった場合には、破産管財人に、給与や退職金などについて記載されている就業規則、賃金規定、退職金規定や、タイムカードなど労働実態を証明するための資料や、未払賃金立替払制度の利用にあたって必要となる証明書の交付を求めるなどしましょう。

その上で、失業保険をきちんともらい、次の就職先を探すなどが現実的な行動になり得ます。

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