刑務所で作られた「洗剤」が人気すぎて高額転売も? 知られざる“キャピック製品”の魅力

弁護士JP編集部

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刑務所で作られた「洗剤」が人気すぎて高額転売も?  知られざる“キャピック製品”の魅力
「キャピックショップなかの」外観(弁護士JP編集部)

日用品や財布・靴といった革製品、小さな文房具から大型の家具まで並ぶ「キャピックショップなかの」(東京都中野区)。

小銭入れが約300円、紳士靴が8000円台、整理棚は1万円台からと、売られている商品はどれもかなり安価な印象だ。地域密着型のディスカウントショップと言われても不思議ではないが、実はこの店で販売されている物はすべて「懲役刑受刑者」によって作られた“刑務所作業製品”である。

ブームが続くアウトドア用品も刑務作業で製作されたものだ。(弁護士JP編集部)

「キャピックショップ」の「キャピック」とは、刑務所作業製品の製作に必要な原材料を全国の刑務所等に提供し、出来上がった製品を販売・納品する事業を行っている「公益財団法人矯正協会 刑務作業協力事業部(Correctional Association Prison Industry Cooperation)」の頭文字をとったもので、“刑務所作業製品”も「キャピック製品」と呼ばれている。

刑務所作業製品とは?

懲役刑受刑者に義務付けられている(※)「刑務作業」は、自己の役割や社会的な責任を自覚させ、刑期を終えたあとの社会復帰へのハードルを下げることを目的として行われる。全国の刑事施設(刑務所、少年刑務所及び拘置所)75か所で刑務作業が実施され、受刑者約3万6000人が作業に当たっているが、キャピック製品はそのうち61か所の刑務所及び刑務支所で、約4900人の受刑者によって製作されている(2021年12月末現在)。

また、刑務作業では民間企業から受注した製品も作られる。新型コロナウイルス感染症の流行初期である2020年5月中旬から2021年3月末までの間、それまで輸入に頼っていた医療用ガウン約140万着が刑務作業によって製作され、全国の医療機関に送付された。

受刑者が医療用ガウンを縫製する様子。法務省矯正局HP(https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse10.html)より

民間企業から支払われる収入は、すべて国庫に帰属する。2021年度の刑務所作業収入は、約26億6000万円だった。一方刑務作業を行った受刑者らにも、作業に応じて「作業報奨金」が支給される。ひとり当たりの平均支給額(予算)は、1か月約4516円(令和3年度)で、これらは原則として釈放の際に生活資金の扶助として渡される。

なお、キャピック製品の販売を通して得た収益は、再び原材料提供事業の資金等に充てられるほか、キャピック製品の売り上げの一部は、矯正協会を通じて犯罪被害者支援団体の活動に助成されている。これまでの助成額は、累計7680万円にのぼる(2005年度~2021年度)。

(※)昨年6月に成立した「改正刑法」が施行されれば刑務作業は義務でなくなり、指導や教育により多くの時間をかけることになる。

最大の特徴は「質がよく安価」であること

刑務官の監視と専門職員(作業専門官)の指導の下で製造されるキャピック製品は、「質がよく安価」であることが最大の特徴だ。刑務作業協力事業部の櫻井智氏になかのショップの人気商品を聞いた。

1位は、横須賀刑務支所で製作されている固形の洗濯せっけん「ブルースティック」。シャツの襟元や子どもの運動靴など頑固な汚れが落ちると評判で、売り切れのことも多いという。

「不動の1位」横須賀刑務支所製作の「ブルースティック」。3本セットで400円(税込み)。

2位は横浜刑務所の「乾麺」。細うどん、平めん、中華めんなどの種類があるが、なかのショップでは「細うどん」が一番人気だそう。

乾麺はいずれも横浜刑務所で作られている。1袋160円(税込み)。

3位は「ブルースティック」にオレンジ油が入った、その名も「ブルースティックオレンジ油入り」。ちなみに「ブルースティック」には液体のものもあり、こちらも人気商品に肩を並べている。

油をよく溶かす性質があるオレンジオイルを配合している。1本150円(税込み)。

なかのショップに限らず、全国的にみても「ブルースティック」と「乾麺」が上位に入るという。

「特に『ブルースティック』は全国的に見ても不動の1位です。以前は“箱買い”のようにして購入される方もいました。ただ、コロナ禍の影響で生産数が少なくなり、転売も相次いだことから、欲しい方が買えなくなってしまったという経緯があり、今では購入制限を設けています」(櫻井氏)

転売された「ブルースティック」をインターネット経由で購入していた人が店に訪れた際には、「安いから偽物じゃないか」と疑われたこともあったという。

インターネットで検索してみると、3本組×2セット(計6本)約2400円で販売されていたケースもあった(※2023年1月27日現在)。一方、キャピック製品の直販サイトでは、3本組×2セット(計6本)800円。送料を含めても1200円と、“転売商品”は約2倍も高いことがわかる。さらに展示・販売場や全国の矯正展などのイベントでは1セット400円から購入できる。

「伝統工芸品」づくりの担い手という側面も

ランキングには入っていないが、櫻井氏がおすすめする製品は子ども用の積み木。「手作業の丁寧なやすり掛けによって角がとられていて安全だし、木の肌ざわりがとてもいい。価格も手ごろで、プレゼントにも向いていると思います」。

引き車に入った子ども用の積み木、3260円(税込み)。(弁護士JP編集部)

また、店内には富山刑務所や千葉刑務所で受注・製作されている「神輿(みこし)」も飾られていた。青森刑務所では津軽塗、山口刑務所では萩焼など、各地の刑務所等ではその土地の工芸品も作られており、刑務作業には「伝統工芸品」づくりの担い手という側面もあるという。

全国でお祭りが再開されつつある中、神輿の需要も徐々に高まっているという。(弁護士JP編集部)

キャピック製品の購入方法

キャピック製品が常設で展示・販売されている施設は全国に35か所。なかのショップ以外はすべて刑務所に併設されている。直販のインターネットサイトでも製品を購入できるほか、全国のショッピングモールなどで行われる即売会イベントや、法務省が主催する「矯正展」でも実物を手に取ることができる。

「なかのショップの店舗は売り場面積が広く、全国から製品が集まり品数も一番多い。でも、生産数が少なくて全国に流通しないような製品もあり、その地域・その場所によって販売しているものも少しずつ異なります。広島でしか購入できない『広島東洋カープ』とのコラボ製品のように“地域限定品”もあります。

『ブルースティック』以外にも魅力的な商品がたくさんあるので、まずはキャピック製品を知っていただいて、全国の店舗や即売会イベントなどに足を運んでもらえたら嬉しいです」(櫻井氏)

※クレジットのない製品写真は、キャピック製品直販サイト(https://www.e-capic.com/)より引用

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