会社の新年会で「酒の飲み過ぎ」階段から転落し大けが…“労災”は下りる?

林 孝匡

林 孝匡

会社の新年会で「酒の飲み過ぎ」階段から転落し大けが…“労災”は下りる? 昨今、飲酒を強要する「アルハラ」なども問題になっているが・・・(Fast&Slow / PIXTA)

「宴会後、事故にあったら、労災って下りるの?」
「急性アルコール中毒になったらどうなの?」
「じ、自分でぇ〜、飲みまくった場合わぁ〜、ど、どうなんでひょう?」

お・・・押忍。新年会シーズンなので今回は【会社の宴会で労災は下りるのか?】について解説します。過去の裁判例をもとに宴会時に心がけるべきこともお届けします(弁護士・林 孝匡)。

宴会が「業務」といえるかどうか

宴会が「業務」と認定されれば労災が下ります。

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労災保険法 第7条
 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
1 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
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ただ・・・そのハードルは高いんです。

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▼業務じゃないと認定されたケース
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裁判例を2つ紹介します。

■会社の忘年会の終了後に宴会会場(ホテル)の玄関近くで車にひかれ負傷したケース。従業員は忘年会に参加強制をされてはいなかったとして業務遂行性を否定(福井労基署長事件:名古屋高裁金沢支部 S58・9・21)。

■出張先での送別会出席後に酩酊(めいてい)状態のまま川で溺死したケース。「出張中の行為であっても、積極的な私的行為等が行われた場合には、事業主の支配関係から脱したものとして業務遂行性は失われる」としたうえで、会合が有志により企画されたものであり、任意参加・会費制であったことなど経緯から業務遂行性を否定。(立川労基署長(東芝エンジニアリング)事件:東京地裁 H11.8.9)。

上の2つのケースでは裁判所は「宴会は業務とはいえない」と認定。労災が下りず。

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▼業務だと認定されたケース
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逆に「この宴会は業務だね」と認定した裁判もあります。

■宴会お開き後に車で同僚を送り届ける際、交通事故で死亡したケース(もちろんノンアルコールで運転)。このケースでは、以下を理由に『業務遂行性』を認めました。

  • 社員さんは宴会に参加しないと回答
     資料作成の仕事のが残っていたため
  • 上司がチョイゴリ押し
     「今日が最後だから、顔を出せるなら出してくれないか」「資料が完成していなけれは、歓送迎会終了後にキミと一緒に資料を作成するから」とチョイゴリ押したので、断れない状況に追い込まれる。
  • 本来は上司が車で送る予定だったけど、結局Xさんが運転などの事情に照らして、宴会の業務遂行性を肯定しました(国・行橋労基署長(テイクロ九州)事件:最高裁 H28.7.8)。

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▼ポイント
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裁判所が注目するポイントはおおむね以下の通りです。

  • 参加が強制されているのか
  • 強制されてないにしても事実上参加せざるを得ない状況だったのか
  • 会費は会社がもつのか、社員が出すのか

このあたりを総合考慮して業務遂行性の有無を認定しています。

帰り道の事故

裁判所が「その宴会は業務だね」と認定したとしても油断は禁物です。

  • 飲み過ぎダメ
  • 宴会が終わったらサッサと帰りましょう

労災が下りなかった裁判例を1つ紹介します。

■会合終了後、帰宅途中の地下鉄の階段で転落し後日死亡したケースです。裁判所は会合の業務遂行性は認めたのですが、通勤災害と認めることはできないと判断しました。

  • 多量の飲酒をして、相当程度酩酊(めいてい)していた
  • 会合が終了した午後7時頃から、3時間ほど参加者と飲酒、居眠りもしていた
  • 午後10時15分頃に帰宅を開始
  • 本件事故には酩酊状態が大きく関わっている(部下に支えられてやっと歩ける状態だった)

というものです。

この裁判例が教えてくれる教訓は、

  • 飲み過ぎダメ
  • 宴会が終わったらサッサと帰りましょう!

あと、1次会の宴会は業務と認定されたとしても、自由参加の2次会に行くと、その後の事故はほぼアウトだと思います。

自らの意思での2次会参加は“アウト”?(mits/PIXTA)

宴会中の事故

飲み過ぎはダメ! については、裁判例を2つ紹介します。飲み過ぎの果て、吐しゃ物が原因で死に至ってしまったケースです。

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▼労災認定されなかったケース
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裁判所は「宴会は業務だ」と認定したのですが、自分でガバガバ飲んでしまった挙句の死亡なので業務起因性がない(=労災は認定できない)と判断しました。その方が飲んだ量は。約2時間程度で缶ビール(350ml)を2〜3本+日本酒1.8リットルです。上司から「お前ちょっと速いよ」と指摘されていたようです(品川労基署長事件:東京地裁 H27.1.21)。

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▼労災認定されたケース
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これは、飲まざるを得なかったと認定されたケースです。翌朝ホテルで吐しゃ物により窒息死してしまいました・・・。詳細は割愛しますが、仕事をとるために乾杯を繰り返すことは業務上不可欠と認定されました。気になる方は下記の事件名でググってみてください。
(渋谷労基署長(ホットスタッフ)事件:東京地裁 H26 .3 .19)

営業さんは、とくに留意しておいていただければと思います。取引先の接待で飲まされることはありませんか? 会社の命令(または事実上断ることができない状況で)飲まされた場合や、仕事をとるためには飲むことが必須だった場合、その状態で何らかの事故が起きれば、労災を勝ち取れる可能性があります。体育会“オラオラ系”の会社にお勤めの方は、録音状態で宴会に臨むのも手です。

どんな給付が受けられる?

もし労災が下りれば、以下の給付が受けられます。

  • 療養補償(労働基準法75条)
    ザックリいうと無料で治療を受けることができる
  • 休業補償給付(労働基準法76条)
    ザックリいうと毎月、給料の80%をもらえる
    休業補償給付(60%)+休業特別支援金(20%)
    治癒するまでずっと(or 症状固定するまでずっと)
  • 障害補償(労働基準法77条)
  • 遺族補償(労働基準法79条)
  • 葬祭料(労働基準法80条)

最後に

建前は自由参加なんだけど、この飲み会ほぼ強制だよな」と思っている方は多いのではないでしょうか。そんな方は【参加せざるを得なかった】ことを立証するために色々な証拠を集めましょう(録音・メールなど)。

そして、教訓としては、宴会でバカ飲みしない、宴会が終了したら【さっさと】【普段どおり】の帰宅経路で帰ることをオススメします。



【筆者プロフィール】
林 孝匡(はやし たかまさ)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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