医師が勤務中に死亡… 残業時間「過労死ライン」以下でも“労災認定”された理由

林 孝匡

林 孝匡

医師が勤務中に死亡…  残業時間「過労死ライン」以下でも“労災認定”された理由
亡くなった医師は勤務中の十分な休憩や睡眠時間の確保が難しかったという(つむぎ / PIXTA)

過労死してしまった医師の事件です。

ご遺族が労災申請をしましたが・・・労働基準監督署は労災を認めませんでした。
しかし、昨年3月に逆転。ついにご遺族の思いが実り、労働保険審査会が「労災認定」しました。

労災認定が下りた理由は、労働時間【以外のストレス】も考慮してくれたことにあると思います。厚生労働省の新基準にのっとってくれたのだと思います。新基準では「労災認定を検討するときは労働時間【以外のストレス】も考慮すべき」と明言しています。以下、事件とともに解説します(弁護士・林 孝匡)。

事件の内容

過労死してしまったのは三重大学の医師です(44歳・男性)
4年前の2月、大学構内の研究室で倒れ・・・翌日お亡くなりになりました。

遺族は労災申請をしましたが、津労働基準監督署は労災認定をしませんでした。理由は、過労死ラインを越えていなかったというもの。具体的には、医師が亡くなる2か月前から6か月前の1か月の平均残業時間が80時間を超えていなかったことを理由に挙げました。

Q.
え・・・残業時間が80時間を超えなければ、ゼッタイに労災は下りないんですか?

A.
いや、80を超えてなくても下りることはあります。厚生労働省の新基準に書いてるので。

話を戻します。

ご遺族は不服を申し立てました。
結果、逆転です。労働保険審査会が労災を認めました(2022年3月)。
理由は、残業時間は過労死ラインに達していなかったけれども、通常業務の研究のほか大学の付属病院で宿直勤務を行うなど十分な休憩や睡眠時間の確保が難しかったというものです。

新基準の以下の要素が考慮されたと推測できます。

  • 勤務間インターバルが短い
  • 不規則な勤務・交代制勤務・深夜勤務
  • 心理的負荷を伴う業務
  • 身体的負荷を伴う業務

後ほど解説します。

「過労死」の定義

ここでザッと基礎知識を。

「過労死」とは、その名のとおり、働き過ぎが原因で命を失ってしまうことです。
一応、定義があります。

過労死等防止対策推進 第2条
①業務における過重な負荷による脳血管疾患、心臓疾患を原因とする死亡 ②業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡

過労死ラインとは

厚生労働省では、労働時間だけで言えば、以下を過労死ラインとしています。

  • 発症前2か月間〜6か月間に1か月当たりの時間外労働が80時間を超えること
  • 発症前1か月間に1か月当たりの時間外労働が100時間を超えること

これまではこの基準がネックだったんです。というのも、この基準を杓子(しゃくし)定規に適用して、80時間または100時間を超えていなければ労災が下りないケースが多かったんです。

これはイカン。労働時間【以外のストレス】も影響して脳・心臓疾患に罹患(りかん)して過労死に至るケースがある、ということで、厚生労働省が新基準を定めました。

厚生労働省が発表した新基準

厚生労働省は、2021年9月、脳・心臓疾患の労災認定基準を改正しました。
そこでは長時間労働と過労死の関係性について新たな基準を示しています。

明言されたことは、

  • 単純に労働時間だけで判断しない
  • 労働時間【以外の負荷要因】も総合的に考慮して評価する

というもの。

労働時間【以外の負荷要因】として以下の要素が挙げられています。

  • 勤務時間の不規則性
     拘束時間の長い勤務
     休日のない連続勤務
     勤務間インターバルが短い勤務
     不規則な勤務・交代制勤務・深夜勤務
  • 事業場外における移動を伴う業務
     出張の多い業務
     その他の事業場外における移動を伴う業務
  • 心理的負荷を伴う業務
  • 身体的負荷を伴う業務
  • 作業環境
     温度環境
     騒音

今回の医師のケースは、労働時間だけでなく

  • 勤務間インターバルが短い
  • 不規則な勤務・交代制勤務・深夜勤務
  • 心理的負荷を伴う業務
  • 身体的負荷を伴う業務

という要素も考慮されて労災認定されたのではと推測してます。上記要素の詳細は、前出の「脳・心臓疾患の労災認定基準」をご覧ください。

過去の裁判例

労働時間【以外の負荷要因】も加味して業務の過重性を判定し、脳・心臓疾患発症の業務起因性を認めた裁判例は多いです。

  • 出向先子会社での困難な管理業務
    (中央労基署長(興国鋼線索)事件:大阪地裁 H19.6.6)
  • 夜間交代制勤務、ライン外業務
    (豊田労基署長事件:名古屋地裁 H19.11.30)
  • 営業職の早期、夜間、休日の変則業務
    (相模原労基署長事件:横浜地裁 H21.2.26)
  • 深夜の勤務
    (北大阪労基署長事件:大阪高裁 H21.8.25)

最後に

報道によると、ご遺族の代理人となった弁護士さんは「従来の認定基準では労働時間が重視されていて『過労死ラインを越えない場合は認定しない』という運用だった。しかし、心理的緊張などさまざまな要素があり亡くなっている人もいる。今後も、今回のケースのように、救済されるべき人が救済されてほしい」と述べています。

残業時間が80時間を超えてなくても労災が下りるケースはあります。

残業時間が45時間を超えたあたりから過労死の序章です。 「働きすぎて、ちょっとヤバ・・・イ」という方、コチラ(厚生労働省「STOP!過労死」)のチェックリストでご自身の状態を確認してみてください。相談するところも記載されています。

今回は以上です。
これからも働く人に向けて知恵をお届けします。



【筆者プロフィール】
林 孝匡(はやし たかまさ)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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