「素手でしばきあえ」少女に“タイマン勝負”させたガールズバー経営者が逮捕… 「決闘罪」って何?

中原 慶一

中原 慶一

「素手でしばきあえ」少女に“タイマン勝負”させたガールズバー経営者が逮捕… 「決闘罪」って何?
他の店舗関係者も少女らの「決闘」を見物していたという(※写真はイメージです ペイレスイメージズ 2 / PIXTA)

「むかつくんやったらタイマンしたらええやんけ。場所用意したるわ!」

昨年末、ちょっとした話題になったのが、大阪市内のガールズバーで、17歳の少女らに“タイマン”つまり「決闘」させた疑いで同店の経営者の男(30)が逮捕された件だ。

ルールは「武器を使わず素手でしばきあうこと」

報道によれば、昨年8月3日深夜、大阪市北区の路上で、ガールズバーの元従業員A(18)と従業員の少女B(17)を含む4人が、Aが無断で仕事を休み、そのまま退職したことで、口論となった。それを見ていた男は冒頭のように言い放ち、少女らを“会場”の系列店に移動させ、”タイマン勝負”させた。ルールは「武器を使わず素手でしばきあうこと」。

男の立ち合いの元、AとBは5分間に渡って殴打を繰り返し、Bは首を捻挫するなどの怪我をした。大阪府警は、昨年10月、男を傷害罪や暴行罪ではなく、決闘罪で逮捕した。

一方、昨年5月には、京都府内のコインパーキングで、同じ不良グループに所属していた当時共に25歳の男が、「タイマン張ったるわ。来んかい」などと決闘を挑み、互いに殴り合ったとして決闘罪で逮捕されている。

明治22年に制定された「決闘罪ニ関スル件」という法律

「決闘罪」とは耳慣れないない罪名だが、時折、ニュースになる。明治22(1889)年、つまり130年以上前に旧武士階級の決闘などを想定して作られたという「決闘罪」に関する法律。その詳細について、刑事事件などの対応も多い、ベリーベスト法律事務所の池辺瞬弁護士に聞いた。

「決闘罪」とは、そもそもどのようなものなのでしょう。

池辺弁護士:決闘に関する罪は、明治22年に制定された「決闘罪ニ関スル件」という法律により規定されています。「決闘罪ニ関スル件」には、決闘に関与した者について、その関与の仕方に応じて罰則が定められています。

「決闘」とは、判例によると、「当事者間の合意により相互に身体又は生命を害すべき暴行をもって争闘する行為」とされています。「当事者間の合意により」という点がポイントですので、当事者の合意がなく突然始まった喧嘩や暴行は、ここでいう「決闘」にはあたりません。

「決闘罪」に問われた場合、どのような罰則が科せられるのですか。また、例えば酒に酔った上での喧嘩も「決闘罪」が適用されるケースなどはありますか?

池辺弁護士:「決闘ニ関スル件」では、以下のような行為について、罰則が定められています。

  • 決闘を挑んだ者、またはこれに応じた者:6か月以上2年以下の懲役
  • 実際に決闘をおこなった者:2年以上5年以下の懲役
  • 決闘の立会人となった者、または立ち会いを約束した者:1か月以上1年以下の懲役
  • 事情を知って決闘の場所を提供した者:1か月以上1年以下の懲役

以上のように、『実際に決闘をした者』だけではなく、『決闘を挑んだ者』『これに応じた者』『立会人となった者』『事情を知って場所を提供した者』も罰せられます。大阪市のガールズバー経営の男が逮捕されたケースはこれにあたります。

また、「決闘=当事者間の合意により相互に身体又は生命を害すべき暴行をもって争闘する行為」について、上記のような行為を行えば「決闘ニ関スル件」に違反することになりますので、例えば、酔った上で当事者が、「黙らせてやるから表に出ろ!」「やってやるよ!」と述べて、合意が成立すれば、「決闘ニ関スル件」違反となり得ます。

「ヤクザの抗争」などは決闘罪にはあたらないのでしょうか?

池辺弁護士:前述のとおり、「決闘=当事者間の合意により相互に身体又は生命を害すべき暴行をもって争闘する行為」について、挑んだ者やこれに応じた者、実際に決闘を行った者は「決闘ニ関スル件」違反となります。

そのため、暴力団同士が、事前に日時、場所等を決めて、暴力行為を行えば、「決闘ニ関スル件」違反となり得ます。

一方、暴力団同士が事前に日時や場所等を決めることなく、突発的に暴力行為を行った場合は、当事者間の合意はありませんので、「決闘ニ関スル件」違反とならないと考えられます。

いわゆる映画「ファイトクラブ」のように、歌舞伎町のクラブなどで秘密裏に行われていると言う「地下格闘技」は決闘罪にはあたらないのでしょうか?

池辺弁護士:プロの格闘技選手(ボクシング選手、K-1選手など)が試合を行う場合、事前に日時や場所等を取り決めた上で行いますので、形式的には「決闘ニ関スル件」に違反することになりますが、一般的には、これらについては刑法35条に定められている正当行為として、罰せられないことになります。

一方、もし「地下格闘技」なるものが存在する場合は、そのような「地下格闘技」については、刑法35条の正当行為には該当しないと考えられるため、それが事前に日時や場所等を取り決めた上で行われている場合は、「決闘ニ関スル件」違反となり得ると考えられます。

「決闘罪」など、一見、今の市民感覚からは時代にそぐわないように思える法律もありますが、他に同様の法律の例などはありますか?

池辺弁護士:「決闘ニ関スル件」は、明治22年に制定されました。当時の日本では、紛争の決着をつける方法として、決闘と同様の果たし合いが用いられることがあり、また、同時期頃に伝来していた西洋の文化にも、決闘によって紛争を解決する文化がありました。そのため、このような決闘文化が日本に広まることがないようにすべく、「決闘ニ関スル件」が制定されました。

しかし、結果的には、決闘文化が日本において一般的な紛争解決手段として広まることはなく、現代においては「決闘ニ関スル件」が適用される場面はかなり限られており、市民の目線からは時代にそぐわない法律とも思える状況になっています。

この点は、改正前の民法も同様でした。民法のうち債権関係の規定は、明治29年に制定された後、約120年間ほとんど改正がされていませんでした。市民に身近な法律関係を規律する民法の債権関係の規定が約120年も改正されていなかった結果、時代にそぐわない状況となっている部分が多々ありました。

そこで、民法の債権関係の規定について、市民生活において最も基本的な法律関係である契約に関する規定を中心に、社会の変化への対応を図るため、約120年ぶりに改正され、一部の規定を除いて令和2年4月1日から施行されました。

こうした法律に関してのご意見などをお願いします。

池辺弁護士:法律は、制定された当時の社会情勢や価値観に基づいて制定されるため、時代が進めば、時代にあわない内容となってくることはあります。そのような場合には、新しい社会情勢や価値観にあわせる形で、柔軟に改正等が検討されるべきと考えます。

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