ベストセラー『こども六法』“すごろく” 本職の 「弁護士」がやったら簡単にゴールできる?

弁護士JP編集部

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ベストセラー『こども六法』“すごろく”  本職の 「弁護士」がやったら簡単にゴールできる?
「遊びながら法律を学べる」内容で人気となっている(写真:弁護士JP)

コロナ禍での巣ごもり需要の高まりによってボードゲームがひそかなブームとなっているのはご存じだろうか。元祖ボードゲームともいえる「すごろく」も、現在ではさまざまな種類が発売されている。

累計62万部を突破したベストセラー『こども六法』のすごろく版もそのひとつ。

「遊びながら法律を学べる」内容で人気となっているが、実際に法律を扱う“弁護士”にとってどのくらいの「歯ごたえ」なのだろうか。そんな疑問を解消すべく、弁護士による「こども六法すごろく大会」を緊急開催した。

簡単? 意外と難しい? 果たしてどのような展開となるのか…。

精鋭3人が集結! まずはルール説明

今回、大会に参加してくれた弁護士は、こちら3人の精鋭。

杉山大介弁護士

刑事弁護に多く対応する・杉山大介弁護士。3人の中では一番先輩ということもあり、本大会の主導権は杉山弁護士にあり?

五十嵐優貴弁護士

小説家・五十嵐律人としても大活躍、デビュー作『法廷遊戯』の映画公開も控える二刀流・五十嵐優貴弁護士

早矢仕麻友弁護士

優しそうな雰囲気とは裏腹に、スタート前から出題されるクイズカードを読み込み予習に余念がない早矢仕麻友弁護士。勝ちにこだわる姿勢はまさに弁護士のかがみ…!

すごろくのルールは簡単で、サイコロを振って出た目の数だけマスをすすめ、止まった箇所に書かれた指示に従うというのが基本ルールだ。通常のすごろくに「クイズ」と「イベント」が加わる。

「クイズ」のマスに止まったプレーヤーは、法律にまつわる「クイズカード」を引き、○か×で解答。正解すればそのカードがもらえ、難易度に応じたポイントが与えられる。

「イベント」のマスに止まった場合は、「イベントカード」を1枚引く。イベントカードには、カードを引いたプレーヤーだけが参加する「超難問クイズ」、他のプレーヤーも巻き込んだ「富の再分配」「累進課税ゲーム」「公共財購入」「法改正ディスカッション」の計5種類が用意されている。

弁護士ではノーマルルールが簡単すぎる可能性もあるため、オプションルール「(星3つのレベル3カード)異議申し立て制度」(※)をさらにカスタマイズし、レベル3カードを引いたプレーヤーは解説本に書かれた「キーワード」に正解しなければならないというルールを追加した。

(※)オプションルール「レベル3」の異議申し立て制度
レベル3のクイズカードを引いたプレーヤーの解答が間違っていると思ったときは、「異議あり!」と申し出ることができる。申し出たプレーヤーは、解説本に書かれた「キーワード」をあげて、自分の答えが正しい理由を説明しなければならない。成功すれば間違えたプレーヤーからカードを奪うことができる。

早速、ゲームスタート!

弁護士独自ルールでゲーム大荒れの予感

1巡目は、3人ともカードをひかず。五十嵐弁護士は幸先の悪い「1回休み」マスに。2巡目で、杉山弁護士が初のクイズに挑戦する。

〈内閣総理大臣になれるのは、国会議員だけである〉

杉:答えはYes!理由は議院内閣制だから!(即答)

――正解です!

早:杉山先生、予習しましたか?

杉:するわけないじゃないですか!(笑)

五十嵐弁護士を飛ばし、早矢仕弁護士もクイズのマスに。

〈自動販売機に忘れられていたおつりはもらってもよい〉

早:これは×です。

杉:なぜですか?

早:理由も言うんですか…?

五:弁護士ですから!

早:(小声で)占有離脱物横領罪…。

五:遺失物じゃなくていいんですか?

早:怖いよ~。(考えて)…遺失物横領で、ファイナルアンサー、お願いします!

――正解です!

杉:(カードを見ながら)僕としては、これは、窃盗にならないかが気になりますね。

五:目の前でおつりを取り忘れたのを見ていたのに、言わずに取った場合ですか…。

早:確かに、おつりの所有者が近くにいたら窃盗罪ですね。

杉:そう。そこの前提事実は出ていないので、窃盗の可能性は残ってるかなと。

――ガイドブックには〈落とし主が落とした直後拾って自分のものにした場合などには、「窃盗罪」という犯罪になることもあるよ〉と書かれています。

杉:場合分けが示されているんですね、さすが!

法律の“建前”と“運用”は違う!?

杉山弁護士は2マスもどる。1回休んだ五十嵐先生のサイコロの目は6。五十嵐弁護士は、なんとここから7連続で“何も起きない”マスに止まり続けることとなる…。

五:〈スタートにもどる〉だ…。え~何もしてないんですけど!

早矢仕弁護士は星3のクイズに挑戦。

〈犯罪をしたと疑われている人が無罪になるためには、証拠を提出して自分が無罪であることを証明しなければならない〉

早:これは×です。

五:星3なので、キーワードもお願いします。

早:はい(挙手)! 疑わしきは被告人の利益に!

――正解です。

3人:(拍手)

杉:でも、現実の刑事裁判では、無罪の立証責任は被告人が負っております! 私たち弁護士は、あくまで有罪の立証責任は検察にあると考えているのですが、実務上では、特に薬物事案などで「疑わしい」「よくわからない」だと、むしろ政策的に有罪に認定していくような、運用が行われているのが実情だと思っています!

早:うんうん。え、でも、不正解ってことですか…。

杉:問題には正解ですので、ポイントはもらってください(笑)。

弁護士による“法改正”ディスカッション

五十嵐弁護士以外はクイズカードの正解を何度か繰り返し、ゲームが進んでいく。杉山弁護士のターンで、イベントのマスに止まり、すごろくの基本ルールを変更するための「法改正ディスカッション」が開催されることに。

〈こども六法すごろくのルールを変更する
下のルール変更のうち、どれを採用するかひとつだけ選び、多数決で決定する。
①合計得点の1番低いプレーヤーが勝ちとする
②サイコロを3回ふり、出た目の中で好きな数を選んでコマを進める
③ゴールした時、最下位が一番多いポイントをもらう
④ルール変更をしない〉

改正案のうち杉山弁護士は「よりゲームを楽しむために」と②サイコロを3回ふり好きな数字を選ぶを提案。さらに、「3人なので“全会一致”でのみ法改正を成し遂げられるということにしましょう」と自らの首をしめる独自ルールを取り入れたところ、ビリをひた走る五十嵐弁護士の「否決!」の一声でディスカッションが早々に終了してしまうことに。

杉:残念ながら、法改正せず国会は会期を終えました(笑)。ちなみに五十嵐さんは何の法案がよかったんですか?

五:そりゃ、①得点の低いプレーヤーを勝ちとするですよ!

早:それは私が否決します!

3人:(笑)

仕切り直して五十嵐弁護士がサイコロをふるも〈タイムワープ〉

五:僕、いまだに何もしてません。

杉:法改正でサイコロ3回振るルールにすれば、違う未来があったかもしれないのに…。でも五十嵐さん、何も起きてないけど、順調に前には進んでますね。

続く早矢仕弁護士はクイズのマスに。引いたカードは…

〈刑事裁判における黙秘権は、言いたいことは言わなくてもいい権利なので、何も言わなくても裁判で不利になることはない〉

五:いい問題。

早:法律上は〇ですが…、実務がどうかという話は、杉山先生お願いします。

杉:はい(笑)。「何も言わなくても」だと、自分に有利な主張も言わないということなので、信用性が比較されたときに、相対的に不利な要素は出ちゃうと思います。

五十嵐弁護士の下克上がスタート!?

杉山弁護士は、星3の問題に挑む。

〈国民の権利は、憲法に書かれているものがすべてであり、憲法に書かれていない権利は認められない〉

杉:これは×で、キーワードは幸福追求権です。

――正解です。7回連続何も起きなかった五十嵐先生、そろそろ革命がはじまりますか…?

五:まだ間に合いますよね。(サイコロを振る)クイズだー!!

ついにクイズのマスに止まった五十嵐弁護士に、思わず全員が拍手を送る。

〈罰金は、犯罪の被害者に対してお金を支払わせる刑罰だ〉

五:「犯罪の被害者に対して」だから、×ですね。国庫に帰属します。

――正解です。

続けて早矢仕弁護士もクイズに挑戦。引いたカードは『こども六法』が力を入れる「いじめ防止対策推進法(通称:いじ防)」からの問題。

〈学校は、いじめを受けた子どもを守るために、加害者を被害者が使う教室とは別の場所で勉強させることができる〉

杉:「いじ防」のクイズが出てくるの、難易度が高いですね。

早:そうですね…。これは〇で!

杉:正解です。

早:やったー!

続く杉山弁護士は、またまた星3の問題に挑戦し、安定してポイントを増やしていく。

〈法律で犯罪とされている行為をすれば、その法律を知らなかったとしても、刑罰を受けなくて済む理由にはならない〉

杉:「理由にはならない」だから〇。キーワードは「法の不知は許さず」です。

――正解です。

五:条文が言えたら正解にしましょうよ。

杉:なんで突然!(笑)…さては五十嵐さん、作品で使いましたね?

五:バレたか。

3人:(笑)

五:今、書き進めている原稿で使ったんですよ。杉山先生、条文ご存じないんですか!(笑)

杉:くっ…。忘れてしまいましたね…刑法の…3…34条1項!

五:ブー!38条です~!

3人:(笑)

ここに来て流れにのる五十嵐弁護士は〈右隣の人とマスを入れ替える〉マスに。不動の一位だった早矢仕弁護士に下克上を果たす。

早:うわー!やられた!

五:ほとんど何もしないでここまで来ましたよ(笑)

さらに早矢仕弁護士が引いたイベントカード〈累進課税ゲーム〉で、運も五十嵐弁護士に味方をし始める。

〈全プレーヤーがレベルの1番低いカードを1枚ずつ出し、手持ちのクイズカードの枚数が一番少ない人に渡す〉

五:狙い通りです!

3人:(笑)

早:じゃあ私星2が一番低いカードなのでこれを。

杉:さすが早矢仕さん、富豪発言ですね(笑)。僕は憲法カードをいっぱい持ってるから、1枚あげます。

まさか! “民法改正”の影響ここに現る

ついにゲームは終盤戦へ。3人ともクイズカードを危なげなくクリアしていく。

〈少年法では20歳未満の男の子を少年、20歳未満の女の子を少女と呼ぶ〉

杉:×です。少年は少年です!

早:民法で成人年齢は18歳に引き下がりましたけど、少年法では少年は20歳のままでしたっけ?

杉:ままですね。18~19歳は「特定少年」と呼ばれます。

続く五十嵐弁護士は待望の「超難問クイズ」に挑戦。

〈ひどいことを言って相手を精神的に攻撃し、自殺に追い込んでも、自分の手で殺したわけではないので殺人罪になることはない〉

五:実例があるとはあまり思えないんですけど、可能性がゼロではないので×。

――正解です。

杉:脅迫し、自殺するしか選択肢がない、命令に応じるしかないと思わせて自殺に追い込んで殺人罪が適用されています。この場合、自ら意思決定もできていないので自殺教唆における「自殺」ではなく、「殺人」のほうになっています。

五:へ~! 勉強になるなぁ。

ゴール間際のデッドヒート

なかなかクイズに間違えることがない3人。しかしここで、“ひっかけ”クイズに早矢仕先生が引っかかることに…。

〈結婚は本人の自由なので、両親の同意をもらう必要はない〉

早:×です!未成年だと同意が必要です。

――ガイドブックでは、〈この法律は2022年に変わって、答えは〇になる〉と書いてあります!

早:やられた!

杉:あれ、同意も一切いらなくなってるんでしたっけ?

3人:(一斉にスマホを開いて調べ始める)

杉:女子は16歳からっていうルールはなくなったんですけど…。あ、737条消滅してる! 婚姻適齢が男女とも成人の18歳からになったから、許可うんぬんの話じゃなくなったんだ。

早:改正は4月1日付けで、もう現時点では同意いらないですね。…恥ずかしい!

間違えたカードを没収される早矢仕弁護士。ラストスパートで、杉山弁護士は「1回休み」や「6マスもどる」で足踏み状態に。そうこうしているうちに…五十嵐弁護士が大逆転劇を納める。

五:あれ、僕ゴールです!やったー!1位!

最後の最後でサイコロ運がなかった早矢仕弁護士を、後ろにいた杉山弁護士が抜かして2位でゴール。早矢仕弁護士も続けてゴールを決め、全員がゴール地点へ。

――1位の五十嵐弁護士は、カードの合計得点に10ポイントを足してください。2位の杉山弁護士は5ポイント。3位の早矢仕弁護士は3ポイントです。

五:34点です!

杉:31点…。

早:私も31点だ~悔しい!

――序盤“何もしなかった”五十嵐弁護士がまさかの優勝です!

3人:(拍手)

五:法律じゃないとこで勝っちゃいました(笑)。

対象年齢は“法学”2年生!?

――面白い展開がたくさん起こり、先生方の“生”の知識も伺うことができて、進行係としてもとても興味深い体験でした。実際にプレイしてみていかがでしたか?

杉:みんなで解答についてあれこれ話すのが、正解かどうかよりも面白かったですね。

五:楽しみながら法律を学べるから、子どもにとっては法律を学ぶいいきっかけになるんじゃないかと思いました。

――子どもにはちょっと難しい問題も多いように思いました。

早:たしかに結構難しいですよね。和解とか保釈という言葉も知っている必要があるし。

五:“法学”2年生向けですかね…。

3人:(笑)

五:というのは冗談で、たしかに難しいところもあると思うんですけど、解説がちゃんと準備されているので、読みながらやれば学びにもなる。僕はこれくらい難しい方がいいと思いました。

杉:小学生だと面白さがピンとこないかもしれないので、中学生くらいがいい気がします。クイズをきっかけに、「この法律ってどういうことだろう」とか、すごろくの盤面から外に出て考えてくれると、さらに発展があるかなと思いました。

早:学校や家庭生活といった日常に即した問題が多いので、「法律的にはどうか」、「自分の考えはどうか」ということも考えやすくて、お子さんでもやりやすいと思います。

杉:まずは親御さんが解説を読んで、出てくる法律を子どもに説明できるようになってからだと、より良いかもしれないですね。それくらい中身がしっかりしていました。

早:負けちゃったけど、私も楽しかったです! 次は賞品ありでやりたいです!

■すごろく情報
『こども六法すごろく』
著:山崎聡一郎
絵:伊藤ハムスター
価格:2,200円+税
発行:幻冬舎

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