弁護士が選ぶ「2022年ニュースTOP10」 ランキング1位は“禁断の扉”を開いたあの事件

弁護士JP編集部

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弁護士が選ぶ「2022年ニュースTOP10」 ランキング1位は“禁断の扉”を開いたあの事件
旧統一教会の実態について記者会見する「全国霊感商法対策弁護士連絡会」(7月12日 都内/弁護士JP編集部)

物価高、円安、電力不足、五輪汚職、ウクライナ侵攻、北朝鮮のミサイル発射…。さまざまなニュースが世間を騒がせた2022年が終わろうとしている。

今年起こったニュースは、法律家の目にはどのように映っていたのだろうか。さまざまなメディアでコメントする機会も多い杉山大介弁護士に、印象に残ったニュースを選出、1位〜10位までランキング化してもらった。

10位:吉野家「生娘シャブ漬け」発言

4月16日、早稲田大学の社会人向け講座で、牛丼チェーン「吉野家」の常務取締役企画本部長(当時)伊東正明氏が、若い女性をターゲットにしたマーケティングを「生娘をシャブ漬け戦略」と表現。不快に思った受講者がFacebookに投稿したことがきっかけで大炎上し、同氏は講師・取締役ともに解任される事態となった。なお同氏は、P&Gのブランドマネージャーとしてグローバル市場の開拓を手がけた経歴を持つなど、マーケティング業界では著名な人物だったという。

杉山弁護士:要するに「ジャンクフードに病みつきにさせる」という趣旨なんでしょうけど、吉野家の牛丼のイメージ自体を損なっていますし、それを他所から来た、いわば吉野家のふんどしで相撲をやっている広告屋が言っているのが感じ悪いと思いましたね。女性だけでなく自社も軽く見るような言説なので、役職を辞することになったのはやむを得ないかと。

5月には“外国籍”を理由に就活説明会への参加を拒否したとして、吉野家は再び炎上した(弁護士JP編集部)

9位:スシロー「おとり広告」

回転ずしチェーン「スシロー」が2021年9~12月に行っていたウニやカニのキャンペーンについて、実際には完売や在庫不足などで商品の提供ができない状況を把握しつつ、広告を出し続けていたとして、消費者庁が6月9日に「景品表示法」に基づく措置命令を出した。同社は7月8日にホームページで「お詫びと対応策」を公開したものの、その直後には「ビール半額」フェアの開始日が記載されていない広告を、フェア開始前から店内に掲示していたことが発覚し、企業体制に疑問の声が上がった。

杉山弁護士:規制法に反した広告というのは、ままあるんですよね。根拠を説明できない文言を使わないというのが、広告規制に引っかからないためには大事です。ただ、基本的には問題を是正する手続きが生じるだけなので、強気で法規ギリギリを狙ってしまう企業もあるようです。

「新物!濃厚うに包み」などのキャンペーンを展開していたが…(弁護士JP編集部)

8位:かっぱ寿司社長、前職「はま寿司」の営業秘密を不正に持ち出し逮捕

9月30日、回転ずしチェーン「かっぱ寿司」の代表取締役社長(当時)田邊公己氏が、以前勤めていた「はま寿司」から仕入れ値や取引先情報を持ち出したなどとして「不正競争防止法違反」の疑いで逮捕された。この騒動を巡っては、同法の両罰規定(※1)により、同社も法人として書類送検された。なお田邊氏は10月3日付で辞任している。

(※1)企業内で一定の地位を持つ従業員が法律に違反した場合、その従業員に一定の地位を与えた事業主(法人や代表者)も併せて処罰の対象になるという規定

杉山弁護士:不正競争防止法の「営業秘密」に限らず、秘密保持契約などで特定される秘密情報なども、実際に流出した場合に、その流出経路を特定して責任を追及するのは難しいところがあります。そのため、これらの規定や契約は、抑止力的な側面も強いのですが、今回はメールで露骨に足跡を残していたのが決め手になったようですね。すべての違法行為が取り締まられているわけではない現状はありますが、決して甘く見てはいけないものだと思います。

7位:杉田水脈議員、Twitter中傷投稿「いいね」訴訟を最高裁へ上告

ジャーナリスト・伊藤詩織さんを誹謗中傷する複数のツイートに「いいね」を押したとして、伊藤さんが杉田水脈衆議院議員に損害賠償を求めた裁判で、東京高裁は10月20日「限度を超えた侮辱行為で不法行為に当たる」として、杉田議員に55万円の支払いを命じた。これを不服とした杉田議員は、11月2日に最高裁へ上告した。

杉山弁護士:「いいね罪」とか言われましたけど、これほど露骨で明白な事件で認められたからといって、インターネットの自由が損なわれたとは思いません。前後で行っていることの文脈から言って、その意図するところは明白ですし、客観的な事実から評価を受けることすら嫌だというのは、わがままというものです。民事は結局、個人同士の争いですしね。

6位:侮辱罪厳罰化

7月7日に改正刑法が一部施行され、これまで「拘留(30日未満)又は科料(1万円未満)」だった侮辱罪の法定刑が「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に引き上げられた。厳罰化の実現には、リアリティショー「テラスハウス」に出演し、SNSで誹謗中傷を受け自ら命を絶った木村花さんの母・木村響子さんや、「池袋暴走事故」で妻と幼い娘を亡くし、その後SNSで誹謗中傷の被害に遭った松永拓也さんらの働きかけが大きな後押しとなった。

杉山弁護士:こっちはインターネットの自由を大いに脅かすものだと思いますね。もともと、木村花さんの件も、いじめを視聴者参加型で行うリアリティショーという番組構造そのものの問題が無視され、あおられて参加していただけの人たちの誹謗中傷が問題かのように取り上げられたのは、極めて感情的で疑問だと思いましたし、池袋の事件とかも、被害者への誹謗中傷ばかりが注目され、「加害者は何を言われても放置」な運用は疑問です。

法務省「法務省:侮辱罪の法定刑の引上げ Q&A」(https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00194.html)より

5位:梨泰院雑踏事故

韓国・ソウルの繁華街「梨泰院(イテウォン)」で10月29日夜、ハロウィンによる混雑の中で発生した群衆事故。わずか5.5坪ほどの範囲で300人以上が折り重なったと言われており、呼吸困難などで日本人2人を含む150人以上が亡くなった。この事故を受け、2日後のハロウィン当日の渋谷では警察が厳戒態勢をとった。

杉山弁護士:兵庫県明石市で2001年、花火大会の時に起きた事故を思い出しました。こういう時、日本の報道は映像にかなりフィルターをかけるので海外メディアを見たのですが、人が重なったまま表情が固定化しているものなどもあり、すでに亡くなっているのかなどと察せられ、痛ましい気持ちになりました。法的に言えば、場所の構造・危険性を踏まえ、人の誘導といった管理の問題が生じてきます。

4位:知床遊覧船沈没事故

4月23日、北海道・知床半島西海岸沖で観光船「KAZUⅠ(カズワン)」が沈没した事故。乗客乗員26人全員が死亡または行方不明となっている。事故後の調査では、運行会社のずさんな安全管理体制が明らかになった。なおKAZUⅠは、2021年にも浮遊物に衝突する事故と座礁事故を起こしており、国交省による特別監査、改善指導が行われていたという。

杉山弁護士:知人が同時期に知床旅行を計画しており、自分も同じエリアで遊覧船に乗っていたため、他人事ではない感覚でした。こういう問題は、犯罪として考えるとより現場側に直接の原因があるのですが、社会問題としてとらえると組織の構造などに本当の問題点があったりします。そして、後者の方が法的な責任に変換するのは難しい。検察官がそういう難しいところに挑まないこととかがしばしばあって、個人的にはもやもやしたりします。

遊覧船は「カシュニの滝」沖合で沈没したとされる(ピース / PIXTA)

3位:香川照之の性加害騒動

俳優・香川照之氏が2019年7月に銀座の高級クラブを訪れた際、ホステスのブラジャーをはぎ取って匂いを嗅いだり、キスをして胸を直接触ったりしていたことが、『週刊新潮』8月24日発売号で明らかになった。当事者同士は示談が成立していたと見られているが、報道をきっかけに香川氏は朝の情報番組『THE TIME,』をはじめとするレギュラー番組や、『トヨタイムズ』など5社以上あったCMを降板する事態となった。

杉山弁護士:歌舞伎の世界では「灰皿テキーラ」とかもありましたので驚きはしませんでしたけど、割と知的なバックグラウンドを持った香川照之でもこうか、とは思いましたね。法律家として引っかかったのは、香川氏の性加害は事実だとしても、ごまかしたり逃げたりしたわけではなく、少なくとも法的に可能なもっとも誠実な慰謝の形はとっていると見られるので、後から罪が分かった類型の事件とは一線を画すと思います。当事者でもないところから漏れたようなのも、何だかなあという気はしました。

2位:東電元会長らに「損害賠償13兆円」支払い命令

福島第一原発事故の責任を、東京電力の株主らが同社旧経営陣5人に求めた「東電株主代表訴訟」の判決が7月13日に東京地裁で言い渡され、元会長らに13兆3210億円の賠償が命じられた。賠償額は国内の裁判で最高額と見られている。元会長らはこれを不服とし、7月27日に控訴した。

杉山弁護士:きっちり事実認定と評価をした結果なのでしょうけど、やっぱり腹をくくった判決だと思いましたね。こういう判決を出すと地方回り(※2)が確定するというのが、実例としても存在しているので、信念を持って結論を出したのだろうと敬意を抱きました。

(※2)地方の裁判所に異動すること。踏み込んだ判決を言い渡した裁判官は地方に“左遷される”と、まことしやかに言われている

福島第一原発。事故の影響で合計約14万6520人が避難を余儀なくされた(zumanph / PIXTA)

1位:安倍晋三元首相銃撃事件

7月8日、奈良・大和西大寺駅前で参院選の応援演説をしていた安倍晋三元首相が銃撃され、死亡した事件。この事件をきっかけに、安倍元首相をはじめとする自民党員と旧統一教会との関係や、犯人と同じように親の信仰に苦しめられている「宗教2世」の存在が広く知られるようになった。なお、旧統一教会の被害者救済として12月16日に「被害者救済法」「改正消費者契約法」などが交付され、来年1月5日に施行される予定。

杉山弁護士:大きな事件だったと思います。ただ、私は民主主義の危機とかテロだとは全く思わず、統一教会との関係という極めて個人的な事情に基づく事件だったと認識しています。とはいえ、社会には混乱が生じるかとも思いましたが、結論として日本社会は、かなり冷静にこの事件を受け止め処理したとも評価しています。総理大臣であろうが主権者の一人に過ぎず、その不在によって動じない社会こそ、民主主義的には成熟していると思います。そこらを読み誤った岸田政権は、国葬強行以降、支持率の低迷から抜け出せなくなりましたね。

渋谷区の高級住宅街・松濤にある旧統一教会の本部(弁護士JP編集部)
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