最悪「減給」も!? 健康診断“受けない人”が「意外と知らない」健康面“以外”のデメリット

宮田 文郎

宮田 文郎

最悪「減給」も!? 健康診断“受けない人”が「意外と知らない」健康面“以外”のデメリット
保険組合や行政から送られてくる検診の案内(写真:弁護士JP編集部)

少々の時間を割きはするものの、自らの健康状態を把握でき、自覚症状が現れにくい病気の早期発見や治療につながるなど、果たす役割は大きい健康診断。

コロナ禍では受診率低下が問題となっているが、受けていないままだと、知らず知らずのうちに病魔にむしばまれる恐れもある。しかも、会社勤めの場合は特に、健康診断を受けていないデメリットが健康面だけにとどまらないという。人事・労務対応に詳しい遠藤知穂弁護士に話を伺った。

雇い入れ時健診や定期健診の実施は事業者の義務

会社員であれば、年に1回、健康診断を受けている人がほとんどだろう。もしも久しく受けていない場合は、注意が必要だ。会社員などの健康診断については、労働安全衛生法で規定され、頻度も定められているからだ。

「労働安全衛生法は、労働環境を安全かつ衛生的に保つためのさまざまな措置を定めたものです。そのなかで、事業者には『健康診断を実施する義務』、『労働者には健康診断を受ける義務』が定められています。一般的な会社の場合、入社時の健康診断と1年以内ごとに1回の定期健康診断を実施しなければいけません」(遠藤弁護士)

遠藤弁護士によると、ラジウム放射線にさらされる業務、坑内での業務といった特定の業務に従事する場合や海外に赴任する場合は、実施時期や頻度が別に定められているとのこと。ここまでは「一般健康診断」と呼ばれるものだが、さらに鉛業務や除染業務などに常時従事する場合などは、検査項目を増やした特殊な健康診断が義務づけられているケースもあるという。

実施しない事業者には罰金を科すことも

一般的な会社では、健康診断を年に1回は実施していなければ「問題あり」ということになるが、令和3年「労働安全衛生調査」(厚生労働省)によると、一般健康診断を実施した事業所の割合は91.4%。100%には届いておらず、事業所の規模が小さくなるほど実施率が低下しているのが実態だ。せっかく会社が実施しても、社員が受けないケースもあるようだ。

実は事業者が健康診断を実施しない場合や労働者が受診しない場合、“健康面”以外にもマイナスが生じることになる。それぞれ処分を下される恐れがあるのだ。その内容は、事業者と労働者のどちらに問題があるのかで異なってくる。

「事業者が健康診断実施の義務に違反した場合は、『50万円以下の罰金』が科されます。もしも勤めている会社が健康診断を受けさせてくれない場合は、所轄の労働基準監督署に相談や通報をするといいですよ。聞き取りのうえで、労基から会社に対して、指導や勧告が行われます。

一方、労働者側は健康診断を受けないでいても罰則はありません。しかし、会社から再三健康診断を受けるよう言われたのに従わないでいると、それをもとに会社が懲戒処分を下す可能性もあります。心当たりのある方は、気をつけたほうがいいでしょう」(同)

健康診断を拒否し続ければ思わぬ減給も…(Luce/PIXTA)

個人事業主は“健康診断”とは無関係?

ところで、ここまでの話は会社勤めではない個人事業主には無関係にも思えるが、そうとも言えないようだ。

「個人事業主自らが健康診断を受けていなくても、ペナルティーはありません。ただ、『従業員を使用している』となると、話は別です。

個人事業主も “事業者”にあたり、法人と同じく従業員のために健康診断を実施する義務を負います。違反すればペナルティーとして、50万円以下の罰金を支払うことになります」(同)

ちなみに、雇い入れ時と定期の一般健康診断では、既往歴および業務歴の調査、血圧の測定など11項目を行うよう定めている。定期健診においては医師が必要でないと認める場合は基準に基づいて省略できる項目もあり、胸囲の検査や胸部エックス線検査などが該当する。しかし、40歳を過ぎると“特定健診”の対象となり、省略可能な項目はグッと減ることになる。

“特定健診”とは、事業者ではなく健康保険組合などの医療保険者に対して、40歳から74歳の被保険者と被扶養者に実施するよう義務づけたものだ。

受診率が低い健保や共済組合には、後期高齢者支援金への拠出金が増額されるペナルティーが設けられているので、ますます気をつけねばならない。なお、会社などの事業者による定期健診は保険者による健診よりも優先され、特定健診の項目も含まれている。

血液検査からは脂質や血糖値、肝機能などがわかる(show999/PIXTA)

健康診断後のフォローも事業者の大切な義務

特定健診がメタボ対策を念頭に置いているように、健康診断は結果をもとにどう生活を改善していくかが重要となる。悪い結果が出たらどうしようと不安で健診へ行くことをためらって人もいるかもしれないが、労働者に病気が見つかった際に事業者はどう対処すべきか、その後のフォローについてもしっかりと労働安全衛生法に定められている。

遠藤弁護士によると、労働者に病気が見つかった場合、事業主には医師等からの意見聴取や労働者への通知、健康診断の結果に基づく保健指導(努力義務)などの義務があるという。

必要と認めるときは作業の転換や労働時間の短縮等の措置も講じなければならないほか、「やってはいけない」こともある。

「事情によりますが、病気を理由にした解雇は、無効と判断される可能性があります。病気が理由で現在の業務ができないとしても、他の業務への配置転換の可能性、ある程度の休職によって業務を再開できる可能性などについて、事前の検討は必須でしょう。

また、本人の同意がないにもかかわらず、他の従業員に病気のことを伝えるのもNG。もし伝えてしまうと、損害賠償が認められることもあります」(同)

事業者側にさまざまな配慮が要求されることを考えても、労働者側が健康診断をためらうメリットはないと言えるだろう。

2022年も残りわずかとなったが、健康診断は、暦年や年度といった区切りとは別に、年に1回、自分の体について見つめ直すいい機会でもある。万一の場合に、無理せず仕事を続けるためにも、欠かさず受けておきたいところだ。

取材協力弁護士

遠藤 知穂 弁護士

遠藤 知穂 弁護士

所属: ベリーベスト法律事務所

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