宗教2世「運が悪かった」で済まない事情…荻上チキさんが「当事者1131人」の調査から見えたもの

弁護士JP編集部

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宗教2世「運が悪かった」で済まない事情…荻上チキさんが「当事者1131人」の調査から見えたもの
荻上チキさん。パーソナリティを勤めるラジオ番組でも「宗教2世」の特集を展開している(弁護士JP編集部)

「宗教2世」は、今年もっとも注目を集めた存在の一つと言えるだろう。親が特定の宗教を信仰し、その教義の影響を色濃く受けて育った彼らが何を感じ、どう育ってきたのか――。そのリアルに迫る書籍『宗教2世』が、11月に太田出版から刊行された。

編著者であり、自身がパーソナリティを務めるTBSラジオ「荻上チキ・Session」(月~金曜 15:30~17:50)などで当事者たちの声に耳を傾けてきた荻上チキさんに話を伺った。

“襲撃事件”の前から特集しようと思っていた

本書は、2022年7~9月にTBSラジオ「荻上チキ・Session」で宗教2世問題を取り上げた内容に、大幅な加筆・修正を加えたものだ。刊行の背景について、荻上さんは「メディアを通して発信された専門家の知見や当事者の声を、活字というかたちで一冊にまとめることで、横断的に参照できるようにしておく必要を感じた」と言う。

安倍晋三元首相襲撃事件の一報から本書刊行に至るまでの心境を荻上さんが振り返る「はじめに」では、「番組(編注:荻上チキ・Session)ではたまたま、安倍元首相の殺害事件がある前から、『選挙が終わったら、宗教と政治や、宗教2世に関する特集をしよう』と決めていた」との記載がある。

「なぜあのタイミングでやろうと思っていたかは、自分でもよくわかりません。でも、例えば『給食にハラルフードを取り入れよう』といった宗教への合理的配慮が注目される一方、宗教によって虐待される、強要されるといった体験をしている人たちにも目を向けなければならないということ自体は、以前より考えていました。ちょうど7月の選挙が終わって、特集が自由に組みやすくなるタイミングだったというのもあると思います」(荻上さん)

「事件後、政局がこうなるとは想像していなかった」という荻上チキさん(弁護士JP編集部)

当事者1131人の声で見えた「教団ごとのカラー」とは?

宗教2世による経験の告白を巡っては、「宗教ではなく家庭の問題」と矮小化させるような反応が、現役信者のみならず、時に第三者からも出ることがある。これに反証するエビデンスとして、荻上さんが主宰する「社会支援調査機構チキラボ」では、2022年9月に宗教2世を対象とした実態調査を行った。1131人(※1)の当事者から回答を得た結果、特定の宗教や教団の2世であることによって、“一定の経験”を持つ人が相当数いることが分かったという。

(※1)回答者1158人のうち有効回答1131件を分析

「調査を通して、宗教2世の『体験』に対する解像度が上がったように思います。例えば『エホバの証人の信者は輸血を拒否する』といった話を知識として知っていても、どのくらいの信者がどの程度の強さでその教義を強いられているかは、実際のところ不明でした。

ところが今回の調査では『一定の教団の2世が、一定の共通する経験を持っている』ことが浮き彫りになりました。当事者の証言ベースで『宗教経験のリアル』をすくいあげられたのは大きな発見だったと思います」(荻上さん)

本書では以下のように、実態調査によって明らかになった「教団ごとの2世体験の傾向」についても分析されている。

  • 教団による宗教行事や宗教行為などへの関与要求頻度は、エホバの証人が高かった(中略)。一方、「献金」と「身体を酷使する修行の要求」については、旧統一教会の要求頻度が教団においても、家族においても、他教団と比べずば抜けて高い。
  • 政治活動への関与要求頻度は、創価学会がかなり高かった。教団・家族ともに高いが、特に教団からの要求頻度が、家族の要求頻度よりも上回っている点が特徴だ。
  • 勧誘活動の要求頻度については、エホバの証人が圧倒的に高い。一方で、友人への勧誘については、エホバの証人も高いが、創価学会も高かった。そして両者ともに、家族よりも、教団からの要求頻度のほうが高めに出ている。

2世問題「運が悪かった」では済まされない

旧統一教会問題を巡っては、「被害者救済法」「改正消費者契約法」などが今月16日に交付され、来年1月5日に施行される。これについて荻上さんは「なんとなく契約と取り消しの話になって矮小化されているように感じます。次期国会ではカルトの団体規制と虐待対策について議論してほしいし、むしろ目玉にならないとおかしいと思います」と言う。

「改めてになりますが、宗教2世の問題は『家庭問題』ではありません。『親ガチャ』『毒親』という言葉もありますが、そうした問題を抱えて社会を生きていくことになる人を意図的に作り出す集団があって、そこから離脱できずに苦しむ人々がいるんです。『運が悪かった』だけでは済まされません。

どの家庭に生まれても、どの集団に所属していてもやり直しができて、繋がりなおすことができる社会をつくることはとても重要だし、公助の話を進めることによって彼らを救うこともできます。

国会で議論を進めてほしいのはもちろん、国民一人一人にも、どのような提言が行われているのかをチェックするなど、彼らを救う具体的な手段があることを知ってほしいです。それが分かれば、何か無力感を味わって『どうせ自己責任だろう』みたいな議論に飛びつかずに済むはずです」(荻上さん)

12月23日には「代官山 蔦屋書店」で、本書刊行イベントとして、荻上さんと精神学者・松本俊彦さんによるトークイベント 「『宗教と依存』――カルトを渡り歩く人たち」が開催される(オンライン配信あり)。

カルト宗教の脱会後も、陰謀論、マルチ商法、オーガニックカルトといった“新たなカルト”を渡り歩いてしまうという「カルトの依存性」を知ることで、2世問題への理解がさらに深まりそうだ。

■ イベント情報
日時:2022年12月23日(金) 19:00~20:30(15分前より入場/接続可能です)
場所:代官山 蔦屋書店/Zoomウェビナー機能を使用したオンラインライブ配信
※参加方法など詳細はDAIKANYAMA T-SITEホームページにて(https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/30358-1729271126.html)

■ 書誌情報
『宗教2世』
編著:荻上チキ
発行:太田出版
価格:2000円+税

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