「東京の発言力は鳥取の半分以下」 最高裁で「一票の格差」弁論

ベンジャミン クリッツァー

ベンジャミン クリッツァー

「東京の発言力は鳥取の半分以下」 最高裁で「一票の格差」弁論
会見する升永英俊弁護士のグループ。奥から2番目が升永弁護士(12月14日 霞が関/ベンジャミン クリッツァー)

12月14日、「一票の格差」が最大で2倍以上であった昨年10月の衆院選は違憲であるとして選挙無効を求める16件の訴訟の上告審弁論が、最高裁大法廷で開かれた。

本訴訟は山口邦明弁護士を中心とするグループと升永英俊弁護士を中心とするグループによってそれぞれ提起されており、今回は両グループによる弁論が行われた。

「一票の格差」とは?

「一票の格差」とは、同一の選挙で選挙区ごとに有権者数や人口数が異なることから、国会に選出される議員が代表する有権者の数(選挙で投票された数)も議員によって異なる、という問題。

たとえば、昨年の衆院選の時点で選挙区ごとの有権者は、最も少なかった鳥取1区では約23万人である一方で、最も多かった東京13区はその2倍以上である約48万人だった。このため、東京13区の有権者が投票によって行使することができた「国政への発言力」は、鳥取1区の有権者の半分以下であったことになる。

上告審弁論の後に行われた会見では、両グループの弁護士が「一票の格差」の問題について論じた。

山口グループの三竿径彦弁護士は、「すべての国会議員は同じ数の国民を代表するべきである」は訴訟に参加した弁護士全員の一致する意見であると述べ、「ある議員は60万人を代表しているが、別の議員は30万人しか代表していない」といった状態で開かれる国会でなされる決定が国民の意志と同一であるとは言えない、と語った。

また、升永グループの伊藤真弁護士は、前回の選挙では全有権者の約13%である約1360万人の国民にとって、自分の一票の価値が鳥取1区などに比べて半分以下の状態で選挙が実施された、という問題を指摘。

同じく升永グループの久保利英明弁護士は、「一票の格差」が存在し選挙区によって有権者数に差がある現状では、人口の多い選挙区の有権者が行使できる国政への発言力が弱まり、人口の少ない選挙区の有権者が行使できる発言力が強まるために、選挙や国会の原則である「多数決」が実際には機能しておらず「少数決」と言うべき状況になっている、と論じた。

格差是正を目的として「アダムズ方式」が導入されるが…

11月18日に成立した改正公職選挙法では、国勢調査の結果に基づいて都道府県ごとの小選挙区数を見直す計算式である「アダムズ方式」を導入。これにより、次回からの衆議院選挙は、小選挙区の数が5都県で合計10増えて10県で合計10減った「10増10減」の状態で選挙が実施され、「一票の格差」は最大でも1.99倍となることが予定されている。

しかし、伊藤弁護士は「アダムズ方式で改善が見込まれるから合憲だ、と国は言うが、(アダムズ方式では)容易に2倍を超えてしまうような程度までにしか是正できない」と批判。アダムズ方式によって小選挙区の数が増減された後に、各選挙区で有権者が流入・流出すると、また2倍以上の「一票の格差」が生じる可能性があることを指摘して、「確実かつ安定的に実現した制度と言っておきながら、予想外の人口移動が起こったから今回は2倍以上になった、ということを平気で国が言うのはおかしい」と論じた。

また、山口グループの國部徹弁護士は、「アダムズ方式はゴールではない」という演題の弁論を行った。國部弁護士は、昨年の衆議院選挙はアダムズ方式ではなく2017年に行われた選挙と同じ定数配分のままで行われたことを指摘して、次回からアダムズ方式が導入されることを理由に前回の選挙を合憲とすることは「昨年の選挙まで国会が何もしなかったことを正当化しようとしています」「次は直されるのだから今回は我慢せよ、というに等しい態度です」と批判。

そのうえで、アダムズ方式で一票の格差が是正されるとしても、アダムズ方式ではあくまで改正前の定数配分を前提にしており、「大規模都道府県を犠牲にして小規模都道府県を優遇する、という構造的な偏り」は依然として残ることを指摘。

国民の人口と衆議院の議席合計298議席を各都道府県に比例配分した場合の、各都道府県の議席の「取り分」を示した表に基づきながら、東京都に本来配分されるべき議席数は「31.6789」であり、端数を切り捨て・切り上げすると「31」または「32」のどちらかとなるべきだが、アダムズ方式では「30」しか東京都に配分されないことを批判。「本来配分されるべき議席数を無視した配分にほかならず、代表者による多数決という民主主義のしくみの根本から外れます」と論じた。

また、山口グループは、最も人口の多い選挙区と最も人口の少ない選挙区を比べる「最大最小比指標」ではなく、全選挙区を比較する「LH指標」に基づいて選挙区を決定すべきであると主張している。

「国会活動の正当性が認められない」

両グループの弁護士が強調しているのは、「一票の格差」が存在する状況で行われる選挙では多数決という原則が破られている時点で「違憲」であり、選挙は無効になる、という主張だ。

また、ある議員は60万人の有権者を代表しているのに、別の議員は30万人の有権者しか代表していないのなら、後者の議員には前者と同等の発言力を国会で持つだけの正当性がない、とも指摘。そのうえで、無効となるような選挙で選ばれた議員や正当性のない議員を含んだ国会の活動にも正当性は認められない、と論じている。

升永弁護士は、現状の選挙を前提とする国会では、主権者である国民の意思が正しく反映されていない。そのために、仮に憲法改正が国会で3分の2以上の議員の賛同を得たとしても、その議員たちには「国民の投票の価値」を減殺するほどの裁量権は認められないのだから、争点に関わらず憲法改正は無効とすべきである、と主張する。その上で、「集団安保などの争点に関わらず、憲法を改正するための手続きの正当性がそもそも認められていない」と論じた。

判決の期日は未定だが、遅くとも年度内に言い渡される見通しだという。「一票の格差」訴訟には憲法判断が必要となるため、通常、15人の最高裁判所裁判官全員で構成される「最高裁大法廷」で審理されることになる。

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