進路妨害の「路上駐車」VSバス運転手“猛クラクション”警告がSNS拡散で泥沼炎上… 法律違反はどちら?

弁護士JP編集部

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進路妨害の「路上駐車」VSバス運転手“猛クラクション”警告がSNS拡散で泥沼炎上… 法律違反はどちら?
騒動が起きた通りは、バス以外に大型車の通行量も多かった(写真:弁護士JP編集部)

11月3日、住宅街の“バス通り”に路上駐車をした車の運転手が、バス乗務員から注意を受ける動画をTwitterに投稿し、“炎上”するという騒動があった。

投稿者は、「(乗務員に)クラクション鳴らされまくって怖かった」とツイートしており、バス会社の対応を“炎上させたかった”ものと思われるが、他のユーザーらからは「叱られて当然だ」と非難され、逆に自身が“炎上”したものだ。

投稿者は、あらかじめ炎上狙いだったため、自身の素性がバレないよう、いわゆる“捨てアカウント”を利用して動画を投稿しており、騒動から1か月以上が経過した今も新たな動きはない。

騒動はなぜ起きた?

報道によると、バス乗務員は通行の妨げになっている路上駐車の車を発見し、クラクションを何度か鳴らして警告したが、車が動かなかったという。

路上駐車があった場合は、ナンバープレートを控え、営業所に報告。これを受けた営業所が警察に連絡する、という会社の取り決めに従い、乗務員はナンバープレートを控えるためにバスを降車して、止まっていた車に近づいた。すると、動かなかった車の中に、運転手らが乗車していたことがわかり注意した。

一方、自動車の運転手か同乗者によってSNSに投稿された動画は、乗務員がバスを降車して近づいてきているところから録画されている。

乗務員が「どんだけ注意したと思って…ずっとここ(車内)にいたってことでしょ。(クラクションを鳴らされてることは)分かってて、ずっとわざといたってことでしょ?」と尋ねると、運転手は「そんなに(クラクション)鳴らす必要ないんじゃないの? みんな通っていたけど、バスとか」と反論。

しかし乗務員が「通ってたバスがあるんだね」と聞き返すと、「知らないけど。車とか通ってたけど」と発言が一転した。これに対し乗務員は「車は通れるに決まってんだろ! バスの車体の幅、どんぐらいか分かってんの?」と声を荒らげた。

言い返せないと思ったのか運転手が「じゃあ、まあいいけど。とりあえず、もう大丈夫」と反応、乗務員がバスに乗り込むところで動画は終わっている。

動画のやり取りでは全容が分かりにくいが、実際の現場は、車通りが多く、道幅も想像より狭い。「路上駐車禁止」の看板も目につき、周辺にコインパーキングが多くあるのも印象的だ。路線バスの車幅を考えると、“一時的”でも車を停車してもいい場所には到底見えなかった。

駅からもほど近く、歩行者や自転車の往来も多い(弁護士JP編集部)
マンションの塀沿いにも「駐車禁止」と書かれた障害物が置かれている(弁護士JP編集部)
バス以外にも取材中には大型車が多く通過していった(弁護士JP編集部)
駅から現場に向かう道に設置されていた大きな看板。「バス通り」であることが明記されている(弁護士JP編集部)

世間の反応は「路上駐車する方が悪い」

“捨てアカウント”に投稿されたツイートは〈#あおり運転 #関東バス〉と拡散を促す「#」(ハッシュタグ)が使われていた。実際に、投稿者の思惑通り、1.1万を超えるリツイートがなされ、4000件を超える返信がついている(2022年12月15日現在)。

しかし、投稿者は意図しなかった反応に驚いたのではないだろうか。その返信のほとんどすべてが、〈ハザードをつけたらどこに停めても良いと思ってるの? 〉〈免許返納してください! 〉などと投稿者を批判するものだったからだ。中には〈道路交通法に違反しているのでは 〉と法律に違反していることを指摘するリプライもあった。

騒動の舞台となった関東バスは、報道機関の取材に対して乗務員の行動は「間違っていた」として、車の運転手に謝罪したと語っているが、SNSでは「間違ったことはしていないのでは?」「会社はクレーマーではなく運転手を守るべき」といった反応もあった。

市民感情としては成敗がついたといえるが、この騒動の問題はどこにあったのだろうか。交通事故の対応を多く手掛ける、海嶋文章弁護士に話を聞いた。

道路交通法上、乗務員と運転手の違法性は?

今回の騒動で、「路上駐車していた」自動車側の法律的な問題点は、どこになりますか?

海嶋弁護士:状況からすると、自動車がバスの停留所の近くに駐車していた可能性があります。道路交通法第44条第1項第5号で、停留所から10メートル以内では、一般自動車は駐停車してはならない、とされていますので、正確に計測しなければわかりませんが、 自動車はこれに違反していた可能性があります。

ツイッター上では、「乗合自動車発進妨害違反」なのではないかとの指摘もありました。

海嶋弁護士:「乗合自動車発進妨害違反」(道路交通法第31条の2)では、停車していたバスが、発進するために進路を変更しようとしてウインカーにより合図をした場合に、後方車両がバスの進路変更を妨げてはならない、とするものです。このような「乗合自動車発進妨害違反」で定める状況ではない場合は、直ちに同法違反にはなりません。

バスレーンに駐車している車両や、今回のケースのように、一般車両同士がすれ違うのも困難と思われる道路において路上駐車している車は道路交通法上でなんら問題ならないのでしょうか?

海嶋弁護士:バスレーンは、路線バス等優先通行帯(道路交通法第20条の2)に該当すると考えられますが、道路交通法上では、一般の自動車が優先通行帯を通行することを一律に禁止しているわけではありません。

もっとも、道路交通法第45条第2項では、自動車を駐車した際に、自動車の右側の道路に、幅3.5メートル以上の余裕を持たせられないような場所には、駐車してはならないとされています。今回、問題となった自動車は、道路交通法第45条第2項にも違反していた可能性があります。

今回のケースで、バス乗務員側の対応に問題があるとすれば、どのような点でしょうか?

海嶋弁護士:クラクションを鳴らしたことについてです。道路交通法第54条に規定があり、法令の規定によりクラクションを鳴らさなければならないときと、危険を防止するためやむを得ないときを除き、クラクションを鳴らしてはならないとされています。

今回のケースで、バス乗務員がクラクションを鳴らしたことには、「衝突の危険を避けるため」という正当な理由があったとはいえ、連続して鳴らすのは“行き過ぎ”であり、道路交通法第54条に違反しているとみられてしまう可能性もあります。

バス乗務員は、クラクションを連続して鳴らすより、一度鳴らして自動車が動かなかった時点で、ナンバープレートを控えるという、会社の決めたフローに従った措置を取った方が良かったと言えます。

関東バスは、車の運転手に謝罪したそうですが、SNSでは「車側が悪いのだから、バス会社は謝らなくてもよかったのに」といった意見もみられました。

海嶋弁護士:企業法務の観点からすると、クラクションを連続して鳴らした部分について謝罪するという対応であれば、間違いではありませんし、適切な対応だと思います。

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