「JK盗撮」ハレンチ医師に執行猶予…常習犯に“甘い判決”のなぜ?

弁護士JP編集部

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「JK盗撮」ハレンチ医師に執行猶予…常習犯に“甘い判決”のなぜ?
まさか健康診断中に盗撮しているとは…(Graphs / PIXTA)

医師による盗撮事件が後を絶たない。先月24日にも、兵庫県西宮市に住む34歳の医師の男が、中学校と高校で実施された健康診断中に、上半身が裸の女子生徒計14人を盗撮した疑いで逮捕された。

そんな中、別の医師による盗撮事件の裁判で、執行猶予付きの判決が相次いで言い渡されたことが波紋を呼んでいる。

以前にも盗撮で検挙されていたが…

まずは以下、裁判所がそれぞれの判決に執行猶予を付けた理由である。

  • ①11月11日判決(京都地裁)
    手術中に全身麻酔で意識のない10歳の女児ら女性患者7人の体をスマートフォンで盗撮した医師へ懲役2年6か月、執行猶予5年。執行猶予が付いた理由は「被害者の一部と示談が成立している」など
  • ②11月15日判決(京都地裁)
    小中学校の定期健康診断中に女児や女子生徒を盗撮した医師に懲役2年6か月、執行猶予4年。執行猶予が付いた理由は「被告が罪を認めて反省している」「事件の発覚により職を失った」など

②の事件の被告は以前にも盗撮で検挙されていることや、一般的に盗撮を含む性犯罪事件は「再犯率が高い」というイメージが広がっていることから、ネットニュースのコメントやSNSなどでは、いずれの判決にも「性犯罪の軽視がすぎる」「絶対またやる」など疑問や不安の声が多くあがっている。

性犯罪者の実態と再犯防止について研究された「平成27年版 犯罪白書」では、「盗撮型には、複数回の刑事処分を受けているにもかかわらず、条例違反を繰り返している者が多い」と報告されているのも事実だ。

盗撮事件に執行猶予が付く判決は「甘い」と言えるのだろうか。ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの山田明弘弁護士に聞いた。

盗撮事件で懲役刑となる場合、執行猶予が付くのが一般的なのでしょうか。

山田弁護士:結論から言うと、盗撮事件で懲役刑となる場合、必ずしも執行猶予が付くのが一般的とは言えません。いかなる犯罪類型であっても、執行猶予に付すべきか否かは、犯行の動機や犯行態様、被害の程度といった「犯情」や、被告人の前科前歴の有無・反省の程度・再犯可能性の有無等の「一般情状」を考慮したうえで決定されます。

余罪がなく盗撮のみの場合、初犯でかつ被害者との示談が成立していれば、執行猶予が付くケースが多数を占めます。他方で、被害者の処罰感情が強く、示談することができなかった場合などは、初犯であっても執行猶予が付されない可能性はあります。

盗撮事件の再犯率の高さは「犯罪白書」も認めており、②の裁判の被告も、今回の事件以前にも盗撮で検挙されています。常習性がみられるのにもかかわらず、執行猶予が付いたのはなぜだと考えますか?

山田弁護士:世間では、盗撮等の性犯罪は再犯率が高いというのが共通認識となっています。実際に、犯罪白書を参照すると、再犯率は36.4%となっています。この数字を高いとみるか、低いとみるかについては、個々人の評価に委ねられる部分もあるかと思いますが、私個人としても、決して低い数字ではないと考えています。

もっとも、上記犯罪率が他の犯罪類型の再犯率と比較して、突出して高いということはありません。たとえば、犯罪白書によると、窃盗罪総数の再犯率は48%であり、侵入窃盗に限定した場合の再犯率をみるとその再犯率は67.4%という数字になっています。

確かに、性犯罪は決して許されるべきものではありませんが、 世間では「性犯罪の再犯率は高い」というイメージがいたずらに先行してしまっている節があると思います。性犯罪における執行猶予の当否を判断するにあたっては、「性犯罪とそれ以外の犯罪」と切りはなして考えるのではなく、あくまでも、他の犯罪類型と同様の指標に基づき判断することが重要です。

以上に基づき、②の判決において執行猶予判決がなされた理由について考察すると、マスメディアによる報道や、失職により、十分な社会的制裁を受けていることが、今回執行猶予判決がなされた大きな理由の一つしてあげられると考えられます。

刑罰は、犯した罪の責任を取らせると共に、二度と罪を犯さないようにさせるという目的のために科されますが、報道および失職という、刑罰をはるかにしのぐようなダメージを被告人が被っており、上記目的はすでに達成されているとの判断に基づき、執行猶予判決がなされたものではないかと考えられます。

①②の裁判のように、「医師がその立場を悪用して犯行(盗撮)におよんだ」ことは、判決に影響を与えるのでしょうか。

山田弁護士:上述のように、執行猶予の当否を判断するにあたっては、犯行の動機や犯行態様、被害の程度といった「犯情」や、被告人の前科前歴の有無・反省の程度・再犯可能性の有無等の「一般情状」が考慮されます。

今回の場合、医師という立場を利用したことは、「犯情」の一つである行為態様として考慮されることになると考えられます。①の判決では「医師という立場を悪用して患者の信頼を裏切った卑劣で悪質な犯行」との判断がされていますが、これは行為態様が悪質であると述べているのと同義です。明示はされていない場合であっても、他の判決でも同様の判断がされているものと考えられます。

①②の裁判をはじめ、盗撮事件の罰則や判決をめぐっては「甘すぎる」という意見が出ることも少なくありません。性犯罪の実態に合わせた刑法の規定改正も進んでいますが、盗撮事件においても、法整備によって抑制できる可能性はあるのでしょうか。

山田弁護士:盗撮を抑制するにあたっては、関連法令の重罰化による威嚇を行うよりも、犯罪を行ってしまった者に対するアフターケアを行うことが重要となります。

たとえば、われわれ「ベリーベスト法律事務所 京都オフィス」では、性犯罪を行った方から弁護の依頼を受けた場合、カウンセリングの受診をおすすめしています。盗撮を行ってしまった者の中には、自分でも原因が分からない方がたくさんいらっしゃるので、原因を究明し、再発防止に努める意味でも、カウンセリングは有意義なものだと考えられます。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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