“SOGIハラ”で労災認定 個人の「性的指向・性自認」会社が阻害したと判断される基準とは?

林 孝匡

林 孝匡

“SOGIハラ”で労災認定  個人の「性的指向・性自認」会社が阻害したと判断される基準とは? 社会の多様性に対する法整備も進む(aijiro / PIXTA)

11月10日、上司のSOGIハラ発言が原因で労災が下りた事件について報道がありました。以下のような内容です。

「女性として生きていくこと」を決意した男性に対して、上司が暴言。

「戸籍上は、男性なのか女性なのか?」

「女性として見られたいのであれば細やかな心遣いが必要だ」

などと発言したんです。その結果、男性(以下「Aさん」)はうつ病に罹患(りかん)し休職。その後、労災申請をし、今年6月に労災認定が下りました。

このような嫌がらせ(ハラスメント)は、SOGIハラと呼ばれています。

Aさんは「当事者が声を上げづらいこともあって表面化するケースが少ない」「こういうことをやってはいけないという認識すらない人が大半」と述べており、この事件は氷山の一角だと思います。

今回は、

  • SOGIハラとは
  • LGBTとの違い
  • 裁判例
  • 企業がとるべき対策
  • 暴露はパワハラにもあたる

について解説します(弁護士・林 孝匡)。

何が「SOGIハラ」にあたるのか?

性的指向・性自認(SOGI)に関するハラスメントは「SOGIハラ」と呼ばれています。

「性的指向」とは、自分の恋愛や性愛の感情がどの性別に向くかのことを言います。 「性自認」とは、自分自身を男性と認識するか、女性と認識するか、あるいはどちらともはっきり決められない、どちらでもないなど、どのように認識しているかを示す言葉です。

一般的には、以下の5つがSOGIハラにあたると言われています。具体例も挙げます。

差別的な言動や嘲笑、差別的な呼称
「ホモって気持ち悪いよな」
鎌田さんを呼ぶときに「よ!オカマた!」
など。

いじめ・暴力・無視
「あの子、レズらしいよ」
「無視しようよ。一緒にいたら誤解されるじゃん」
など。

望まない性別での生活の強要
「女の子らしくスカートを履きなさい」  
「男らしく堂々と振る舞いなさい」
など。

不当な異動や解雇、不当な入学拒否や転校強制
「男性なのに女装って...。別の部署に異動してくれないか」
など。

誰かのSOGIについて許可なく公表すること(アウティング)
「あいつ、ゲイらしいぜ」
など。

あとは、異性愛を前提とした会話もSOGIハラにあたります。

例えば、

  • 男性に対し「彼女はいるの?」と聞く
  • 未婚の人に対し「結婚しないの?」と聞く

などです。

「SOGI」と「LGBT」の違い

SOGIと混同されがちな表現としてLGBTがありますが、若干意味合いが違います。 SOGIの方が広い概念です。

LGBTは「レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー」の頭文字を取った、性的マイノリティーを指す言葉です。レズビアン・ゲイは恋愛対象が同性である人、バイセクシャルは同性・異性いずれも恋愛対象である人、トランスジェンダーは『身体の性と心の性が不一致な人』を指しています。

これに対し、SOGIは、性的アイデンティティーを指すので全ての人に当てはまる概念です。誰もが性的指向・性自認を持っています。すなわち、誰もがハラスメントを受けるおそれがある、ということになるのです。

裁判例

今回のAさんと同様、心と体が一致しない男性社員に対するハラスメントです。

上司が「女性の服装、容姿で出社するな」と業務命令を出しました。その社員さんが業務命令に従わず女性の服装で出社し続けたところ懲戒解雇された事件です。裁判所は「懲戒解雇は権利の濫用で無効」と判断しました(S社事件 東京地裁決定平 14(ヨ)21038 号)。

このような解雇だけでなく「異動させること」も無効になる可能性が高いと考えます。

企業がとるべき対策

Aさんが「こういうことをやってはいけないという認識すらない人が大半」と述べているとおり、SOGIハラは違法だ、という認識が社会にはまだまだ浸透していないと考えられます。

そのため、会社としては、就業規則に「SOGIハラをしてはならない」旨の文言を入れ、さらに研修などを行うことにより社員に周知すべきでしょう。

厚生労働省が出しているモデル就業規則を参考にしましょう。

第15条
〜に規定するもののほか、性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

「言いふらし」もパワハラに当たる

さらに、性的指向などの「暴露」についてもパワハラにもあたります。

たとえば、本人の了解を得ずに「あの人、ゲイらしいよ」「あの人、元は女性だから気をつけてね」などと言いふらすことがパワハラ認定される可能性があるということです(暴露はアウティングとも呼ばれています)。

厚生労働省のパワハラ防止指針でそのように規定されています。

2(7)
労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。

この暴露も、社員がおもしろ半分で行う可能性が高い行為なので、会社としては措置をしておくべきでしょう。

なお、パワハラ防止指針では、以下の措置が義務付けられています。

  • 相談窓口を機能させなければならない
  • 相談があれば速やかにで事実関係を認しなければならない
  • 暴露が確認できたら、「被害者」に配慮する措置をとらなければならない
  • 暴露が確認できたら、「加害者」にしかるべき措置をとらなければならない
  • 再発防止策をとらなければならない

人を傷つける「何気ない」ひと言

正直、私が小学生のころ(30年前)は、町で女装しているオッサンを見て「オカマやー!」と叫び友達と笑い転げていました。あの頃の自分をシバキたいです。あの時のおじさん、・・・本当に申し訳ございませんでした。今思えば、周りから何と言われようが自分の意志を貫く、本当にカッコイイおじさんだったと思います。

昔の私と同じく、何気ないひと言が、その人を傷つけている可能性があります。

SOGIハラやLGBTの概念がさらに社会に浸透すると、同時に権利意識も高まってくるため裁判も増えてくると思います。実際に、トランスジェンダーの会社員が勤務先で「なぜ女装しているんだ」と言われたことを理由に会社に損害賠償を求めて提訴した裁判があり、会社が全面的に請求を受け入れたケースもありました。

今後も、提訴事例や裁判例などが出たら情報発信していきたいと思います。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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