アムウェイに行政処分 専門家が指摘「合法、良質」謳うネットワークビジネスの“致命的”矛盾点とは?

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

アムウェイに行政処分  専門家が指摘「合法、良質」謳うネットワークビジネスの“致命的”矛盾点とは?
11月のある日、通勤時間帯のアムウェイ本社は閑散としていた(弁護士JP)

消費者庁は10月14日、「日本アムウェイ合同会社(以下、アムウェイ)」に対し、目的や会社名を告げずに違法な勧誘を行っていたなどとして、6か月の取引停止を命じた。日本訪問販売協会の理事を務めていた同社社員の退任が報じられるなど、行政処分の影響は業界全体に広がっているようだ。

いわゆる“ねずみ講”や“マルチまがい”の印象を与える「連鎖販売(ネットワークビジネス)」のマイナスイメージに対して、同社は1998年に開催された長野オリンピックでは“ゴールドスポンサー”に就任するなど、その払拭に腐心してきた。

これまで、「実際に利益が出ている人がいる」「(売っている)物がいい」「法律を守っている(から安全)」などポジティブな企業姿勢を打ち出してきたアムウェイがなぜ、処分を受けるに至ったのか。

そのきっかけには会員の逮捕があるとみられている。

処分の“きっかけ”は会員の勧誘方法

2021年11月、同年3月にマッチングアプリを通じて知り合った女性に対して、公衆の出入りしない建物に同行させ、アムウェイのサービスを勧誘したとして、「特定商取引法違反」で男性(当時26)と、共謀の女性(当時38)が京都府警に逮捕された。

特定商取引法では、「業者の名称や勧誘する目的であることを伝えずに勧誘する行為」や、「消費者を威迫して勧誘する行為」などを禁止している。

アムウェイへの処分について消費者庁が行った記者説明会において、記者からこの事件と処分の関係を問われた担当者は明言を避けたが、きっかけのひとつになったことは間違いなさそうだ。

京都府警は、昨年11月下旬にアムウェイ本社を家宅捜索。消費者庁が処分の概要で挙げている、同社会員による違法な勧誘事例の日付がいずれも今年1~2月であり、消費者庁による立ち入り検査が今年3月8日に行われたことなど時系列を見ても明白だ。

アムウェイは処分を受けて、ホームページ上で「会員に向けたトレーニングの見直し、関連法令や規則の周知、コンプライアンスの更なる徹底などを通じていかなる違法行為も許さない姿勢で、実効性のある業務改善と再発防止対策を講じてまいります」とコメントを発表している。

その一方で、PIO-NET(※)の集計によれば、アムウェイが関わる消費生活相談は、集計をはじめた2019年以降、合計1078件(2022年11月20日現在)にのぼっている。これらの実態からは、消費者庁が処分の概要で挙げた違法な勧誘事例以外にも、他の会員による「目的を告げずに勧誘する」などの違法行為があった可能性も否定できない。

(※)全国の消費生活センターに寄せられる苦情相談情報の収集を行っているシステム。

冒頭でも触れたとおり、今回の処分報道以前から、アムウェイを含む「ネットワークビジネス」には、“ねずみ講”や“マルチまがい”の印象がつきまとっていた。その仕組み自体に疑問を持っていた人も少なくないだろう。

実際には、「ネットワークビジネス」のシステムや法律的妥当性はどのようになっているのだろうか。

マルチ商法とねずみ講の関係

消費生活論が専門の広島修道大学教授・柏木信一氏は、ネットワークビジネス、MLM、紹介販売など、さまざまに呼ばれる連鎖販売について、「(法的には)特定商取引法の‟連鎖販売取引”の要件を満たせば、どんな呼び方でもマルチ商法と同じである」と指摘する。

もともとマルチ商法とは、“金品”配当をもくろむ違法の「無限連鎖講(ねずみ講)」に該当しないよう、ダミーとしての“商品”を介在させたものだったという。 「1970年代ごろは、“商品”の大半は偽物、まがい物でした。しかし、“商品”がまがい物であったり流通の実態がなかったりすれば『連鎖販売取引に擬製した無限連鎖講である』という判例が示されたことと、いくら勧誘しても“商品”がまがい物だと会員が増えないということが決定的な理由となり、1990年以降においては、ダミーとしての“商品”流通の形をとることが減りました」(柏木氏)

マルチ商法を行う企業は、ダミーをやめ実際に“商品”を介在させる転換を行ったが、構造自体は変わっていない。柏木氏はマルチ商法の構造上の問題点を4点挙げる。

マルチ商法の問題点

①素人が素人を誘う

「マルチ商法の勧誘者はほぼ素人で商品知識や法知識のない人です。これがピラミッド式に広げられるので被害もピラミッド式に広がってしまいますし、消費者が被害者にも加害者にもなってしまう可能性があります」

②目的が転移している

「『顧客に理解・共感してもらえるような物・仕組みを提供する』という現代マーケティングの本質から外れています。もとより古来よりある商品販売という側面からも外れ、『ピラミッド形成と紹介による収入(特定利益)を得ること』に目的転移しています。

いわゆるマーケティングの4P(製品・価格・経路・販売促進)で言えば、製品と価格がメインで、経路と販売促進はそれらを促進する役割を持つものです。しかし、マルチ商法では、経路拡大のために製品が介在するのが実情で、やはり目的が転移しています」

③実態と異なる「誰でもラクに儲かる」勧誘

「『後から参加した会員は、売れずに借金と在庫が残るだけ』ということが多く、学生や主婦、時には18歳前後の高校生が被害を受けることもあります」

④不労所得を得ているトップ層

「トップに近い層は、会員が新規加入者を連れてきさえすれば、自分は商品を販売していないのに(その枝葉の数)×(利得)を得ています。

一般流通は『製造者→卸→小売→消費者』という間接流通が大半ですが、マルチ商法は、中間業者を通さず『製造者⇒消費者』という直販型を採択しています。しかし、実際には『ディストリビューター』と呼ばれる会員が『矢印(⇒)』の所にピラミッド式に連なっています。一般流通より不必要に『多段階』であり、直販流通だというのは形容矛盾でしょう」

PIO-NETに寄せられた相談のうち、「マルチ商法」に関するものは、20歳代の給与生活者からの相談が多いという(※写真はイメージです。mapo/PIXTA)

要注意の誘い文句

ビジネスのあり方としても疑問が残る構造だが、言葉たくみな勧誘により会員数を増やし、ピラミッド型を広げていくマルチ商法。柏木教授は、勧誘を受ける際によくある主張についても、それぞれ以下のように反論する。

主張①ネットワークビジネスは“合法”

「日本の法律では、ねずみ講は完全禁止ですが、連鎖販売取引は、取引それ自体を禁止とはされていません。だからと言って、『禁止されている=違法』『禁止されていない=合法』と帰結するのは短絡的です。たとえは悪いですが、やくざや暴走族は結成それ自体を禁止されていませんが、刑法や、暴対法、道交法等に抵触すれば刑事罰・行政処分を受けます。マルチ商法もしかりです。取引それ自体は禁止でなくても、特定商取引法、薬機法等に抵触すれば刑事罰・行政処分を受けます。それゆえ、『禁止ではない=合法=良質』というのも全く理由がありません」

主張②商品は“良質”

「先述の通り、70年代のようなまがい物の“商品”では法的にも勧誘戦略的にも合わないからです。もし品質が良いのなら、何も社会的な非難を浴びてまでマルチ商法の方式で展開する必要はなく、一般流通方式での販売も可能ではないでしょうか。」

主張③勧誘ボーナス(特定利益)が出て“魅力的”

「一見“魅力的”に見えるマルチ商法のうまみ、すなわち『会員勧誘やピラミッド形成によるボーナス(特定利益)』は、本部や上位会員のポケットマネーから出されるものでなく、会員から吸い上げた代金がぐるぐる回っているだけに過ぎません」

柏木教授は、ネットワークビジネスに“だまされやすい人”の特徴として「疑うことを知らない人や、なかなか断れないお人よしな人」をあげる。同時に「ラクして儲けたい人や、仕事や学校、日常生活がつまらなく“刺激がほしい”と感じている人」も注意が必要だという。

「マルチ商法の勧誘は、洗脳的で、わずかな心の隙間も突いてきます。『勝ち組になりたい人は来たれ』とか『車や一戸建てを持ちたい人は来たれ』といった形でつけ込んでくる勧誘は、マルチ商法では日常茶飯事です。ご用心ください」(柏木氏)

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア