Twitter“問題投稿”岡口基一裁判官の弾劾 「国民の権利を揺るがす」裁判である理由

弁護士JP編集部

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Twitter“問題投稿”岡口基一裁判官の弾劾  「国民の権利を揺るがす」裁判である理由
弾劾裁判所のある「参議院第二別館」(弁護士JP編集部)

11月30日14時より、Twitterで“問題発言”を繰り返したとして訴追された仙台高裁・岡口基一裁判官(56)の弾劾裁判(※1)第2回期日が開かれる。

(※1)裁判官を罷免するために行われる裁判。国会議員が裁判員を務める

「これからもエロエロツイート頑張るね」

岡口裁判官は1992年に東大法学部を卒業すると、1994年に任官。LGBT、新潟水俣病、脳脊髄液減少症といったマイノリティへの理解や、法曹関係者向け書籍のベストセラー『要件事実マニュアル』の執筆などで、法曹界では著名な存在だった。

近年は実名のTwitterアカウントを活用し、判例や法改正などに関する情報をわかりやすくツイート。一方で2014年頃から“問題投稿”が注目される機会も増えていった。“職場”である裁判所は口頭や文書で何度も注意をしたが、投稿はやまず、2018年と2020年には戒告処分を受けている。

本日までの経緯は以下。

3月の初公判では「不罷免」を主張

弾劾裁判によって罷免された場合、裁判官の身分を失い、退職金の支給もされない。また法曹資格も失うため、弁護士や検察官への転職も不可能になる。

今年3月に行われた初公判で、岡口裁判官は問題とされた投稿について「表現行為の中には不適切なものがあり、深くおわび申し上げたい」と発言した。その上で弁護団は、裁判官弾劾法第2条2号に定められた罷免事由「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」があったとは言えないとして、不罷免を主張したという。

岡口裁判官の弾劾は“やりすぎ”? 弁護士の見解は

「国民の権利と自由を守る」という観点から、裁判官の身分は「三権分立」により強く保障されている。岡口裁判官の弾劾裁判をめぐっては、「裁判所に国会の力が働く」という観点から、法曹関係者や識者の多くが反発していることも事実だ。

しかしながら、一般的な国民感情としては、度重なる注意や処分があったのにもかかわらず問題発言を繰り返した岡口裁判官に対して「裁判官にふさわしくないのでは」という印象を抱くのも無理はないのではないだろうか。法的な見解を、ベリーベスト法律事務所の杉山大介弁護士に求めた。

裁判官が罷免される理由のひとつに「職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき」(裁判官弾劾法第2条2号)があります。裁判官という社会的地位にありながら、何度も注意されたのにもかかわらず“問題ツイート”を止めなかった岡口裁判官の行動は、これにあてはまるのではないでしょうか。

杉山弁護士:「威信を著しく失うべき非行」には当たらないと考えています。

抽象的な表現ですが、もたらす効果から考えると、この非行は要するに、1回の裁判で裁判官をクビにし法曹としての資格を剝奪できるくらいの“明らかさ”が必要です。「裁判官としてけしからん」と言われればそうなのかもしれませんが、一方でその効果に相当するとは思いません。

労働者一般の立場を考えてみると、たとえ犯罪を行ったとしても、当然に解雇が認められるわけではありません。それぐらい、職を失わせるというのは重い制裁として扱われていますし、今回はそれより重い効果なのです。

「あいつの言動がいけすかないからクビにします」と言われた方がいれば、私は間違いなく不当だと答えます。そういう当たり前の感覚を、公平に岡口裁判官にもあてはめているだけです。

今回、多くの法曹人や識者が岡口裁判官を擁護する背景にある「三権分立」の重要性はわかります。しかし何度注意されても問題ツイートを繰り返した岡口裁判官を野放しにしておくことにも問題があるように思うのですが、 弾劾裁判が不当なのだとすれば、誰が、どのような対応を取るのがベストだったのでしょうか。

杉山弁護士:裁判所が対応すれば十分でしたね。その対応が不十分だというなら、裁判所にクレームを寄せれば良いかと。

法改正のときにもよく出るのですが、強制的に誰かの地位を奪い、あるいは誰かに罰を加えるという公権力に無頓着で、被害者の味方であるという心地良い感情に酔う政治家が、今回も大いに盛り上がっていたのを記憶しているため、本件に関しては、間違いなく三権分立についても立法が無頓着だったと評価しています。

そういう自分の力すらよくわかっていない人間に政治家をやらせていること自体が、政治的に問題です。

本件では、訴追の重さも問題視されています。弁護団は「裁判官を」罷免する手続きであるにもかかわらず、罷免の効果は「法曹資格の喪失」であることを指摘していますが、そもそも法律自体を見直す必要があるのでしょうか。

杉山弁護士:そもそも、トレンド受けを狙う政治家が用いるような制度でないということなのでしょうが、その政治家たちを支えているのは法という正しさではなく、トレンド、人気であるため、性善説に立ち過ぎた制度だったのは間違いないですね。

弾劾裁判所のホームページには「資格回復裁判」の請求を本人ができるとありますが、仮に岡口裁判官が罷免された場合にも、この手続きを請求することはできるのでしょうか。

杉山弁護士:請求できますが、新たな証拠があったなんて容易に認められないから直ちには無理でしょうし、5年後ともなるとかなり遅い対応になってしまいますね。

弾劾裁判は明白な非行に対して形式的に行うことが前提とされていることから、一審制・終局裁判となっており、今回の裁判でも処分の重さが指摘される一因となっています。裁判官弾劾法は1947年に公布・施行されましたが、一審制・終局裁判という仕組みは、インターネットやSNSの発展により時代に合わなくなってきたということなのでしょうか。

杉山弁護士:制度が時代からずれてきているのは確かでしょうが、それはネットの発達とは全く関係なく、政権の常識として、政治家の常識としてずっと当然にやってこなかったことを「ダメってはっきり書いてないからやってもいいじゃん」と言い出す幼稚な政治家が増えたことが、時代の変化だと思いますね。

その代表たる人間が、今年7月に亡くなった安倍晋三元首相なのですが、岡口基一事件では、安倍政権を批判していた側の人たちも大いに自身の権力を振るうのに盛り上がっていたという点で、私は大変冷めた思いをしております。

法はもっと、人はどうしようもなく傲慢で、しかもそれに無自覚だということを前提として設計された方が良いと思います。

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