「知らぬ間に」自宅外観写真“無断転載”勝手に「広告使用される」不可解… 一番の“悪者”は誰だ?

弁護士JP編集部

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「知らぬ間に」自宅外観写真“無断転載”勝手に「広告使用される」不可解…  一番の“悪者”は誰だ?
画像の戸建て住宅が「月5万円台」のローンで建てられたように見えるが、実際は異なる(画像提供:Mutsukiさん(@mtkgx71))

「自宅の写真が、勝手に広告に使用されていたら…?」

10月11日、Twitter上で、自宅の写真が勝手に注文住宅比較サイトの広告として使用されたと訴えるツイートが投稿され、注目を集めた。

多くの人は想像もしないシチュエーションともいえるが、他人事として捉えるのは尚早である。

今回のトラブルは、SNSにアップロードされた写真が、無断で転載された末に引き起こされたもの。特にSNSに写真をよく投稿する人にとっては、「知らぬ間に自分が被害に遭っていた」という可能性も十分に考えられるのだ。

トラブルの関係者と流れを整理し、被害者は裁判所に訴えることができるのか、訴えるとすれば誰を訴えるべきなのかを弁護士に聞いた。

事件発覚までの経緯

今回被害を訴えたMutsukiさんは、2021年12月にマイホームを新築。外観の写真を撮り「最高すぎるマイホーム完成」と言葉を添えてツイートした。

Mutsukiさんのつぶやき(※画像の一部を加工しています)

そして、その写真をsuzuhomuと名乗る第三者が勝手に画像素材サイト「Snapmart」に登録。

第三者が勝手に「Snapmart」に登録。現在、写真は削除されている。(※画像の一部を加工しています)

「Snapmart」は、誰でも手軽に写真を売り買いできるサービス。スマホで撮影した写真を登録し、その写真が利用したい人にダウンロードされると、登録者に売上金が振り込まれるシステムだ。つまり今回のケースでは、第三者がMutsukiさんの写真を無断でSnapmartに登録し、“お小遣い稼ぎ”をしようとしていたとみられる。

今年10月11日、Mutsukiさんの写真が使われた注文住宅比較サイト「タウンライフ家づくり」のInstagram広告を、Mutsukiさんの知人が発見したことで、事態が明るみに出た。

Mutsukiさんが「月5万円台で家を建てた」かのように受け止められかねない広告(※画像の一部を加工しています)

「誰のどの行為」に違法性はある?

注文住宅比較サイト「タウンライフ家づくり」を運営する、タウンライフ株式会社は、ホームページ上で「適切に著作権等の権利処理がなされていない画像、および、誤解を招きかねない内容を含む文言が使用されていたことが確認された」と謝罪し、事実関係を公表した。

タウンライフ株式会社によれば、同社は代理店に広告の制作を依頼しており、問題の広告は、代理店がさらに広告運用(アフィリエイト運用)会社に再委託した上で作成されたものだったという。

アフィリエイトの仕組み(弁護士JP作成)

一般的なアフィリエイトの仕組みと同様に、広告を見たユーザーが商材を購入した際に、広告運用を行っていた会社・個人に成果報酬が支払われる構図となっていたと考えられる。

しかし、このような一連の流れを聞いても、さまざまな関係者が登場していることから、「誰のどの行為が悪いのか」が判然としない。Mutsukiさんのツイートにも「著作権が侵害されていると思う」「虚偽、おとり広告では?」など、さまざまな意見が寄せられている。

削除請求や発信者情報開示請求など、インターネットでのトラブルの対応に力を入れる松元敬一弁護士に、法的な視点から「誰のどの行為が問題なのか」解説してもらった。

誰がどのように悪いのか

Mutsukiさんが「刑事事件」として訴えた場合、①写真を素材サイトに登録した第三者(ユーザー名suzuhomu)、②広告を出稿した会社、③広告を作成したアフェリエイターは、それぞれどのような罪状で、罪の重さはどの程度のものになるのが妥当でしょうか。

松元弁護士:今回のケースでは、家の外観写真が「著作物」にあたるかどうかも争点となり得ますが、「著作物にあたる」と仮定して、ご説明します。

①写真を無断で素材サイトに登録した第三者

写真を無断で転載したことは、Mutsukiさんの著作権を侵害したとされる可能性があります。著作物の複製等については、私的利用目的のための複製(著作権法30条)や、引用(同32条)等例外的に許される場合が規定されていますが、今回のケースではこれらの例外にも該当しないと考えられますので、複製権(同21条)や公衆送信権(同23条)の侵害となり得ます。

②広告を出稿した会社

当該写真を自社の運営する建築会社比較サイトの広告として用い掲載したような場合には、第三者(suzuhomu)と同様にMutsukiさんの著作権を侵害している可能性があります。

③広告を作成したアフェリエイター

アフェリエイターの行為が罪に問われるかどうかは、関わりの度合いにもよるところです。アフェリエイター自身が当該画像サイトからダウンロードした写真を広告化し、アップロードするところまで行っているということであれば、同様に著作権侵害となる可能性があります。

著作権法違反の行為については刑事罰が規定されており、著作権を侵害した者は、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金に処されます(同119条1項)。法人が違反した場合には3億円以下の罰金に処されます(同124条1項)。

上記のとおり著作権違反行為については重い刑罰が規定されていますが、現実的には、このような無断転載の事案で、刑事事件とまでなるケース自体が、それほど多くはないものと思われます。

Mutsukiさんが「民事事件」として差し止め請求や損害賠償請求を行った場合はどうなりますか?

松元弁護士:今回ケースでは、MutsukiさんがSNSでアップロードした写真については、もともとMutsukiさんがあくまで私的なものとして掲載したものと考えられますので、Mutsukiさんにどれほどの経済的な損害が生じたのかを算定することが非常に難しいものとなります。そのため、損害賠償請求をしたとしても、金額的にそれほど大きくはならず、費用倒れになってしまう可能性も高いでしょう。

無断転載を防ぐ「ひと手間」

SNSに写真をアップする行為は、いまや無断転載されるリスクと隣り合わせです。カメラマンなど写真を仕事にしている方にとっては死活問題ですし、一般の方にとっても勝手に自分の撮影した写真を転載されることは決して気分が良いものではありません。アップする際に自分でできる無断転載の防止策はありますか?

松元弁護士:写真自体に「無断転載禁止」といった文言や自分のID等を書き込んでおくことは、一定程度の効果が望めるでしょう。bio欄(※)に無断転載禁止と書いておくことも有用ではありますが、SNSにおいては、閲覧する人が必ずしもbio欄まで見るとは限りませんので、無断転載自体を防止する効果としては、写真自体への記載の方が効果的かと思います。

(※)Twitterのプロフィル欄のこと。biographyの略。

自分の撮影した写真が無断転載されたと気づいたときに、まず行うべき対応を教えてください。

松元弁護士:まずなによりも、証拠の確保が第一です。無断転載されたもののスクリーンショットを撮ることは必須ですが、それだけでは、後日消去された時などにどこに掲載されていたのかがわからなくなってしまう可能性もあります。削除請求等の裁判の際にも、URLがわからないと、対象を特定できないとされる可能性があります。

そのため、証拠を保存するときは、PDF化する等、掲載されたウェブサイトのURLがはっきりとわかるようにしておくことが肝要です。

取材協力弁護士

松元 敬一 弁護士
松元 敬一 弁護士

所属: 渡瀨・國松法律事務所

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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