「注意しない」親に批難殺到…子どもが動物園で“水槽”破壊、保護者の「法的責任」は?

弁護士JP編集部

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「注意しない」親に批難殺到…子どもが動物園で“水槽”破壊、保護者の「法的責任」は?
小さな子どもは「してもいいこと、悪いこと」の区別が難しいというが…(ソライロ / PIXTA)

10月下旬、石川県能美市にある「いしかわ動物園」がTwitterで「来園したお子様が水槽をたたいて壊れるということがありました」「小さなお子様はしてもいいこと、悪いことの区別をつけること、理解することは難しいですので、保護者の方がしっかりと注意して、してはいけないことをしないように防いでいただきたいと思います」とツイートし、話題となった。

リプライには、被害を心配する声とともに「注意しない親」に対する厳しい意見が多く寄せられた。小さな子どもが無意識にしてしまう“迷惑行為”をめぐっては、Twitterに「#子持ち様」「#子連れ様」などのハッシュタグも存在し、検索するとたくさんのエピソードとともに「注意しない親」を疑問視する声が見受けられる。

一方、お店や施設側が「子どもの利用制限」や「子連れへの注意喚起」をすれば、「子連れの大変さを知らない」「大人でも迷惑な人はいる」「マナーを守っていた子連れはとばっちり」「子どもは未来のお客様なのに」といった保護者側の声もあがる。

たしかに、好奇心旺盛な子どもの行動を完全に制御することは難しいだろう。しかし、いしかわ動物園のケースのように「ガラスが割れるまで注意しなかった」という保護者には問題があるようにも思える。

はたして「注意しない親」に法的責任は問えるのだろうか。石川県金沢市を拠点とする「ベリーベスト法律事務所 金沢オフィス」の北川茂樹弁護士に聞いた。

子どもの迷惑行為に対して「保護者が注意していたか、していなかったか」ということは、保護者が負う責任の重さに影響しますか?

北川弁護士:この点については、お子様をお持ちの方は気になる点ではないかと思います。

まず「子ども」といっても、すでに成人していれば、自分がしたことは自分自身で責任を負いますので、保護者の責任ということにはなりません(もっとも、保護者もその子どもと一緒に迷惑行為をしたということであれば、連帯して責任を負う場合があります)。

このように、個人がした行為については、“その個人が責任を負う”というのが原則ですが、未成年の場合には民法上特別の定めがあり、未成年者が「自己の行為の責任を弁識するに足りる知識を備えていなかったとき」は賠償責任がないとし(民法712条)、未成年者が犯した不法行為のために、「一生賠償責任を背負っていかなければならない」ということに“ならない”よう、政策的に保護されています(事案によって異なりますが、おおむね小学校卒業程度の子どもであれば、このような判断能力が備わっているとされています)。

しかし、その代わりに「その未成年者を監督する責任を負う者が賠償責任を負う」と民法上規定されており(民法714条1項)、親権者である“親”はこれに該当しますので、子どもの行動の結果について法的責任を負うことになります。

民法714条に基づく責任を負う要件は、

  • ①未成年者が、責任能力以外の不法行為の要件を満たしていること
  • ②未成年者の監督義務を怠ったこと

ですので、「保護者が注意していたか、していなかったか」は、まさに保護者が負う“責任の重さ”に影響するといえます。

もっとも、保護者が未成年者の日常の監督を怠らなかったのにもかかわらず、未成年者の行動により損害が発生したといえる場合には、監督者としての責任を負うものではありません(民法714条但し書後段)。

保護者が子どもに注意していなかったとして、以下のようなケースでは法的にどのような責任を問われる可能性があるのでしょうか?

①水槽を壊されてしまった「いしかわ動物園」のようなケース

北川弁護士:来園した子どもが園内の水槽を叩いて壊れたということですが、好奇心旺盛な小さな子どもに同伴する保護者には、子どもが動物たちと触れ合いたいがために大声で騒いだり、ガラスを叩いたりすることは十分に予見できますし、本件では園内に注意書きもあるようですので、保護者としては、子どもがそのような行為をしないよう手をつないだり、目を離さず注意をするべきであるといえます。

保護者として、このような監督義務を果たさずに子どもがガラスを叩くのを何もせず見ていたり、放置していたりした場合には、民法714条1項の「監護者としての責任」を追及され、ガラスの修理費用や、場合によっては営業損害(ガラスの修理期間中に園内の営業ができなくなった場合の損害)を請求される可能性があります。

②子どもが靴のまま電車やバスのシートにのぼって汚してしまったり、駐車場でボール遊びをしていて他人の車を傷つけてしまったりした場合

北川弁護士:子どもが電車やバスの中で騒いだり、走り回ったりといった光景はよくあります。その際に保護者としては、周囲の人々に迷惑をかけないように“マナーを教えてあげる”ことが必要であることは言うまでもないですが、そのような注意を怠ったことが原因で子どもがシートにのぼって汚してしまったと評価できる場合には、保護者は「監護者としての責任」を追及され、シートのクリーニング費用を請求される可能性があります。

また、駐車場は子どもが遊ぶ場所ではありませんし、車の出入りもありますので、子どもにとっても非常に危険な場所であるといえます(駐車場の中には、あらかじめ管理会社によって駐車場で遊ばせないでくださいと掲示がなされている場合もあります)。

保護者としては、そのような場所で遊ばないようしっかりと注意指導しておくべきであるにもかかわらず、このような監督を怠り、結果的に子どもが他人の車を傷つけてしまった場合には、保護者は「監護者としての責任」を追及され、車の修理費等の損害賠償請求をされる可能性があります。

③子どもが走り回って周囲の人にケガをさせてしまったり、ぶつかった人の飲み物や食べ物がこぼれてしまった、洋服が汚れてしまった…など「人」に損害を与えた場合

北川弁護士:子どもの危険な行為によって、人にケガをさせたり、人が身につけている着衣を汚して価値を毀損したといった場合にも、子どもの監督を怠った保護者には「監督者としての責任」が生じる可能性があります。

④実害はないものの、本来静かであるべき場所(落ち着いた雰囲気のお店、病院の待合室、美術館など)で子どもが騒ぐのを放置し、周りの人を嫌な気分にさせた場合

北川弁護士:民法714条の「監護者としての責任」は、未成年者の行為によって損害が発生したことが前提となりますので、実害がないのであれば、現実的には保護者が法的責任を問われる可能性は低いと考えられます。

もっとも、一歩外に出たら“公共のマナー”を守る必要があるのは大人も子どもも一緒ですので、もし子どもが本来静かであるべき場所で騒いだりしていた場合には、保護者としての自覚を持って、しっかりと注意するべきでしょう。

最後に、見かねた周りの人が「注意しない親」に直接注意をしたり、子どもに直接注意したりすることに法的リスクはありますか?

北川弁護士:マナー違反をしている他人の子どもの親に直接注意したり、子どもを叱ったりすることそれ自体は、何ら違法な行為ではありません。

もっとも、乱暴に怒鳴りつけたり、暴力を振るったりすれば、民事上では不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を、刑事上では、脅迫罪(刑法222条。生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨告げた場合に成立する可能性があります。)、暴行罪(刑法208条)、傷害罪(刑法204条)に問われる可能性がありますので、注意が必要です。

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