ファスト映画投稿者に「5億円」損害賠償請求 配給会社の訴えは認められるか?

杉本 穂高

杉本 穂高

ファスト映画投稿者に「5億円」損害賠償請求 配給会社の訴えは認められるか?
劇場に行かない「ファスト映画」の需要は想像以上に高かった(OrangeMoon/PIXTA)

映画の内容を10分~15分程度に編集した「ファスト映画」を動画共有サイトに投稿し、著作権侵害で有罪判決を受けた男女3人に対し、東宝や松竹ら、大手映画会社13社が総額5億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が、11月17日東京地裁で言い渡される。

「ファスト映画」とは、2時間ほどある映画の内容をナレーションやあらすじを字幕につけて15分程度に要約した動画のこと。2020年ごろから動画共有サイトで目立ち始め、数百万以上の再生回数を記録したものも存在しており、被害が深刻化していた。

ファスト映画初の民事訴訟

今回の訴訟で被告となる男女3人は、2021年に逮捕・起訴され、刑事裁判ではすでに有罪判決を受けている。今回は、「ファスト映画」に関する初の民事訴訟として注目されている。

刑事裁判では、主犯格の被告Aが懲役2年・執行猶予4年・罰金200万円、被告Bは懲役1年6月・執行猶予3年・罰金100万円、被告Cは懲役1年6月・執行猶予3年・罰金50万円の判決をそれぞれ受けている。映画会社側は、民事でも責任を追及することでファスト映画の抑止につなげたいという考えだ。

被害額の算出については、被告3人の運営していたYouTubeチャンネルに投稿していたファスト映画の再生数が合計で1000万回にのぼっていることから、一回の再生数で200円の利益と計算して被害額を20億円相当と算定。今回の訴訟は最低限の損害回復を求めるものとして全体の一部である5億円を求めるという。

1再生あたり200円という金額は、オンラインストリーミング1週間分で権利者が受け取れる金額をもとに算出しているという。YouTube上ではストリーミングのレンタルはおおむね400円程度が多いが、そこからプラットホームの手数料などを引いた上で、ファスト映画がまるごと映画全体を投稿していない事情を考慮して200円という金額になったという。

刑事裁判の罰金だけでは抑止効果が薄いか

海賊版対策などを行うコンテンツ海外流通促進機構(CODA)によると、ファスト映画は、コロナ禍以前から存在していたが、新型コロナウイルスの感染拡大期に投稿数が急増し大きな再生数を稼ぐものが生まれ始めたという。2021年6月14日にCODAが実施した調査では、55のチャンネルに約2100本のファスト映画が公開されており、視聴回数は4億7700万回以上に上っていたとのことだ。また、2021年の同被告3人の逮捕後、9月には55のチャンネルは8にまで減少したということで、一定の抑止効果があったと言えそうだ。

今回はすでに刑事裁判で著作権侵害が認定された相手に対しての損害賠償を争うものとなる。著作権侵害の初犯は罰金刑となっても少額で済む場合が多く、抑止につながりにくい面もある。今回の被告3人はおよそ700万円を稼いだと言われているが、3人の罰金はそれよりも少なく、執行猶予もついている。この場合、罰金を支払ってもなお利益を得ているわけで抑止としては弱く、逆に「初犯なら儲かる」と思われかねず、次はもっと巧妙に著作権を侵害して儲ければよいという考えを生み出してしまうこともあるだろう。

今回の民事訴訟は、高い損害賠償額を示すことで、こうした再犯を抑止したいという狙いがあると考えられる。今回の訴訟では、損害賠償の認定金額が大きな焦点と言える。今回のように民事によっても著作権侵害を許さないという強い意志を示すことが抑止の観点では重要になる。

同様の事例として、今年7月に、漫画の海賊版サイト「漫画村」の運営者に対して、KADOKAWAなど大手出版社が損害賠償19億円を求める民事訴訟を起こしており、コンテンツ業界全体で海賊版対策に対する意識が高まっている。

明日の判決で抑止に充分な損害金額が認定されるか、映画業界だけでなくコンテンツ業界全体にとっても重要な裁判になるだろう。

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