“違法”「新・破産者マップ」に政府が停止命令 「個人情報」悪質なネット“ばらまき”への対処法はある?

弁護士JP編集部

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“違法”「新・破産者マップ」に政府が停止命令   「個人情報」悪質なネット“ばらまき”への対処法はある?
いまだにサイトは閉鎖されていない(※11月14日現在)

「多数の破産者等が人格的・差別的な取り扱いを受けるおそれがあることなどから、個人の重大な権利利益の侵害が切迫している」

11月2日、政府の個人情報保護委員会は、多数の破産者の個人情報を違法に公開しているウェブサイト「破産者マップ」の運営者に対して、個人情報保護法第145条第2項に基づき、停止命令を出した。これに従わない場合、刑事告発をする方針も併せて発表している。

7月には「停止勧告」も出されていたが…

「破産者マップ」は、自己破産した個人の名前・住所をGoogleマップ上に表示するサイトで、マップ上のピンをクリックすると、それらの個人情報が表示される仕組み。これらの情報は「官報」(国が発行する法令公布の機関紙)から転載されたものだ。サイト上の個人情報を削除するためには、「情報削除の対価」としてビットコインによる6万~12万円の支払いを求められる。

サイトでは情報削除の“対価”を要求

2018年、破産者マップが出現して以降、何度か同様のサイトがアップされ問題化した。「破産法の趣旨に反する」など、複数の弁護士がサイトの問題点を指摘、被害者弁護団も結成された。それらを受け、個人情報保護委員会は対応を進め、2022年3月にも「個人情報保護法」に基づき、国内のサイト運営者に対し停止命令を出し、サイトは閉鎖されていた。

今回の措置は、2022年6月頃に再度出現した「新破産者マップ」に対するものだ。ただ、このサイトのドメインは、カナダで取得されているため運営者に関する情報が明らかになっていない。この7月には個人情報保護委員会による「停止勧告」が出されていたが、サイトが応じた形跡はなく、閉鎖もされなかった。

今回出された「停止命令」に対しても、運営者や海外サーバーが応じるとは限らず、今後も情報が拡散され続ける恐れもある。破産者マップの問題点、そして掲載された側が取ることのできる対応策の有無などについて、海外のサイト事情にも詳しい杉山大介弁護士に聞いた。

インターネットの”空気感”自体に修正の余地がある

今回、個人情報保護委員会がウェブサイトの運営者に停止命令を出したと発表しました。これに従わない場合には刑事告発する方針とのことですが、「運営者が特定できていない」状態で現実的に有効なのでしょうか。

杉山弁護士:「告訴」ではなくて「告発」です。「犯罪がある」と思うから伝えているだけで、告訴と異なり捜査義務が生じているわけでもない程度でできているということなので、有効性は期待しにくいのかもしれません。

「新破産者マップ」の違法性について、「プライバシーの侵害」「個人情報保護法に違反」「名誉毀損(きそん)に該当する可能性」が以前と同様指摘されていますが、「削除の対価要求」 について何らかの罪(恐喝など)に問われる可能性はないのでしょうか。

杉山弁護士:「恐喝」などの構成は、理論上ないとは言えないですが、かなり微妙ですね。「法的な請求と金銭を対価にすること」はままあるわけで、それを違法とするには、相当に異常な態様である必要があります。そうでないと、まっとうな取引や交渉すら阻害されるからです。

現状で運営者の素性が明らかではなく、サイトも閉鎖されてはいませんが、新破産者マップに掲載されて困っている方個人では、削除費用を払う以外の解決方法はないのでしょうか。

杉山弁護士:早期の解決となるとそうですが、それは「闇金に払うと取り立てが止まる」、「身代金を払うと誘拐から解放される」みたいなお話です。非常に遺憾ですが…私も特に他の方法は思いつきません。

インターネット版官報の公開情報を、営利を目的としたサイトへ転載することの根本的な問題点は、破産者マップの違法性あるいは法律的妥当性も含めてどこにあるのでしょう。

杉山弁護士:「誰でも閲覧可能」なことと、「誰でも”容易に”閲覧可能」であることは異なると思います。例えば民事裁判の記録も、原則、誰でも閲覧可能なわけですが、インターネットにばらまいて良いものではないですよね。プライバシーという法的な利益にも、ここまで公開されるのは良いけど、これ以上知れ渡るのは困るなど、程度差があるのだと思います。その『程度』を超えてるというのが、今回の問題点なのだと思います。

破産法に基づき誰でも閲覧可能な「官報」ですが、今回のような悪用を恐れて自己破産をためらう債務者があらわれないとも限りません。今後同様の被害を防止するためにも、ネット時代に即した何らかの法整備の必要性はあると思われますか。

杉山弁護士:そもそもプライバシー侵害に対して無力すぎるとは以前から思っています。ちょっと動画が話題になっただけで、その関係者がプライバシーを好き放題に荒らされるといった、インターネットの”空気感”自体に修正の余地があるのではないでしょうか。

インターネットの環境、法律のすき間を巧みにぬった形ともいえる今回のサイト問題。根本的な解決策が見えにくい状況だが、個人情報保護委員会をはじめ関係各所の次の一手に注目したい。

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