Snow Man10万円超も“通常価格”の無情… 「チケット高額転売」問題が簡単に解決しない事情とは

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

Snow Man10万円超も“通常価格”の無情… 「チケット高額転売」問題が簡単に解決しない事情とは
生ライブは何物にも代えがたい体験だが…(※写真はイメージです Joel/PIXTA)

2022年も残すところ2か月を切ったが、今年はコロナ禍において自粛・規制されていたスポーツイベントやコンサートなどが再開、一部で行われていた入場人数の規制も完全に撤廃されるなど、各種イベント再開元年ともいえる年だったのではないだろうか。

ぴあ総合研究所によれば、2021年のライブ・エンターテインメント市場規模は、コロナ禍前の2019年に比べ51.2%減となったものの、一律「上限5000人」とした人数制限が2021年9月に緩和されて以降、回復に向かっているとの見込み。早ければ2023年にコロナ前の水準に回復する可能性がある、と予測した将来推計値(2021年9月発表)に修正はないとしている。

定価チケット10倍以上の高値取引が“通常営業”

感染状況がいったんの落ち着きを見せる中、「チケット争奪戦」の熾烈(しれつ)さに関しても、コロナ以前の状況が復活しているようだ。

人気の興行チケットには、プレミア価格が上乗せ転売されるのが“常態化”。ジャニーズ、EXILE、宝塚、といった熱狂的なファンが形成されている関連グループのチケットの中には、FC(ファンクラブ)先行発売開始後、一般発売後にも即完売、直後から転売サイトやSNSなどで定価の10倍以上の値段で取引されているものもある。

過日、試しにチケット転売サイトでジャニーズの大人気グループ Snow Man(スノーマン)のライブチケット( LIVE TOUR 2022 Labo.)の販売状況を確認してみたが、10月29日(土)新潟・朱鷺(とき)メッセ 13:00~回は、1枚7万~20万5000円という値付け(10/27時点)であった(定価8300円※FC料金税込み )。

同サイトで転売されていた同日公演、こちらも世界的な人気を誇るブルーノ・マーズの「Bruno Mars Japan Tour 2022」1枚4万5000円(A指定席 定価1万1800円 ※税込み)が良心的と錯覚してしまうほどの値付けだが、ほとんど「取引中」(売買交渉中)が表示されている。

もちろん前出の“3大”興行以外でも、音楽ライブ関連チケットの「高額転売」に頭を悩ます興行主は少なくない。近年、人気が定着した音楽フェスもそのひとつだろう。たとえば、11月26日・27日に開催予定のライブフェス、「(ACIDMAN presents)SAITAMA ROCK FESTIVAL “SAI” 2022」のホームページでは、今回のチケットの不正転売・高額転売、そして詐欺トラブルの報告と警告が掲示され、入場時、本人確認を徹底して実施する旨がアナウンスされているケースなどもある。このように運営側が徹底的な対応策をとっても、高額転売チケットの取引きは後を絶たない。

「チケット転売市場」の成立は、売買側それぞれの利害の一致によるもの。しかし、人気のチケットを定価で手に入れられず、いわゆる「転売ヤー(転売屋)」からの高額購入が常態化することは、生活必需品の値上げにも悩まされる消費者側の大いなる不利益といえる。そもそも、チケットを「定価以上」の値段で「転売」することは、れっきとした法律違反にあたり得る行為である。

『チケット不正転売禁止法』とは

もともと、チケットの転売は「ダフ屋行為」として各都道府県の迷惑防止条例で取り締まられていた。

2019年6月14日、それらに加え、インターネット上でのチケットの不当な高額転売等を禁止するため、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(以下「チケット不正転売禁止法」※通称)が施行された。

各種イベントの開催も多い、海浜幕張駅前にオフィスを構える金杉拓哉弁護士はこの法律の概要について以下のように解説する。

「『チケット不正転売禁止法』は、国内で行われる映画、音楽、舞踊などの芸術・芸能やスポーツイベントなどのチケットのうち、『特定興行入場券』と呼ばれる、『興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨が明示された座席指定等がされたチケット』の不正転売等を禁止する法律です。

①特定興行入場券(チケット)を不正転売すること
②特定興行入場券(チケット)の不正転売を目的として、特定興行入場券を譲り受けること

が主な禁止行為となります。

ただし、転売サイトで『定価以上で繰り返し売っている』と不正転売になりますが、『1回限り』であればそれに当たらない可能性もあり得ます。また、たとえば同一人物が別アカウントを複数作成し、同じ人が何回も高額で売っていたとなると、本来であれば法律に違反してくるのかと思います」

このような法律が存在していても、それらに対応するシステムや人的整備(会場での本人確認作業など)にコストをかけることは後回しとなりがちで、取り締まりは現実的ではない、というのが現状のようだ。

昔ながらの「ダフ屋行為」は少なくなっているが…(tarousite/PIXTA)

定価のチケットを手にするのは「運」次第?

前出のSnow Man(スノーマン)のライブ‟定価”チケット取得までのプロセスについて、デビュー以来のファンであるという、都内在住の女性Aさん(20代)は次のように話す。

「定価でチケットを入手するのは簡単ではありません。FCチケットと呼ばれるもので、FC(ファンクラブ)入会が基本です。FCのページから、該当のライブに申し込みをします。応募枚数は、過去は4枚まででしたが、より当選枠を増やすための事務所側の対策なのか、最近は一公演2枚までになりました。

第3希望まで(いつでもどこでも良い) という選択肢がありますが、特別な制限が設けられていなければ、1公演ずつの申し込みが可能なので、「東京A月B日昼→第1希望」「東京A月B日夜→第1希望」…と、とりあえず全公演申し込む人が多いと思います」

全公演すべて当選してしまうと大変な金額になってしまうが、Snow Manのような人気グループはなかなか当たらない。「当選」していれば、デジチケ(QRコード)の案内メールが公演数日前に届く。「落選」しても、後日、復活当選の可能性は残される。一連の手続きを見れば、一般発売で購入するという当たり前の流れは、難しく思えてくる。

これだけ多くのハードルを経て、定価のチケットを手にするためには、FCに入会してあとは「運」、そしてどれだけ「複数名義」を持っているか次第であるという。したがって、ライブに行ける確率を上げる方法のひとつが、転売サイトに流れた「高額チケットの購入」という皮肉な状況となっている。

ちなみにSnow Manのライブチケットは基本全席指定(一部、立見席もあり)で、入場時に座席が分かるシステムとなっている。本人確認はないので、「簡単に転売ができる」現状だという。

「入場時にデジチケ(QRコード)をかざしてチケットが発券されるのですが、そのデジチケが2名分の場合、同行者不在(入場時に1名のみ)だと入れさせてもらえません。行く予定だった人(同行者登録した人)が専用ページから「来場しない」をすれば、1名でも入場は可能ですが、転売する側としては、高額でチケットを売る目的を果たすために、買う側が入場時にいてくれさえすればいいので、『気を付けるべきところ』はそこだけだと思います」(Aさん)

なお、入場後、さらに座席を金額で交換する、「サイドチェンジ」という名の‟闇取引”も行われているのだとか。

プレミアムチケットは意外にシンプル(写真:Aさん提供)

「分かっていながら野放し」のグレーゾーン

SNSでの詐欺などは言語道断であるが、売買に関するやり取りでトラブルが発生しづらい“正常な”取引きは、やはり転売サイトが中心を担っている。高額転売を事実上黙認しているともいえる「転売サイト」運営側に何らかの問題はないのだろうか。前出の金杉弁護士は次のように語る。

「サイトの運営自体は、『分かっていながら野放し』ということで、不正転売を助長している状態です。その点でサイトの運営自体は不正転売の黙認をしていたという所で、「ほう助」に問われる可能性は十分あるのではないでしょうか。場合によっては、摘発されてもおかしくはないとも言えます。

ひと昔前、「2ちゃんねる」の閉鎖後にも、違法薬物などの売買に利用されていたりなど、野放しにしていた「ほう助」の疑いでサイト管理者が書類送検された(後に不起訴処分)という歴史もあります。したがって、「転売サイト」も“限りなくグレーに近い”運営ではあり、法律的妥当性はない可能性が高いといえるかもしれません」

この3月には、警視庁が転売仲介サイトに、高額取引の監視や情報共有を要請している。転売サイト内では、チケット不正転売禁止法に基づく注意喚起や本人確認の徹底の警告掲示はなされているものの、定価の数倍~10数倍の値でチケットが取引きされている状況は変わっていない。金杉弁護士は続ける。

「ただし、先ほどグレーに近いとは言いましたが、転売サイトの利用者は多く、転売によって、いったい誰が「不利益」を被っているのか、という問題があるかもしれません。チケットを売る側にしても、正直、誰が購入しようと一緒ですよね。

さらには、高額でも買う人がいて市場が成立してしまっているという、消費者側の問題もあります。『不利益を被った』と訴える人が、意外と出にくい状況なのかもしれません」

ただ、本当に当日急用で行けなくなったイベントなどのチケットを、正規の転売サイトやSNSなどを通じて売却を募りたいという場合も少なくないが、どのような対応が適切なのか。

「まず『定価以下で売る』が大原則です。さらに、買った時に入場できる人の名義などは決まっているので、それを転売して、買ってくれた人に名義を書き換えないといけないと行けなくなるケースもあります。

運営によっては異なると思いますが、その辺りの『手当』を購入者のために行う。たとえ定価以下で売却しても、そのチケットで入場できない事態になった場合、『詐欺行為』などで訴えられかねません」(金杉弁護士)

後にトラブルに発展しない「転売」の基本的な確認事項、注意点は抑えておくのが賢明だろう。

ファン側は「諦め的な空気」も…

高額転売について、ファンはどのようなイメージを持っているのだろうか。自らも高額転売チケットを購入した経験もあるという前出のAさんは、次のような印象を語る。

「(ジャニーズに関しては)色んな人がいると思いますが、まじめな方は『名義を複数持たない(規約違反だから)』『当たらなければ復活当選を待つ』『転売は悪!』という考え。一方で、一部のファンは『転売はもちろん悪、複数名義は規約違反だけど、事務所は取り締まる気ない(複数名義含む)し、FC会費で甘い蜜を吸ってるから仕方ない』という諦め的な空気かなと思います」

需要と供給が成立し、具体的な被害者として名乗り出る人も少ないグレーゾーン。運営側と“転売ヤー”のいたちごっこに翻弄されるファン、という構図はしばらく続きそうである。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア