イーロン・マスク氏によるツイッター社大量解雇 「法的に争いやすい」労働者側視点で弁護士が思うこと

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

イーロン・マスク氏によるツイッター社大量解雇  「法的に争いやすい」労働者側視点で弁護士が思うこと
11月4日までに全従業員の半分にあたる約3700人が突然解雇された(mrmohock/PIXTA)

ツイッター社のイーロン・マスクCEOが、世界の従業員(約7500人)の半数を解雇しました。労働問題も多く対応している杉山大介弁護士に、今回の解雇における問題と、労働者側に立った視点での解決方法などについて話を聞きました。

杉山弁護士:ツイッター社に対して潜在的な債権者が大量に発生したということです。もっと露骨な言い方をすれば、ツイッター社から、「社員は大量にお金を取れるぞ」ということです。すでに、ツイッター上でも、そのような方向でアピールを始めている弁護士がいます。

一方で、すでに解雇が発表されて、それをネタにするかのように振る舞っているツイッタージャパン社の社員もいます。何となくですが、「労働法に基づいて会社と争う」といったアクションを好きじゃなさそうな人たちです。

私も、やる気のない人に無理強いするつもりもないです。ただ、そうやって振る舞っている人たちは、私から見ると「情弱」であり、自身の機会を最大限に生かし経済的価値に換価しようとしない「怠惰」に見えます。これだけ自身に利益をもたらす手段が、しかもさほど労なく取れるのに、どうしてやらないのか。

今回は、ツイッター社の事例に基づき、多くの人に『労働者の強さ』を知ってもらうべく、お話ししようと思います。

「解雇」は労働法上の“死刑”である ~あくまで最終手段としての解雇~

杉山弁護士:わかりやすく説明するために、私はしばしば『犯罪』の話をします。「万引きをした人、盗撮をした人、悪い人ですよね?」と聞けば、「そうですね」と皆が答えます。「じゃあ死刑にしますか?」と聞くと、「それはちょっと」と皆が答えます。

解雇も同じ話です。

労働者にとって、生活の手段であり、無くなれば衣食住すら整えることが困難になり、人間的な生活ができなくなる『仕事』。それを一方的に奪う手段です。そんな簡単にとって良いわけがありません。

「他に解雇せずに済む手段がないのか」という点を細かく検討していき、さまざまな反対仮説を排除していき、ようやく「解雇しかない」という結論が出せます。無断欠勤をしていようが、会社に損失を出していようが、当然に解雇は認められません。まずはこのスタンダードから理解しましょう。

なお、労働契約法16条にも、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と明示されています。

経営上の都合による“整理解雇”はもっと究極的な手段

杉山弁護士:前記は、一応労働者側にも落ち度がありそうな前提での話でした。それに対して、事業の利益率を向上させ、単に全体でのコストカットを狙うなど、経営上の必要性に基づく解雇は、より厳格に有効性を判断されることになります。

判例上は、「人員削減の必要性」「解雇回避措置」「人選の合理性」「手続の妥当性」といった要素が重要な考慮ポイントとして検討されています。そして、今回のツイッター社のレイオフ通知は、早すぎたことが全ての要素との関係で“裏目”に出ています。

人件費以外の費用との比較検討、給与体系の変更などの他手段の検討、第一弾対象として個々人の比較検討、そして弁明の機会を設ける等の手続保障、これらを後から客観的な評価に堪える形で立証するのは困難だと、はたから見ていてもわかります。むしろ、そのような状態で最終手段にまで踏み込んでくれた分、「法的に争いやすくなった」とすら、労働者側の弁護目線では思うでしょう。

なお、退職金額を包むのは、あくまで合意退職のために、会社側が了承いただけないか説得する一手段に過ぎません。労働者側が嫌だと言ったら、そのお金で解雇を勝ち取れるわけではありません。

その日本のルールって適用されるの? ~国際労働法~

杉山弁護士:ツイッター本社はアメリカの会社である一方、ツイッタージャパンは日本の会社です。したがって、ツイッタージャパンの社員が日本法の適用を受けるのは当然のように思います。ただ、仮に契約先がツイッター本社だったり、たとえば契約書にアメリカ州法を適用する、裁判はアメリカの州で行うなどの規定があったとしても、日本の労働法は使え、日本の裁判所で訴えを起こせます。

まず、どの法律を適用できるかに関する準拠法のポイントでは、法の適用に関する通則法12条が、何らかの準拠法についての合意をしていても、強行法規については労務を提供していた場所の法律を適用するとしています。強行法規というのは、任意に合意で変えてはいけないルールのことで、使用者と労働者の契約交渉力の差に着目して作っている労働法は、強行法規の塊です。労働契約法16条も、当然、強行法規です。そのため、日本で働いていれば日本の労働法が適用できます。

同じように、民事訴訟法3条の4第2項で、労働者は日本国内で労務を提供していたら、日本の裁判所に訴えを提起できることを定めています。民事訴訟法3条の7第6項において、合意管轄の内容を制限し、労働者が今いる場所で訴えを提起できなくならないようにしています。

でも裁判になるといろいろ面倒なのでは? 次の就職への影響は? お金は?

杉山弁護士:これは労働事件に限らず民事訴訟全般に言えますが、言うほど面倒ではないです。主張立証は、基本弁護士に任せておけばよく、裁判所に行かないでもやれます。転職活動だって、していただいても構いません。ひとまず生活をしなければいけないのですから、不当解雇された時に争うには働いてはならないなんてルールでは、法に従って主張することができなくなります。法律はそんなむちゃな要求をしません。

解雇訴訟において得られる金銭を“バックペイ”というのですが、これも他で収入を得られていようと、ゼロになったりはしません。ちゃんと、一定額までは保障される仕組みになっています。

なので、弁護士から見ると、戦う材料があり、他人に戦わせて、自分は新しい生活をしていたら臨時収入が入ってくるかもしれない労働事件は、もっとポジティブにとらえられて良いと思います。実際、訴訟すれば勝てそうな事件ですと、「成功報酬準拠の契約」にし、初期費用も抑えた形で受けている弁護士も少なからずいます。

ツイッター社に限らず、いきなり“雰囲気解雇”をしてくるヤバい経営者を見かけたら、弁護士に相談してみてください。だいたい戦えますよ。オススメです。

逆に、経営側に立つ人は、労働法を持ち出された場合、とにかくプロセスが大事です。カリスマなんかにあこがれず、地道に手続きを踏まないと、本当に痛い目にあうので気を付けてください。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア