音楽教室「最悪の事態は避けられた」JASRAC著作権訴訟に判決 “生徒の演奏”使用料は請求されず

杉本 穂高

杉本 穂高

音楽教室「最悪の事態は避けられた」JASRAC著作権訴訟に判決  “生徒の演奏”使用料は請求されず
左から2人目が「守る会」の大池真人会長、中央が弁護団代表の三村量一弁護士(10月24日霞が関/杉本穂高)

音楽教室のレッスンで使用する楽曲が、日本音楽著作権協会(JASRAC)の著作権使用料の徴収対象となるかが争われた訴訟の上告審が10月24日行われ、最高裁判所は生徒の演奏に対しては徴収できないとした二審の判断を支持し、JASRAC側の上告を棄却した。

本訴訟の発端は、JASRACが2017年2月に音楽教室から管理楽曲の使用料を徴収する方針を発表したことによる。音楽教室事業者243名と個人の音楽教師2名が原告となり、JASRACに対して「音楽教室における演奏については著作物使用にかかわる請求権がない」ことの確認を求め、2017年6月20日に訴訟が提起された。

一審では原告側の請求は全て棄却されたものの、知財高裁での二審では、教師による模範演奏は演奏権の侵害となるが、生徒による練習演奏は演奏権の侵害ではないと判断され、原告側の一部逆転勝訴となっていた。

今回の最高裁の判決では二審の判断が支持され、音楽教室において「教師の演奏は著作権徴収の対象」となるが、「生徒による演奏は徴収の対象外」となることが確定した。

原告団である「音楽教室を守る会(以下守る会)」は判決後、東京都内で会見を行った。

100%の勝利ではないが、意義はあった

冒頭、「守る会」の大池真人会長は、57万通の署名を得るなど各所から支えてもらった感謝を述べ、5年にわたる訴訟を振り返った。

今回の訴訟において、上告審の段階で争点となったのは、生徒による演奏の主体は、「生徒か音楽教室事業者なのか」の一点であったという。

最高裁は、生徒の演奏の主体は「生徒自身」であるとし、音楽教室の中で多くの割合を占める生徒の演奏には「演奏権がおよばない」と判断。教師の演奏と録音物の再生演奏についてはJASRAC側の主張が認められた形となった。大池会長は、今後について、JASRACと適切な著作物使用料率について協議していくつもりだと語った。

弁護団の代表、三村量一弁護士は今回の判決について、「生徒の演奏の実態をよく踏まえた上での適切な判断でよく考えられたものだ」と評価した。生徒の演奏は技術の習得を目的にしており、たとえ教師が伴奏をしたり課題曲を選定していたとしても、生徒の演奏を補助するにとどまるもので、生徒を使って事業者が演奏を実施しているわけでないと判断され、一審で参照されたカラオケ法理(※)の無制限な拡大にも一定の歯止めがかけられたと理解していると解説した。

(※)「著作物の利用行為を管理する者」であって「著作物の利用行為により利益を得ることを意図している者」を、著作権利用行為の主体であると評価する考え方。

大池会長は、「音楽人口を支えるのは演奏人口。その演奏人口を生んでいるのは音楽教室だ。(5年前のJASRACの方針転換は)音楽業界全体に大きな影響を及ぼすものだと認識していたことから訴訟を起こした。訴訟全体を振り返ってみると100点の勝利ではないが、主な争点は勝ち取れたし、意義は十分にあった」と述べた。

適切な使用料率については今後JASRACと協議

さらに、「この5年の間にコロナ禍もあり、教室の現場は大変厳しい状況。今日の判決は音楽文化にとって最悪の事態が避けられただけ。若年層の演奏人口が大きく減っている状況にあって、生徒の演奏に使用料が課せられることになれば、それに拍車がかかるかもしれないと危惧していたが、歯止めになる結果となった。(この件以外にも)さまざまな環境の変化があるなか、これまで以上に営業努力をしていく必要がある」と語った。

5年前の段階では、JASRACは1施設当たりの使用料は主に受講料収入の2・5%を主張していたが、今回はその数字を争っていたわけではない。大池会長は「司法の判断が示されたことで戦いは終わった。判決内容を真摯(しんし)に受け止め、実態に即した使用料率をJASRACと議論をしていきたい」と今後の抱負を語った。

なお、JASRAC側は同日、今回の判決について「争点の一つである生徒の演奏については、JASRACの主張が認められず残念。音楽教室事業についても、これまでライセンス環境を整備してきたすべての利用分野と同様、音楽著作物の公正な利用と保護を両立できると確信している」とコメントを発表している。

文化発展のための「利用と保護のバランス」が改めて問われた

今回の裁判は、音楽教室という個別の事業者に演奏権がおよぶかが争われ、教師の演奏については使用料が課せられ、生徒の演奏についての使用料は請求されないという「痛み分け」のような形で結審した。

本裁判の結果は音楽教室の事業者だけの問題にとどまらず、音楽業界全体にも影響があるものだと、会見で大池会長が強調した通り、音楽文化の発展のための「利用と保護のバランス」が改めて問われたものと言えるだろう。

会長は会見で、近年の演奏人口の減少にも言及したが、生徒の演奏に使用料が課せられないとは言え、レッスンにおいて教師が全く演奏をしないで教えることは難しいだろう。そうなれば結果的にコスト増となることも考えられる。そして、それが生徒のレッスン代にも反映されることもあり得るだろう。「最悪の事態は避けられた」という言葉も会見で聞かれたが、会長は音楽教室と音楽文化全体の状況が好転する結果とは受け止めてはいないようだ。

文化全体の発展のために、著作権の適切なバランスはどこにあるのか、これからも議論を続けていく必要がありそうだ。

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