「いじめ撲滅」へ“加害児童”を校内立入り禁止に!? 「緊急分離措置」教育現場での“実用度”とは

弁護士JP編集部

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「いじめ撲滅」へ“加害児童”を校内立入り禁止に!?  「緊急分離措置」教育現場での“実用度”とは
加害児童への「出席停止」措置は簡単ではない(Graphs/PIXTA)

学校をとりまく問題の中でも、抜本的な解決策がなかなか見いだされないのが「いじめ問題」ではないだろうか。

昨年3月、北海道旭川市で凍死した状態で見つかった女子中学生が、いじめを受けていたことがわかった問題を機に、いじめの"加害児童”に対する処罰についてさまざまな議論が起こっている。

同年12月には自民党の文部科学部会が、「いじめ撲滅PT(プロジェクトチーム)」を発足。学校長の権限により、加害児童に対して学校内への立ち入りを禁ずる「緊急分離措置(仮称)」などを盛り込んだ提言案をまとめた。

現在すでに、いじめの加害児童らに対する措置として、登校を制限する「出席停止」(学校教育法第35条)があるが、文部科学省の調査によれば、昨年(令和2年)全国で「出席停止」の措置が取られた件数は小学校では0件、中学校で4件のみだった。

同調査で、いじめを含む暴力行為の発生件数が小学校で4万件、中学校で2万件を超えていたことを鑑みれば、「出席停止」が加害児童らに対する抑止となっているとは言い難い状況だろう。

現行の「出席停止」が機能していないなか、いじめ撲滅PTが提言する「緊急分離措置(仮称)」は現場で活用されるのだろうか。

出席停止はなぜ機能しないのか

現行の「出席停止」の決定権は教育委員会にあり、学校側の申し立てを受けて判断される。加害児童の〈教育を受ける権利〉を止めることになるため、加害児童とその保護者への意見聴取も必須だ。

千葉大教育学部教授で同付属中の校長も務める藤川大祐氏は、出席停止が機能しない理由のひとつに、措置の大前提となる「いじめの”事実確認”の難しさ」を挙げる。

藤川大祐氏

「教育委員会は捜査機関ではないので、強制的に調査したり、証拠を精査したりはできません。また自分に不利益が生じるとなれば、加害児童が隠ぺいや虚偽の申し立てをすることもあり得ます」(藤川氏)

たとえ最終的に出席停止措置が取られたとしても、事実確認には時間がかかるため、その間被害を受けた児童は不安を抱えたまま登校を続けることになる。

藤川氏は「自民党PTの提言案はまだ公表されておらず、報道だけでは具体的にはわからないところもある」と前置きをしつつ、緊急分離措置について「100%事実が確認できてなくても、”一時的な措置”を取れるようにしようということが含みとしてあると思う」とし、「被害者の安全を守るための、”一時的な措置”であるとするならば検討に値する」と期待を寄せる。

「緊急分離措置」重要なのは制度より「運用方法」

その上で藤川氏は、教育現場においては制度そのものよりも具体的な「運用方法」が重要だと話す。

「生徒が別の生徒に怪我を負わせ、被害を受けた生徒が不安を訴えたということが起きた場合でも、いきなり『今すぐ緊急分離措置を出します』では、相当な反発があると思いますし、現実的ではありません。

たとえば『次に危ないことがあったら、”被害者”ではなく”加害者”であるあなたを教室から出します』と加害児童に”イエローカード”のようなニュアンスで事態を理解させる。その上で”警告が一度発せられたにもかかわらず、また危険な行為が生じた場合”などに校長の判断で措置が取れるというように、運用の具体的なルールがあれば十分に使えると思います。

現場が制度を活用するためには、運用方法をかなり具体的に考えていかなければいけません」(藤川氏)

「いじめ撲滅PT」の座長である三谷英弘議員は、現在提言案は「自民党の文科部会において了承されたところ」だと話し、前述の通り文面の公開はなされていない。

実現に向け引き続き取り組みを進めていく意向を示した三谷議員だが、しばらくの間は現状の「出席停止」が加害児童に対する”最大”の措置であることに変わりはない。

いじめ加害児童への適切な対応とは…?

いじめ問題が事件化し報道されると、多くの意見がSNS上を飛び交う。特に多いのは「いじめは犯罪だから刑事事件として取り扱うべき」という趣旨の発言だ。

これに対し藤川氏は「”いじめ”には多様なケースがあるのに、一様に論じられやすい」と危機感を抱いている。

「毎年何十万件といういじめの認知件数がありますが、その大半はいわゆる犯罪には当たらない行為です。こういうものについては、”処分”するのではなく、加害者が態度を改めて、同じことを繰り返さないようにするための”指導”が必要です」(藤川氏)

旭川の事件など、犯罪に該当するような行為が確認されているケースについては、「”少年犯罪者”として処分するべき」としながら、「処分して終わりではなく、成育歴で何か問題がなかったかや、発達の偏りがないかなどについても視野に入れ、どういう背景があって犯罪行為をしたのかを調査する必要があります。その上で、課題に沿った更生をさせていくべきだと思います」と加害児童への対応について語った。

いじめ問題に対応する教育現場の‟実情”

一方で、藤川氏はいじめを減らすためには「教員たちの意識の変化」も必要だと訴える。

「ひどいいじめになるケースは、ほぼ例外なく先生が親身になって話を聞いていません。先生に相談しても無駄だと思われている状況もあるかもしれません」(藤川氏)

同上「令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」より

文部科学省の調査によれば、いじめ発覚のきっかけの約55%が「アンケート調査などの取り組み」だ。これに対し被害を受けた生徒が先生に相談して発覚したケースは約17%にとどまった。

藤川氏は「年数回しか行われないアンケートを待っている子どもが非常に多いが、本当はこの数字が逆じゃなければいけない」と話す。

「ひどいいじめを減らすためには、最低限、先生は話を聞いてくれる存在であると子どもたちに思ってもらう。子どもから相談を受けた先生が真剣に聞くのは当たり前ですが、その先生がひとりで対応するのではなく、学校として組織的な対応をとっていくことも重要です。

そのためには、学校の中でいじめについて問題を迅速に共有して、組織的に判断する仕組みがなければいけません。しかし、この仕組みができていない学校が多いというのが今の実情だと思います」(藤川氏)

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