元夫の子ども「引き渡し拒否」は法律的に有効? “親権者”あびる優さん娘と再会までの行方

弁護士JP編集部

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元夫の子ども「引き渡し拒否」は法律的に有効?   “親権者”あびる優さん娘と再会までの行方
あびる優氏のインスタグラム(@yuabiru74)より、才賀氏とAちゃんとの3ショット

タレントのあびる優氏と、元夫の才賀紀左衛門氏による娘Aちゃんの親権争いが泥沼化している。

まず審判の末、Aちゃんの親権を持ったあびる氏の告発が「文春オンライン」に掲載(7月20日)され、Aちゃんが才賀氏による「連れ去り状態」にあることや、結婚当時にDVやモラハラなどがあったことを世間に訴えた。一方で、「女性セブン」誌上では、才賀氏の知人らの証言をまとめ、あびる氏が深夜にAちゃんを連れまわすなどの虐待が行われていたとする記事を公開(7月28日)するなど、メディアによる代理争いの様相も呈している。

SNS上では「子どもが完全に置き去りでかわいそう」と心配する声や、「親権者に引き渡さない状態は誘拐じゃないの?」といった制度自体への疑問の声などが多くあがっている。

家庭裁判所があびるさんを「親権者」と認めた

あびる氏と才賀氏が結婚したのは2014年9月、翌年5月にAちゃんが誕生した。しかし、その後2019年12月にふたりは離婚。才賀氏が親権を持つことを公表、Aちゃんを引き取っていた。

才賀氏が親権を持った理由について、あびる氏は文春オンラインの記事の中で以下のように語っている。

〈「ずっと離婚したかったのですが、彼は『離婚をしたらタダの俺になる』などと言って応じなかった。このタイミングを逃すと離婚できなくなると思い、親権者変更と引渡しは後で申し立てることにして、受け入れることにしたのです」〉(「文春オンライン」2022年7月20日記事より)

あびる氏は離婚の直後から、東京家裁に「親権者変更」と「引き渡し」の申し立てを行い、2021年に認められた(才賀は抗告したが棄却)。

しかし、引き渡し日になって才賀氏が「Aちゃんが嫌がっている」と引き渡しを拒否。さらに直接強制(※1)執行日には、Aちゃんが泣き出し執行不能となった。

(※1)民事執行法に基づく地裁の執行官による引渡し

「1日当たり4万円」も踏み倒している?

その後、あびる氏の申し立てにより、金銭の支払いを求めることで間接的に子どもの引き渡しを強制する「間接強制執行」が認められた。才賀氏はあびる氏に「1日当たり4万円支払う」必要がある状態となった。

それでも才賀氏は現在に至るまで引き渡しに応じておらず、支払いもされていない状態であるという。

また、あびる氏をママと読んで慕っていたはずのAちゃんは、引き渡し日以降「(あびる氏は)ママじゃない」「産んだだけのただのおばさん」などと言うようになっていたといい、家裁の審判書では下記のように指摘されている。

〈未成年者(Aちゃん)が債権者(あびる氏)に対して拒否的な感情を抱くに至ったのは、債務者(才賀氏)の影響を受けたことによることが明らかである〉(「文春オンライン」2022年7月27日記事より)

「誘拐」で捕まる可能性が低い理由

最高裁によれば、子どもの引き渡しを求めた申し立ては2014年以降、毎年100件程度あるものの、実際に引き渡しが実現した件数は約3割にとどまっている。

才賀氏によるブログでの”子育て投稿”など、メディアなどを通じて双方の主張やパフォーマンスが悪目立ちしている感はあるが、親権をもつ親が子どもと暮らせないケースは決して特殊ではない。

才賀氏による一連の「連れ去り」について、離婚問題を含む多くの男女・家族の問題を扱ってきた安達里美弁護士は、「誘拐(未成年者略取誘拐罪)にあたる可能性は低いと思う」と指摘する。

なぜ親権者ではない親が「誘拐」の罪に問われる可能性は低いのか、また「間接強制執行」の支払いを踏み倒すことができるのかなど、さらなる疑問点を安達弁護士に聞いた。

親権のない才賀氏が「連れ去り」をしている状態にあると思いますが、なぜ「未成年者略取誘拐罪」などの刑事罰を受ける可能性は低いのでしょうか?

安達弁護士:「略取」と「誘拐」は、以下のように定められています。

●「略取」
略取とは、暴行または脅迫を手段として、人を生活環境から不法に離脱させ、自己または第三者の事実的・実力的支配化におくこと。

●「誘拐」
誘拐とは、欺罔または誘惑を手段として、人を生活環境から不法に離脱させ、自己または第三者の事実的・実力的支配化におくこと。

才賀氏とあびる氏は、才賀氏をAちゃんの親権者と定め離婚し、才賀氏は親権者としてAちゃんと暮らし始めたわけですから、「暴行または脅迫を手段として、人を生活環境から不法に離脱させ」や「欺罔または誘惑を手段として、人を生活環境から不法に離脱させ」に該当しないのではないでしょうか。

このまま「連れ去り」状態が続くのか

間接強制執行の「1日あたり4万円」という金額についても才賀氏は支払っていません。あびる氏が支払いを求めて裁判を起こす可能性や、才賀氏が不払いに対する刑事罰を負う可能性はありますか?

安達弁護士:今回の件における間接強制とは、才賀氏があびる氏にAちゃんを引き渡さないと1日4万円ずつ間接強制金の支払い義務額が増えていくことになるだけで、未払いであることへの刑事罰はありません。

ただ、あびる氏が未払いの間接強制金の回収を実行しようと思った場合、別途裁判をする必要はなく、才賀氏の財産に直接強制(※2)ができます。

(※2)債務者の意思とは関係なく執行機関が債務者の財産に直接権力を加えて、給付内容の実現を図るもの(民法414条1項)。

文春オンラインの記事によれば、家庭裁判所は才賀氏がAちゃんにあびる氏の立場を悪くするような刷り込みを行ったことを認めています(才賀氏は否定)。今後もし裁判などが行われるとすれば、Aちゃんの証言があびる氏に不利に働く可能性があるように思えます。そもそも裁判官は、幼児や刷り込みがある可能性のある人物の証言をどのように判断するものなのでしょうか? 

安達弁護士:家庭裁判所には、法律だけではなく心理学などの行動科学を学んだ調査官(職員)がいます。その調査官がさまざまな角度から子どもの発言について真意を含めてみていくことになります。

一般的に子どもは視野が狭く、目の前の利益に誘導されやすいことは司法関係者全員の共通認識ではあると思うので、調査官はもちろん、裁判官もAちゃんの言葉をそのまま信じることはなく、他の証拠などとの整合性を含めて慎重に判断することになるでしょう。

今回の件は、「連れ去り」の状態のまま事態が行き詰まっているように見受けられます。先生の依頼者が同じような事態に陥った場合、どのような対応を検討されますか?

安達弁護士:あびる氏の件については、細かい事情がわからないので何ともいえません。ただ、直接強制をしても引き渡しがされない場合、事情にもよりますが、人身保護法(※3)に基づく身柄拘束の解放によって引き渡しを実現するということも検討すると思います。

(※3)不当に身柄を拘束されている人を解放するための手続きを定めた法律。

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