いじめ被害児童の父親“報復”行為で逮捕 「卑劣な子ども」相手にやってはいけない“悪手”とは

弁護士JP編集部

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いじめ被害児童の父親“報復”行為で逮捕 「卑劣な子ども」相手にやってはいけない“悪手”とは
わが子を助けるために、親ができることは…(prathanchorruangsak/PIXTA)

子どもをいじめていた加害児童を呼び出し問い詰めた被害児童の父親が、傷害容疑で現行犯逮捕された事件が9月6日に兵庫県で起きた。

逮捕された父親は「長男をいじめている生徒を問い詰めるために学校に行った」という。父親は、現場となった中学校内の廊下に、加害児童とみられる複数の生徒を呼び出し、そのうちひとりの男子生徒の肩を押し、指を切る軽傷を負わせたとされる。

当時現場に教員はおらず、父親は「話をしている時に男子生徒が突っかかってきたので押し返した。暴行とは思っていない」と容疑を否認しているという。

子どもであっても”卑劣”な相手と警戒すべし!

いじめ問題にも対応する杉山大介弁護士は、前出の父親の供述通り、男子生徒が先に突っかかってきたとすれば「正当防衛に当たる可能性がある」と指摘する。

続けて「おそらく男子生徒と父親が異なることを供述しているのでしょう。犯罪が成立しない余地は残った事案です」(杉山弁護士)と、警察が男子生徒の言い分を信じて、父親の逮捕に至った可能性も示唆。

その上で、子どもがいじめられた際、親がやってはいけない1番の悪手が「相手方に接触すること」だと杉山弁護士は語る。

「本当にいじめをやっているなら、子どもであっても”卑劣”な相手です。ウソをついて相手の大人を罠にかけようとするリスクもあり、直接会って話すような場合には、伝える内容をよく選ぶ必要があります。

また過去には、子ども同士のトラブルを知った親が、事態の全容を理解しないままに相手生徒を自殺未遂にまで追い詰め、2億円近い賠償を命じられたこともありました(※)」(杉山弁護士)

※ 2017年、青森県八戸市の高等専門学校に通っていた男子生徒(当時17歳)が、男女交際を巡り同級生の父親から脅迫を受け、自殺を図って下半身不随になったとして、脅迫した同級生の父親と、同校を運営する国立高等専門学校機構などに約2億円の損害賠償を求めた訴訟。判決では、同級生の父親からメールで「告発する」と脅迫を受けたことが自殺を試みることにつながったと認定。高専についても、当時の学生主事が同級生の父親の話を一方的に信じたことも自殺未遂の大きな要因になったと判断した。同級生の父親は脅迫罪にも問われ、有罪が確定している。

子どもにいじめ被害の疑い…親はどうする?

いじめを受けている、トラブルに巻き込まれていると知った親が、わが子を助けるために相手側に自ら赴く…。そんな気持ちは理解できる人が多いのではないだろうか。しかし”勘違い”や、やりすぎてしまった場合、逆に自分が訴えられたり、逮捕されるリスクもある。

では、子どもからいじめの相談を受けた場合や、子どもの様子などからいじめを疑った時、親はどのように対応すればいいのだろうか。

杉山弁護士は「まずは子どもとよく話すこと」から始めるべきと話す。

「子どもは本当のことをいきなり全部は話さないものです。それに子どもがまず求めているのは、「報復」や「解決」より「家庭での安心」の場合もあります。

いじめを受けていても、家庭がセーフゾーンになっているなら、居場所を失うことはありません。子どもが本当に追い詰められるのは、学校と家庭、どちらでも安心できなくなった時です。安心できる環境を子どもの生活の中に設けることから始めましょう」(杉山弁護士)

「ネットいじめ」の認知件数は過去最多

文部科学省の調査によれば、令和2年におけるいじめの認知件数は全国で51万7163件。前年に比べ15・6%減少し、その理由については、新型コロナウイルス感染症の影響により生活環境が変化したことで「児童生徒の間の物理的な距離が広がったこと」などが挙げられている。

一方で、生活環境が変化したことにより「発見できていないいじめの可能性」も考えなければならないと文部科学省は指摘している。

同調査によれば、いじめの態様のうちSNSなどを用いた、いわゆる「ネットいじめ」の認知件数は過去最多の1万8870件となった。 匿名性が高く、外部から見えにくい「ネットいじめ」は、周囲の大人が気付きにくく、親や教師が気付いたころには事態が深刻化している例もある。

杉山弁護士は、改めてわが子のいじめを心配する保護者に提言する。

「いざとなれば学校は”行かない”という選択を取ることもできます。まずは家を子どもたちにとってのセーフゾーンにしてあげてください」。

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