ガスト店舗“迷惑駐車”にブチ切れは当然!? 「無断駐車」ドライバー側が心得ておくべき法律知識

中原 慶一

中原 慶一

ガスト店舗“迷惑駐車”にブチ切れは当然!?  「無断駐車」ドライバー側が心得ておくべき法律知識
無断駐車の"違反金”支払わなくてはダメ?(Ystudio/PIXTA)

8月に山梨県・富士急ハイランドで行われたアイドルグループ・櫻坂46のコンサート(ファンイベント)で、会場近くのファミリーレストラン「ガスト」が提示した、施設内の無断駐車を警告する看板に付けられた貼り紙がSNS上で話題となっている。

立て看板には「ライブの為の駐車は固くお断りします。ガストご利用の方の為の駐車場です」と書かれているが、その下部に手書きの文字で、こう記されている(文面ママ)。

「櫻坂46のファンへ

金曜はたくさんの無断駐車で営業妨害していただきありがとうござました笑

最低限のマナーすら守れない最低のファンが多くてとても素晴らしいグループですね笑

そんな程度の知れたグループに来年も来て欲しくはないので、富士急、運営に強く抗議する所存です

マナーも守れない人間には無駄かもしれませんが、無断駐車には貼り紙をしておきますのでよろしくお願いします

尚、本日は数台レッカーを呼ぶ事も考えておりますのでそのつもりで.」

書いたのは店の責任者だと思われるが、よほど違法駐車が腹に据えかねていたのか、かなり皮肉を込めた文面で怒りをあらわにしているのだ。

付近には、「無断駐車禁止 こちらはコンサートの駐車場ではありません。発見次第、レッカー移動させていただきます」と書かれた富士吉田警察署の捨て看板も設置されており、問題の根深さを感じさせる。

店舗の無断駐車は「威力業務妨害罪」にも?

このように店舗や施設を利用しないにもかかわらず「無断駐車」をすることは法的な問題も関係してくる。一般民事や交通事故などの対応も多いベリーベスト法律事務所鹿児島オフィスの野村茂雄弁護士はこう話す。

「店を利用しないのにその駐車場を利用するというのは、使う理由がないのだから、刑法でいえば、『住居侵入』、『建造物侵入』にあたり得ます。また、お店の人が『止めないでください』と再三言っているにもかかわらず、そのまま止め続ける、居座るということになれば、不退去罪の可能性(3年以下の懲役、10万円以下の罰金)もあり得ます。

さらに、無断駐車によって、店の従業員のクルマを動かせなくなった、あるいは他の作業ができなくなった場合には、威力業務妨害罪(3年以下の懲役、50万円以下の罰金)の可能性はなくはありません」

思った以上にがっつりと法律が関わってくるという訳だが、物議を醸しているのは、あまりにも挑発的でイヤミたっぷりの看板の文面。SNS上では、〈無断駐車はよくないけどガスト側の文章のあの書き方どうにかならんかったのか?〉〈なんかガストブチ切れてて草〉などの声が上がっている。野村弁護士が続ける。

「(無断駐車を)やめてほしいという気持ちがある場合、不服を表明するのはいいのですが、皮肉たっぷりなのはどうかなと思う部分はあります。普通に『迷惑している』、『止めてください』でいいと思います。最悪『警察に相談します』程度はありかもしれませんが…」

さらに、駐車しているクルマに貼り紙をする場合は、接着部分が取れないようなものを使用すれば、逆に「器物損壊罪」になり得るケースもあり、さらなるトラブルを生んでしまう恐れもあると言う。

「すぐに剝がせるようなものを使用するなど、クルマを傷つけない穏当な方法をとることが大切です。社会人として〝常識〟をもった振る舞いが求められます」(野村弁護士)

無断駐車「請求金額」の相場

ところで、特に都心部などでは、無断駐車をめぐるこうしたトラブルは、日常的に発生している。

有料のパーキングや店舗の駐車場で、「無断駐車は〇万円お支払いいただきます」などと言う看板や貼り紙はよく見かけるが、こうした文面には法的根拠はあるのか。

「『無断駐車は〇万円お支払いいただきます』の貼り紙があった上でクルマを止めたということであれば、民法527条【承諾の通知を必要としない場合における契約の成立時期】(申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する)を根拠に、支払いの義務が発生するということが可能性としてあります。

『お金を払う、払わない』という契約は、基本的に意志の合致がないといけないので、一方的に言っているだけではどうにもならない。ただ、それ『貼り紙』を分かった上で止めているのであれば、〝契約〟は成立していますよね、という判断です」(野村弁護士)

つまり、貼り紙を認識していたかどうかが分かれ目という訳だが、認識した上で無断駐車をしていたのなら、ゴネても無駄で、支払う義務は発生する可能性が高い。

しかし、さらに気になるのは、その金額について。「3万円」「5万円」「10万円」などと、それは土地管理者の言い値のような気もするのだが、そのあたりはどうなのか。野村弁護士は、「法律で〝いくらにしないとダメ〟と決められているわけではありませんが…」とした上で、こう続ける。

「違法なこと(無断駐車)をされた迷惑料という形で、通常の〇倍の料金というような慣例で決められるケースが多いのではないでしょうか。ただ、あまり請求金額を大きくしてしまうと、逆にそれは『暴利行為』ということで、公序良俗に反して無効だとされてしまう可能性もありますので、土地管理者側は、通常の駐車料金の3倍程度に収めておくのが無難かもしれません。

駐車した側でいうと、前述の契約が成立しているということを根拠に対応する必要があります。あまりに『暴利』であるならば契約は成立しないし、金額が法律で決まっている訳ではないので、3倍が高いと思えば、その場で交渉して、2倍~1.5倍位にまけてもらう、というのもひとつのやり方かもしれません」

違反金を「まけてもらう」のも手?(写真:弁護士JP)

「止めたい」場合は最低限のエチケットを

路上に違法駐車すれば、東京都の場合、普通車で1万8000円の「放置違反金」を取られる訳だが、無断駐車でそれ以上の支払い義務が発生してしまうケースも考えられる。

やはり基本は、「違法駐車」「迷惑駐車」はしないことが社会のルールだろう。野村弁護士が続ける。

「個人的には、私はその施設を利用しないのであればいくら無料であっても止めません。広くて、いくら止めても余裕がある大きさであれば話は別ですが。ある程度台数が決まっていて、お客さんの出入りが頻繁にあるような駐車場に止めるのはやはりモラル的にも問題があると考えます。

また、止める以上は『施設の利用』は大前提です。クルマを止めるには、人の土地を借りる必要がありますし、そのためにはお金がかかります。やはり、止めたいのであれば、それなりの金額分の買い物や食事をすれば良いだけの話です。

それとは別に、おなかが痛くなってトイレを借りたい、なんて場合も当然あるでしょう。私はそんな緊急事態時に利用する場合は、よほど急いでいない限り、ガムやペットボトルの飲料水などを必ず買います。

これは義務ではないですけれど、ものごとが円滑に進む考え方、気の持ち方のような気がします」

野村弁護士は、「結局、社会生活を送る上での『エチケット』『モラル』ということになりますよね。お店側、クルマを止める側も当然そのような意識を持っていれば、後味の悪いトラブルの発生は抑えることができるのではないかと思います」と結論づける。

双方が気持ちよく社会生活を送れるためにやはりこうした考え方は不可欠だろう。

翻って、駐車場の不足が予想されるイベント会場へは、面倒でも電車やバスの公共交通機関を利用することを考えたい。

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