三菱電機“凄惨パワハラ”自殺で和解も… 人間関係だけではない「ハラスメント」が起きやすい企業の特徴とは?

弁護士JP編集部

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三菱電機“凄惨パワハラ”自殺で和解も… 人間関係だけではない「ハラスメント」が起きやすい企業の特徴とは?
”教育主任”の上司から「自殺しろ」と言われていたことを書き残して亡くなった男性の遺書のコピー(8月26日/弁護士JP編集部撮影)

三菱電機で2019年に起きた男性新入社員の自殺をめぐり、同社が遺族に謝罪し解決金を支払うことで和解が成立したことが明らかになった。遺族の代理人である島﨑量弁護士と西川治弁護士が、8月26日に会見を行なった。

遺族代理人の嶋崎量弁護士と西川治弁護士(8月26日 霞が関/弁護士JP編集部)

男性は教育主任である上司から「次 同じ質問してわからんかったら殺すからな」「死んどいた方がいいんちゃう?」「自殺しろ」などと言われていたことをメモに書き残し、入社から4か月後に命を絶った。遺族は上司に対して自殺教唆の刑事罰を求めたが、2020年3月に嫌疑不十分で不起訴となっていた。

和解にあたり、三菱電機は上司のパワーハラスメントが自殺の原因だったことを認め、漆間啓社長が遺族に直接謝罪。その上で、全社員に対して少なくとも年に1度ハラスメント研修を受けさせるなど今後の再発防止に力をいれることを和解の同意書に盛り込んだ。

また同意書によれば、上司は過去にもパワハラを行っており、三菱電機は教育主任者に任命した責任、監督責任など安全配慮義務違反(法的責任)についても認めているという。

しかし代理人によると、上司への処分は”7日間の出席停止”だけだった。刑事訴訟と労災申請の対応中に三菱電機の内部だけで処分が下されていた。この点について遺族は納得していないが、「二重処罰の禁止」の原則に基づき更なる処分は求められない。

パワハラと検査不正は通底している!?

三菱電機では2012年以降、本件を含め6人の労災認定者、5人(うち1人は子会社社員)の自殺者を出している。

これら労働事件以外にも2021年6月には、長崎県の製作所で35年以上にわたって鉄道車両向けの空調機器の検査で不正が行われていたことが発覚。当時の杉山武史社長と柵山正樹会長が辞任した。

検査不正の調査委員会により今年5月までに調査された22拠点のうち、16の拠点で148件に及ぶ「品質不適切行為(不正)」が報告されている。

前出の遺族代理人弁護士は会見で、「”目先”の利益追求の延長線上でパワハラが起きていて、これは三菱電機でたくさん起きている不祥事と相通じるものだと思う」と同社の企業風土についても指摘。

「パワハラが人権侵害であることは子どもでもわかること。企業の経営者には『パワハラが”長期的”な利益や成果を生んでいるのか』を考えてほしい」(嶋崎弁護士)と訴えた。

『成果至上主義の会社』でパワハラが起こりやすい理由

事件の経緯を知り「いかに三菱電機が人材育成に重きをおいていなかったかが分かる」と憤るのは、特定社会保険労務士の野崎大輔氏だ。

日本労働教育総合研究所代表・野崎大輔氏

ハラスメント防止対策研修などを中小企業向けに行っている野崎氏は、多くの経営者や管理職との対話の中で、管理職が部下に対する「育成方法」や「指導法」を習ってこなかったことが、ハラスメントが起きる理由の一つではないかと考えるに至ったという。

野崎氏は研修開始時に「人材育成のやり方を習ったことがある人はいますか?」と質問し挙手を促すが、手を挙げる人はほぼいないと話す。 管理職らから「部下への適切な指導方法がわからない」といった声も多く出る。このような状況から、ハラスメント防止対策の研修の内容の「約7割は人材育成の話になる」(野崎氏)という。

「ハラスメントが起きやすい会社の特徴として『成果至上主義の会社』があります。そういう会社では”仕事で成果を上げた人”が管理職になりやすい。もちろん成果を上げることは、会社としては正しい。でも成果を上げる人が、マネジメントや人材育成ができるかどうかは別の話です」(野崎氏)。

教育担当者の”条件”

野崎氏がコンサルティングとして関わったものに、院長の指導方法が時としてパワーハラスメントと捉えられ、獣医師や看護師が定着しなかった動物病院の事例がある。野崎氏は院長と対話を重ね、『スタッフが働きやすい職場づくり』を築いていった。その結果、職場全体の雰囲気もスタッフの定着率も良くなり、売上も少しずつ伸びていったという。

これは中小企業の例だが、「指導する側」の意識の変化が働く人の意識も変え、職場の「風土」にも影響をもたらしたケースのひとつだ。

野崎氏はこれまでの経験から、三菱電機の対応に疑問を呈する。

「過去にパワハラ行為をしていた人に”教育”を担当させるなんて、問題を軽視しているとしか思えませんね」(野崎氏)

「大企業であれば、教育担当者には仕事ができるだけでなく人格も備わっている人材を据えることが多い」と野崎氏は続ける。「ハラスメントが起きないようにするには単なるハラスメントのリスクについて伝える内容の研修をやっても本質的な解決に繋がりません。それよりも日ごろから上司と部下が良い関係性を築けているかが大事なのです」(野崎氏)

パワハラ体質企業の見極め方

就職・転職活動をしている人にとって、入社前に企業のパワハラ体質を見極めたいという思いは切実だろう。

野崎氏は入社前にハラスメントの有無などを見極めるのは難しいとしながらも、「企業名で検索して何か悪い内容の記事が出ていないかを調べたり、転職サイトなどで社員の声を見たりすると参考になることもあるかもしれません」と言う。

「人が会社を辞める原因は人間関係が多い(特に上司との人間関係)。社員の離職率の高い職場は、ハラスメントとまでいわずとも何らかの問題を抱えている可能性があります」(野崎氏)

厚生労働省が満15~34歳の労働者を対象に行った「若年者雇用実態調査の概況」(平成30年)によれば、勤続1年未満で初めて勤務した会社をやめた人の約40%が、離職原因に「人間関係がよくなかった」ことを挙げている。

また同調査で、総数として「人間関係」をしのぎ、もっとも多かった理由が「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」である。

厚生労働省「平成30年若年者雇用実態調査の概況」より(※編集部で加工)

野崎氏は「長時間労働を美徳とする社風」もパワハラとの親和性が高いと指摘。その上で「昔のやり方を踏襲している会社は、”ガラパゴス”のようにそこで生息できる人しか残らず、ますます会社に新しい人が定着しなくなります。会社の良い部分を残すことも大事ですが、時代に合わせて変えていくことも企業の発展には必要です」と企業風土の改革についても提言する。

三菱電機は変わることができるのか

昨年創業100周年を迎えた三菱電機。記念して発表されたグループソング『Changes for the Better ー もっと素晴らしい明日へ』では、変化の大切さが歌われている。

〈Change すべての
想い あつめて
明日へと
Changes for the Better

変えてゆく
その一歩が
未来になる〉

繰り返された労働問題と不正。三菱電機は自ら”変わり”、未来を築くことができるのだろうか。

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