元「クリスタルキング」メンバーが炎上… 「マスクなし客の入店拒否」は店側の“強要罪”にあたる?

中原 慶一

中原 慶一

元「クリスタルキング」メンバーが炎上…  「マスクなし客の入店拒否」は店側の“強要罪”にあたる?
「マスク着用」は“義務”ではないが…(Graphs/PIXTA)

『大都会』などのヒット曲で知られる元「クリスタルキング」の田中昌之氏(71)が、カフェの店員にマスクをせずに入店しようとしたことを注意された際のやりとりをツイッター上で公開したことが話題となっている。

田中氏は、あるカフェに入店しようと店の外で並んで待っていたところ、店員からマスク着用を求められたと言う。8月20日、その時の様子を、店の外観写真とともに3回に分けて、こうツイートした。

(以下本人のツイッターより=原文ママ)

〈先一昨日喉が渇いたのでこの店に入ろうと並んでいた。
店員「マスクして下さい」
俺「入る時に着けるね」
店員「困りますマスクして並んで下さい、でなければ入店お断りします!」
俺「それって強要罪何ちゃらとちゃう」
店員「お客様、圧が強すぎます」
俺「はぁ〜君は見かけで判断してんの」
続く〉

〈俺「わかった、ただこの経緯はオモロイからSNSにアップするワ、素敵なネタありがとネ」
と言ったら店員「申し訳ありません、お詫び申し上げます。」
俺「君が僕に言った、『圧が強すぎますしたがって入店お断りします。』
は十分に名誉毀損にあたるんとちゃう」
ほなけたクソ悪いから他を当たるワ〉

〈ホンマに頭にきたら冷静になれるのかなw
僕って言うてしもうたやんw
近々このマスク着けてこの店に行って見ようかw〉

最後のツイートには、ガスマスクの写真も添付されている。

店員とのやりとりをツイッター上でさらした一連の投稿には、各2000件以上の「いいね」が付けられている一方で、「いい大人の行動?」「立派な老害になっていて悲しい」「その店のルールを守れない方はお客様ではありません」などと、批判的なリプライが相次ぎ、さらに田中氏が反論するなどして“炎上”した。

田中氏のツイートには賛否のリプライが連なった

『マスクをしないと入店できない』を無視した客は…

コロナ禍から3年。マスク着用をめぐっては、たびたびこの手の騒動が世間の耳目を集めてきた。

20年2月には、ホリエモンこと実業家の堀江貴文氏が広島県にあるギョーザ店に訪れた際、連れの中にマスクとしていない人がいて店主とトラブルに。堀江氏がツイッターでそれを批判的に書いたことで、店は休業に追い込まれた。

同年9月には、元大学教員の男性が、釧路発関西空港行きのピーチ・アビエーションの機内で、マスク着用を求められたが拒否。客室乗務員の腕をねじり上げるなどの暴行を加えてけがをさせた上、飛行機を緊急着陸させたとしてトラブルになっている。

今回の騒動について、現場の状況は分からないものの、気になるのは、田中氏がツイッターの書き込みの中で、「強要罪」「名誉毀損」と言った罪名を持ち出して反論していることだ。

犯罪や刑事事件の対応も多い杉山大介弁護士はこう話す。

「詳細な状況はわかりませんが、一般に、『マスクをしないと入店できない』、『並んでいる間もマスクをしていないと入店を拒否する』は強要罪には当たりません。刑法223条によれば、強要罪は“相手の生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害すること”を指します。

店の方針を無視して入店しようとする客に、飲食の提供を受ける権利はありません。そして飲食を提供する義務もありません。したがって、強要罪は成立しません。逆に、ごねて騒ぎ立てて、無理やり飲食を提供させようとしたら、強要罪になり得ます」

杉山弁護士は、強要罪を問われる例として、新型コロナウイルスのPCR検査を断った医師を脅して、無理やり、検査をさせ、強要未遂の疑いで逮捕された例もあったと話す。

気持ちを害された場合でも「名誉毀損」にあたらない

一般的に、飲食店やスーパー、家電量販店などで、来客に対してマスクを着用していないことを理由に入店拒否することは違法ではないとされている。店側には一定の範囲で契約をする相手・客を選ぶ自由があるとされているからだ。

「このカフェが入っていたショッピングモール自体が、客に“マスク着用”を呼びかけていたとすれば、カフェへの入店を待っている間もマスク着用を要請することも違法ではありません。田中氏の過去のツイートを見てみると、元々“ノーマスク”“反ワクチン”の考えを持っていたようですから、店員の物言いがカンに障ったのでしょう」(夕刊紙芸能記者)

田中氏は「君が僕に言った、『圧が強すぎます したがって入店お断りします。』は十分に名誉毀損にあたるんとちゃう」と書いているが、店員のこの発言は、実際、「名誉毀損」にあたる可能性はあるのか。前出の杉山弁護士の話。

「名誉毀損にはあたりませんね。名誉毀損は、“事実を摘示して社会的評価を毀損する行為”を指します。このように、単に気持ちを害された場合は、法律用語では、『名誉感情』と言います」

しかし、本人が主観的に名誉感情を害されたと感じても、必ずしも保護を受けられるとは限らないようだ。理由は、名誉感情をそのまま保護すると、プライドが高い人ほど強い保護を受けられるという不公平な事態が起こり得るから。したがって、単に「名誉感情を侵害された」ことを理由に損害賠償請求や刑事告訴をすることは難しいという。

「お客様は神様ではない」

一方、店側は、店のルールに従わず、田中氏のように、SNSなどにその様子(店員の注意など)を“さらす”客に対して、何らの法的対抗措置をとることは可能なのか。

「店側には、出ていってもらう自由があるし、お客側にも、追い出されて文句を言う自由があるのが原則です。ただし、うそを書き込まれた場合には、自由ではなく違法な領域に入ってきます」(杉山弁護士)

こうしたトラブルについて、杉山弁護士は続ける。

「お客様は神様ではない、人間です。とはいえマスク関係は、時に防疫的な話ではなく、雰囲気での圧力のような話もあり、この件に限れば、世論が店に味方したことでケリが付いているとも思います。

この話とは別ですが、SNS上でのトラブルといえば、最近、『熱海のあっつん』氏が受けている自由の限度を超えた明白な業務妨害(※編集部注=熱海の居酒屋経営者とされる男性が『温泉むすめ』というキャラクターとコラボした際、ファンに苦言を呈したことを端緒としてネット上で執拗(しつよう)に攻撃されている件)などにも注目しています。

こうした事案も含め、SNS上でのやり取りに対して、複数の摘発される事例が起きてくれば、書き込む際のよい教訓になると見守っています」

いずれにせよ、マスク着用をめぐる意見の対立やトラブルには世間もいささか食傷気味。早く誰もが迷いなくノーマスクでいられる日常が戻ることを願わずにはいられない。

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