秋でも室温“50℃以上”… 「子どもの車内放置」窓ガラスを割って救出したら“逮捕”?

弁護士JP編集部

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秋でも室温“50℃以上”…  「子どもの車内放置」窓ガラスを割って救出したら“逮捕”?
「車内放置」を見かけとき、とるべき行動とは…?(チータン.C / PIXTA)

今年の夏も、「子どもやペットの車内放置」に関する事件が多く発生した。中でも、7月末に神奈川県厚木市で、21歳の母親に置き去りにされた幼い姉弟が熱中症で死亡した事件は大きく報道され、心を痛めた人も多いだろう。

親の“うっかり”で子どもが死亡

車内放置は、「少しの間なら…」と故意に置き去りするケースばかりではない。自動車内装部品などを扱う専門商社「三洋貿易」が今年5月に「子どももしくは孫を乗せたことがあるドライバー」2652人を対象に実施した調査によると、約3割にあたる768人が「子どもを残したまま車を離れたことがある」と回答。そのうち18人は、子どもを車内に残していることを認識していなかったという。

実際、親の“うっかり”によって子どもが車内に取り残され、死亡した事件は過去に何度も発生している。

  • 2022年5月25日、新潟県新潟市
    1歳5カ月の男児が約3時間の車内放置の末、熱中症で死亡した。父親は出勤途中で保育園に預け忘れ、コンビニに昼食を買いに行く際、すでに意識のない男児に気が付いたという。
  • 2020年6月17日、茨城県つくば市
    父親は8歳の長女を小学校に送った後、2歳の次女を保育園に預け忘れて帰宅し、そのまま在宅勤務を開始。約7時間後、長女を迎えに行った際に車内でぐったりしている次女に気付き病院へ搬送したものの、死亡が確認された。
  • 2018年8月3日、長崎県波佐見町
    30代の夫婦が外出後、1歳の女児を後部座席から降ろし忘れた。その後、女児を見つけた家族が「車の中で息をしていない」と119番したが、すでに心肺停止しており、搬送先の病院で死亡した。
  • 2017年8月2日、宮城県仙台市
    車で外出した祖母が、車内に3歳の孫を残していることを失念。約5時間後に気が付き119番したものの、搬送先の病院で死亡した。

秋でも車内温度「50℃以上」になる

JAFの検証テストによると、コンビニやスーパーなどの駐車場で子どもを車内放置した場合を想定し、気温35℃の炎天下で車のエンジンを停止したところ、車内の熱中症指数はわずか15分で危険レベルに達したという。

また、過ごしやすくなってくるこれからの季節も、決して油断はできない。

JAFが10月に行った検証テストでは、気温26.8℃、湿度44%の気候条件でエアコンを使い車内を適温(25℃程度)にした後、エンジンを停止し閉め切った状態で放置したところ、約1時間後には車内温度が50℃を超えたという。

JAFは「たとえ数分であっても、車内に幼い子どもを残すことは絶対にしないように心がけてください」と警鐘を鳴らしている。

「救出のため」なら他人の車の窓ガラスを割ってOK?

もし子どもやペットの車内放置を見かけた場合、一刻も早い救出が必要だ。しかし、いくら善意とはいえ、他人の車の窓ガラスを割ったり、ドアなどを無理やりこじ開けることに法的問題はないのだろうか。自身も小さな子どもを育てる遠藤知穂弁護士に聞いた。

まず、子どもやペットの車内放置は何罪にあたるのでしょうか?

遠藤弁護士:子どもを車内に放置した場合、保護責任者遺棄致死罪か重過失致死罪が成立する可能性があります。このどちらが成立するかは、車に子どもを残すことを認識していたのか(うっかり置き忘れてしまったのか)などの事情によって決まります。

ペットの場合は「動物の愛護及び管理に関する法律」第44条3項の罪(愛護動物の遺棄)が成立する可能性があると思います。ただし、これには「遺棄した」という認識が必要なので、「乗せていることをうっかり忘れてしまった」という場合には成立しません。

もし車内放置を目撃し、救出のため勝手に他人の車のドアをこじ開けたり、窓を割ったりした場合、罪に問われる可能性はありますか?

遠藤弁護士:子どもは大人に比べて熱中症になるリスクが高いことから、真夏に車内に放置された子どもを見つけた際、車のドアをこじ開けたり、窓を割ったりする前に119番や110番通報をしたという場合は、罪に問われる可能性は考えにくいと言えます。

刑法上、車のドアをこじ開けたり、窓を割ったりすることは、器物損壊罪(刑法第261条)が成立し得る行為です。ただし、刑法には第37条1項「緊急避難」が規定されており、これが成立する場合は罰しないとされています。

  • 緊急避難(第37条1項)
    自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

上記の要件を車内放置を発見した状況に当てはめると、

  • ①「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため」
    →子どもやペットが炎天下に車内放置されているという状態は、「他人の生命、身体、財産に対して危難が及んでいる」状態と言えます。
  • ②「やむを得ずにした行為」
    →救出のために車のドアをこじ開けたり、窓を割ったりする行為が「やむを得ずにした行為」と言えるかは、まずは「大声で車の持ち主を呼ぶ」「119番や110番通報をする」といった行為を先にしているかが重要だと考えられます。こういった行為をせずにすぐに車のドアをこじ開けたり、窓を割ったりすると、「やむを得ない」と評価されない可能性があります。ただし、瀕死の状態で一刻を争うという場合には、そういう行為を先行している暇がないということもあり得るでしょうから、ここはケースバイケースと言えます。
  • ③「これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった」
    →避けようとした害(熱中症によって人の生命や身体に生じること)が、これによって生じた害(車のドアをこじ開けたり窓を割ったりすることで車に傷がつくこと)よりも程度が重いことは明白ですから、この要件も満たすでしょう。

助けようとしたのがペットだった場合はどうでしょうか?

遠藤弁護士:一般的な感覚としては、ペットの生命もとても貴重なものであって守らなければならないと思います。しかしながら、少なくとも刑法の中では、ペットは「財産」として考えられます。

そのため、「ペットという財産について生じる害」と「車のドアをこじ開けたり窓を割ったりすることによる害」とでどちらが重いかというのは程度問題であって、一律に考えられるものではないと思われます。

よって、ペットの場合は炎天下であったとしても、罪に問われる可能性はあると言わざるを得ません(この場合は過剰避難として、情状によって減刑、免除されます〈刑法第37条1項但書〉)。

車が傷ついてしまったことよりも、子どもやペットを助けたことに車の持ち主が感謝をしていた場合は、どうでしょうか?

遠藤弁護士:子どもの場合でもペットの場合でもですが、器物損壊罪は「親告罪」です。被害者の告訴、つまり処罰を求める意思表示がなされなければ罪には問われません。したがって、車の所有者が告訴をしなければ、器物損壊罪には問われません。

子どもやペットが車内に放置されていると、炎天下の場合は数分で亡くなってしまうこともあるように聞きます。法的リスクを避けるという視点では、まずは大きな声で車の持ち主を呼びつつ、すぐに119番、110番をして、救急車や警察を呼ぶことが重要です。しかし一刻を争う状況であれば、車のドアをこじ開けたり、窓を割ることも検討する必要があるのではないかと思います。

取材協力弁護士

遠藤 知穂 弁護士

遠藤 知穂 弁護士

所属: ベリーベスト法律事務所

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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