「川遊び」の事故は原則“自己責任”の無情…「下流側に立つ」水難リスク回避の“見落としがち”な基礎知識

弁護士JP編集部

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「川遊び」の事故は原則“自己責任”の無情…「下流側に立つ」水難リスク回避の“見落としがち”な基礎知識
大人であっても流されるリスクが河川には潜んでいる(※写真はイメージです アオサン/PIXTA)

夏のレジャーといえば、海や川といった水辺が定番人気だ。自然の中で水遊びができる海や川は、密を避け開放的な気持ちで楽しめることもあり、お盆以降も遊びに行く予定を立てている人もいるだろう。

しかし、自然の水辺には危険が潜み、毎年水難事故があとを絶たない。

子どもの水難死亡事故は「海」よりも「川」で多く発生

水難事故と聞くと海で溺れるというイメージが湧くが、警視庁の統計によれば、水難事故で死者・行方不明者となった子どものうち、遊んでいた場所が「河川」であったケースが5割以上にのぼる。

警察庁「令和3年における水難の概況」より(青マーカー部は編集部による加工)

河川に関する調査・研究や教育などを行う「公益財団法人 河川財団」の菅原一成氏によると、「河川は一見すると浅そうで穏やかそうでも、急な深みがあったり、流れが速かったり、普段よりも増水して水量が多いなどの場合もある。

浅くても流れが速いと、大人でも足をとられて流されてしまうことがあります。また、河川構造物の近くなどでは、複雑な方向の流れや急な深み等生じることもあります」と普段は意識することの少ない河川の怖さについて話す。

「溺水」リスクを大きく軽減するツールとは?

そんな水難事故を防ぐために河川財団が強く推奨しているのが「ライフジャケット」の着用だ。

人は浮かびにくく、水の中では呼吸ができないという弱点がある。ましてや、流れのある川では、一度足をとられ流されると自力で浮くこと自体が難しい。ライフジャケットを着用することで、頭部が水面から出せるため呼吸ができ、助けを呼ぶこともできる。ライフジャケットを着用することで溺水のリスクを大きく軽減することができる。

「たとえ川に入らなくても、転落などの恐れがあるため水際に近づく際には身に着けておくと安心です」(菅原氏)。

また、水に浮く素材のロープが収納された「スローロープ」(スローバックともいう)の携帯も推奨している。

要救助者(溺れている人)に向かって投げ、ロープをつかませ、岸に引き寄せる救助道具だ。

「河川財団「水辺の安全ハンドブック」(2020年Web版)より」

ただしロープを扱う場合には知識も必要という。「流れが速い場合など、ロープがピンとなった瞬間に要救助者に強力な水の力がかかる。その場合投げた人(救助しようとする人)が川に引きずり込まれてしまいかねない。そのため、ロープを手に巻き付けないようにし、もしものときには”手放せるよう”にするなど、知識も必要です」(菅原氏)。

「溺れている人」を発見した際にまずすべきこと

溺れている人を助けようとして、自身も溺れてしまう「2次被害」で犠牲になった人も警察庁の統計データに記録されている。

警察庁「令和3年における水難の概況」より(河川に限らず、海等での事故も含めた総数/青マーカー部は編集部による加工)

河川で溺れている人を、飛び込んで救助しに行く注意点について菅原氏は次のように語る。

「(救助を)やってはいけない訳ではありません。ただし、救助しようとする方が『ライフジャケット』を着けていて、『泳力』があり、『川の流れの知識』があることが前提です。その上で、救助した人をどうやって安全なところまで移動させるかというところまで理解し行う必要があります」。

溺れた人を発見した場合、誰でも簡単にできることは「声をかけること」だと続ける。

「溺れてる人は目線が水面で視界が狭くなっています。岸にいる人の方が視界が広いため、たとえば『その先に流れがゆるやかになる場所があるよ』というように情報をあたえるなどして、まずは少しでも落ち着かせてあげてください」(菅原氏)。

また、事故を未然に防ぐため、たとえば親子で川遊びをする際などは、”場所選び”と”親が下流側に立つこと”を徹底してほしいという。

「1秒間に1メートルの流速だとすれば、基本的には10秒間に10メートルも流されてしまう。いざ助けようとしても、親が上流側にいると追いつかないことがあります。『子どもよりも下流側』にいれば、自分のところでキャッチできます。

もちろん自分が流される可能性や、救助できない場合も考えて、さらに下流側にゆるやかな場所があるかどうかなど活動場所を見極めて遊ぶようにしてほしいです」(菅原氏)

河川の事故は原則”自己責任”の理由

川を管理しているのは都道府県や市町村などの行政だが、事故が起きた場合、原則として利用していた人の”自己責任”になる。

国土交通省「河川の管理区分について」より

町役場での勤務経験がある河合淳志弁護士も、河川での水難事故において行政の責任を問うことは「かなり難しい」という。

その理由について、「たとえば道路が陥没してしまって危険な場合などには、行政は直ちに道路を通行止めにできますし、対応をしなかった場合は責任を問われますが、『自然公物』である河川の流れは止められず、行政ができることにも限界があります」として、「人工公物」と「自然公物」では、事故時の責任の所在が異なることを説明する。

では、どのような場合であれば行政の責任になるのだろうか。

「『台風や大雨など増水が予想される際に勧告していなかった場合』や、『危険箇所を知らせる看板の設置を怠っていた』など、行政が本来できることをやっていなかった場合には、裁判所も行政の責任を認めるのではないかと思います」(河合弁護士)

しかし、予想外の事態である地震やゲリラ豪雨などが誘発した事故は、やはり自己責任になる可能性が高いという。

水に入ることにはリスクが伴う

前出の河川財団・菅原氏も「川は基本的には”自由使用”です。だからこそ事故に遭わないように準備するのは、それぞれの責任で行うことが必要だと考えています」と話す。

「川には流れがあって、天然のウオータースライダーのような岩場もあり、ラフティングやカヌーなども楽しめます。でも、流れがあるからこそ、リスクもある。それに川に限らず、水に入るというだけでリスクはあるんですよね。

水辺で遊ぶ際にはリスクを認識したうえで、ライフジャケット等の装備と活動の心得を持ち、情報をうまく使って楽しんでいただきたいと思っています」(菅原氏)

水辺の安全ハンドブック(河川財団)

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