大手ヨガスタジオに「不当労働行為」申し立て。インストラクターが訴える"理不尽”な仕打ちとは

弁護士JP編集部

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大手ヨガスタジオに「不当労働行為」申し立て。インストラクターが訴える"理不尽”な仕打ちとは
ヨガは”健康”や”幸せ”につながると言われているが…(プラナ/PIXTA)

スポーツジムや専門のスタジオで多くのクラスが開かれている「ヨガ」。瞑想などが中心の宗教的行法として、古代インドで発祥したと言われ多くの流派が存在するが、現代では気軽に行えるエクササイズとして広く親しまれている。

女優やモデル、アナウンサーなどが趣味として挙げることも多く、華やかなイメージを持っている人も多いのではないだろうか。しかし華やかさの裏で、生徒に指導する”インストラクター”がスタジオに対し”不当労働行為の申し立て”を行っている実態があった。

名ばかり「業務委託」の実態も

ヨガインストラクターに国家資格はないが、もっとも有名な「全米ヨガアライアンス」やインド政府認定資格のほか、国内の社団法人などが設けた資格や、各スクールが創設したものなど、大小さまざまな民間資格がある。各ヨガスタジオでは資格の有無と併せ、オーディションを行い講師として契約するかを見極めて採用している。

インストラクターの多くは「フリーランス」として、スタジオやジムと業務委託契約などを結びクラスを担当しているのが一般的だ。大手ヨガスタジオ「スタジオヨギー」でも、インストラクターのほとんどが業務委託として働いているという。

しかし同スタジオでは、“マニュアルに沿った接客を求められる”など業務委託というより労働者的な立場だとし、権利拡充のためインストラクターらが会社と交渉を行う「yoggyインストラクターユニオン」が2019年に発足した。

個人として委託された仕事を行う「業務委託」をめぐっては、本来対等の関係である事業者とフリーランスの間に主従関係が生まれ、事業者が「優越的地位の濫用(※)」を行うケースも問題視されている。

(※)報酬の支払い遅延や減額、一方的な発注取り消しなど事業者が優越的な地位を利用し、フリーランスに不当に不利益を与えること。

お金を払わなければ「受け持ちクラス」がなくなる理不尽

また、同スタジオはインストラクターらに有料の独自資格取得を義務付けていた。

独自資格は、インストラクターを目指す人向けに同スタジオが主催する「指導者養成コース」を修了した人に与えられ、すでに働いているインストラクターには、希望があれば資格を与えていた。しかし2019年に、すべてのインストラクターに対し、指導内容の統一を理由に有料研修を受講することと1年ごとの資格更新料を支払うことを義務付けた。

ユニオンの副執行委員長を務める金子まゆ美さんは、自身は「ピラティス」などのヨガ以外のクラスを担当していたため資格取得の強制はなかったというが、「社員から『更新料を払わなければクラスを続けられなくなる』と言われた」インストラクターからの相談もあったという。

「資格があってもレッスンの報酬が上がる訳でもなければ、スタジオ内での仕事の保障をするものでもありません。それなのに金銭を徴収されるのであれば、遠回しに報酬の減額です。またフリーランスとして働く人たちの不安な気持ちを利用して更新料をとることに疑問を感じました」(金子さん)。

ユニオンとして「資格取得の実質的な強制」を改善するようスタジオに求めたが、「昔からの流派(のヨガ)を担当しているインストラクターなどは認定がなくてもクラスを受け持っている。だから強制していないし、認定をとらなくてもクラスを受け持てるというのが会社の言い分でした」(金子さん)。

不当労働行為を申し立てた理由

さらに、交渉を持ち掛けたところ、金子さんらユニオンの組合員であることを会社に明かしていた4名だけが、スタジオから受け持ちのクラスを減らされるようになったという。

そこに新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言が重なり、スタジオが休校になった。フリーランスとして1クラスに対する報酬で働く金子さんらにとっては大きな痛手だった。

宣言が明け、スタジオは徐々にクラスを再開。しかし、金子さんら組合員4名が受け持っていたクラスは「混乱に乗じて」(金子さん)すべてなくなっていた。

組合員であることを会社に明かしていない他のメンバーは、元のクラスを受け持つことができたという。

労働組合を組織することは、日本国憲法28条で保障されている。また、労働組合法では、「組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取扱い」を不当労働行為として禁じている。

会社と雇用関係にないフリーランスであっても、労働者であること(労働者性)が認められるケースがあり、認められれば労働関係法令の保護を受ける。

ユニオンの代理人を勤める川上資人弁護士は「金子さんらのケースにおいて労働組合法上の『労働者性』に疑いの余地はない」 として、現在金子さんらと共に労働委員会に「不当労働行為の申し立て」を行っている。

フリーランスユニオン設立記者会見で発言する川上資人弁護士(5月26日 霞が関/弁護士JP編集部)

「”働きやすいいい会社にしたい”という思いが届かなかった」

組合員差別の「不当労働行為」を申し立ててから、すでに1年ほど調査が重ねられている。5月にも審問があり、金子さんらは「今年中には命令(救済または棄却)が出るのではないか」と聞かされているという。

金子さんは「スタジオとインストラクターの関係がフラットになれば、もっと働きやすいいい会社になるという思いからユニオンを作ったのですが、スタジオ側が組合員を差別し、それがうまく行かなかったのはすごく残念です」と申し立てまで至ったことに落胆の色をのぞかせる。

今後については、「スタジオヨギーは業界の中では大きな会社なので、業界内でのいい見本になっていくことを望んでいました。今からでも、ぜひそうなってほしい」と期待を寄せつつ、「業界としても、いいインストラクターを育て、愛好者を増やして、ヨガが教えているような”健康”や”幸せ”といった精神性を体現できるような業界になってほしいと考えています」と語った。

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