廃墟“探索”でも即逮捕? お化けより怖い「無断侵入」のリスクとは

弁護士JP編集部

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廃墟“探索”でも即逮捕? お化けより怖い「無断侵入」のリスクとは
老朽化した廃墟は「危険」と知りながらも侵入者は後を絶たない(jinf/PIXTA)

暑い日に肝を冷やして涼をとる…。夏の風物詩とも言える”肝試し”や怖い話”は動画配信サイトでも人気を集めており、怪談披露の動画や、心霊現象を映し出したゾッとできる動画が多く公開されている。

また心霊スポットとなっている「廃墟」を紹介する動画もあり、これら投稿者は”廃墟系ユーチューバー”などと呼ばれて人気を集めている。

しかし、撮影や肝試しにと面白半分で私有地へ無断で入ると逮捕される可能性もあるため注意が必要だ。

逮捕されたユーチューバー

実際に今年3月、福岡県の心霊スポットと呼ばれる廃墟に無断で立ち入ったとし、ユーチューバー「貧乏中年TV」のメンバーが建造物侵入容疑で逮捕される事件が発生した。

「貧乏中年TV」が後日投稿した謝罪動画によると、動画を投稿した翌週に警察から連絡があり、任意での事情聴取を受けたという。その後も警察の訪問や連絡があったが、撮影のため家をあけていた期間で、圏外で電話にも出られなかったため「事件に巻き込まれているのではないか」という理由で逮捕状が請求されたという。

心霊スポットには「幽霊以外」立ち入り禁止(岡山県警察Twitterより)

他人の敷地への不法侵入は「住居侵入罪」「建造物侵入罪」として逮捕され、懲役3年以下または10万円以下の罰金が科される可能性がある。あるいは「軽犯罪」とみなされ、拘留または科料という場合もある。

しかし、刑事事件の対応も多い杉山大介弁護士は、「逮捕とは罪証隠滅と逃亡を防ぐために行われるもので、侵入罪において逮捕する必要はあまり考えられないです」とし、「貧乏中年TV」メンバーの場合は、事情聴取後の連絡に応じられなかったことで逮捕まで至ってしまったのではないかと指摘した。

その上で、量刑の決め方においては「どのような経緯で行為に至っているかは、重要な要素のひとつ」だといい、「営利の手段になると認識して行っているのであれば、犯罪行為との親和性は高く、刑として重く評価される要素になり得る」(杉山弁護士)と説明。

廃墟の撮影をしたい場合は、「敷地の外から見える部分について撮影をするのは差し支えないでしょうが、それだと投稿者が満足するような映像にはならない気がします。きっちり許可を取って撮影するのがオススメです」(杉山弁護士)。

しかし、廃墟が危険な理由は、不法侵入での逮捕のリスクだけではない。

不法侵入時に床が抜けて怪我を負っても……

今年3月、岡山県警は県内の廃墟で不法侵入が相次いでいるとして立ち入り禁止を呼び掛けた際、「侵入者が別の事故・事件に巻き込まれる可能性があります」と注意を促した。

三重県では2019年に廃墟での死亡事故も起きている。18歳(当時)の男性が仲間らと探索のために廃墟を訪れ、明かりがない中で2階に上がったものの、ドアを開けたところに床がなく1階に落ちて亡くなった。

廃墟の多くは老朽化しており、怪我や事故のリスクも高い。不法侵入時に床が抜ける・上から物が落ちてくるなどで怪我を負った場合、廃墟の所有者に法的責任を問うことはできるのだろうか。

杉山弁護士によれば、「工作物に瑕疵があったことによる被害について損害賠償責任を生じさせる法律はあります。しかし、不法侵入してきた人に対する損害だと、物の瑕疵だけでなく他人の違法行為が介在して損害が生じているので、(廃墟の所有者が)法的責任を負うということにはならないでしょう」と、あくまでもケガなどは侵入者の自己責任になる可能性の高さを説明する。

ささいなケガであれば「肝試しの勲章」として笑い話で済むかもしれないが、悲劇を起こしては元も子もない。

廃墟の立ち入りが禁止されているのは、「危険」だからに他ならないと”肝”に銘じるべきだろう。

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